横山小寿々

作家|「奇跡を、生きている」青春出版社|古妻による古妻日記です|ME/CFS| 『陽向…

横山小寿々

作家|「奇跡を、生きている」青春出版社|古妻による古妻日記です|ME/CFS| 『陽向晃央』名義で夫と一緒に小説を執筆|恋愛偏差値迷走中~恋のマッスルパンケーキ~がコミカライズされました☆https://www.amazon.co.jp/dp/4413232763

マガジン

  • 小説 「私を 想って」

    高校二年生の鮎沢鞠毛(あゆさわ まりも)は自分の名前について悩んでいた。 でも、不器用な性格もあって相談できる友達はいない。   父、正臣(まさおみ)の再婚相手の涼花(りょうか)と認知症の和(かず)と暮らしはじめることになった矢先、父が家からいなくなってしまう。  父が失踪してから一ヶ月がたった夏休みの前夜、少し気になっていたクラスメイトの山中篤人(やまなか あつと)から 「おじさんの失踪を一緒に探そう」と言われたのだが、 どうしても乗る気になれない。 そんな中、「あいつが息子を殺したんだ」と和が暴れ出す。 新しい環境、父の失踪、気になる人に素直になれない自分。 生きづらさを感じながらも、自分の居場所を探していく――。

  • 心ぽかぽか感謝です

    大好きな方々から愛のこもったお言葉をいただいた記事です。感謝の気持ちいっぱいです!大切に何度も読んで元気や笑顔をいただいていますー!

  • ご紹介、感想文をありがとうございます!

    「奇跡を、生きている」について ご紹介や、心のこもった感想文を書いていただき とっても嬉しいです! 感謝の気持ちいっぱいです! ありがとうございます。

  • 短い物語たち

    短編小説、ショートショートなど 短い物語をまとめてあります

  • 劇団横山

    stand.fmで放送中の「劇団横山のChottoタメにならない話」や劇団横山のインスタグラムなど、劇団横山に関することをまとめていきたいと思います!!

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固定された記事

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「私、今生きてるなぁ。」 思わず呟いてしまった今日この頃です。 数ヶ月前、病状が酷く 「これ以上生きていても家族に迷惑かけるから死んだ方がいい」 きっぱり、迷いな…

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私を 想って 最終話

「お茶でも飲みましょうか」  涼花さんがリビングにお茶の用意をしてくれた。三人で静かにお茶を飲む。なんだか照れくさいような変な感じがするけど、ホッとした気持ちも…

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20時間前
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私を 想って 第二十話

「もう風邪大丈夫か?」  いつものようにキッチンで篤人が西瓜を食べている。 「一週間? もっとだっけ?」  寧々は丁寧に西瓜の種をスプーンでとっていた。  二人…

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 その後、涼花さんは和さんに気に入られて、無事結婚した。念願のハーブ園を作り、バイパス沿いの店舗を改築し、カフェをオープンさせた。その頃の仁史さんの体調は、順調…

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2週間前
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私を 想って 第十三話

 車は置いてあるが、涼花さんは畑に出ているのか、家の中にはいなかった。  悪いことをしているわけではないのに、私は忍び足で父の部屋へ向かい扉の前で深呼吸する。こ…

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私を 想って 第十二話

 和さんが倒れたあの日以来、涼花さんと一緒に食事をとっていない。顔を合わせて挨拶するくらいだが、ご飯の用意はしっかりしてくれていた。  何かと忙しそうな涼花さん…

横山小寿々
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私を 想って 第十一話

 田舎のひっそりとした神社のお祭りにしては、盛大で豪華なものだった。階段の下から見上げたことしかなかったから、境内が予想以上に広く立派なことに驚いた。  夜店も…

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笑顔の軌跡は続いていく

まるでタイムスリップしたかのように 一瞬のうちに過去の記憶がよみがえる。 写真を手にとり眺めるといつもそう思う。 私は子供の頃から写真を撮るのが 大好きだった。 こ…

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私を 想って 第十話

 篤人のお父さんと妙さんが戻ってきたのは、だいぶ経ってからだった。和さんは、やはり長期入院になるらしい。お見舞いは和さんの様子を見ながらということになった。涼花…

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私を 想って 第九話

 気がつくと朝になっていた。カーテンの隙間から勢いの強い日差しが床を照らしている。 「痛っ」  立ち上がろうとして思わず声がでた。  膝を抱えた格好のままだったか…

横山小寿々
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娘の作った物語が私の心を強くした

娘の作った物語が私の心を強くした

「私、今生きてるなぁ。」
思わず呟いてしまった今日この頃です。

数ヶ月前、病状が酷く
「これ以上生きていても家族に迷惑かけるから死んだ方がいい」
きっぱり、迷いなく思っておりました。

NHKで放送された
安楽死の番組を家族で拝見し
「私もこの人と同じ気持ちなんだよね…」
真面目に言いました。
本当に死に向かって一直線でした。
(筋痛性脳脊髄炎の患者さんは
自殺者が多いと後から知りました)

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私を 想って 最終話

私を 想って 最終話

「お茶でも飲みましょうか」
 涼花さんがリビングにお茶の用意をしてくれた。三人で静かにお茶を飲む。なんだか照れくさいような変な感じがするけど、ホッとした気持ちもある。

「あらためて、お誕生日おめでとう」

 父と涼花さんから、誕生日プレゼントとして、ハーブの絵が描いてあるハンカチをもらった。可愛くて嬉しくてもったいなくて使えないな、と思った。

「それから、これも」

 父が四角い缶をテーブルに

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私を 想って 第二十話

私を 想って 第二十話

「もう風邪大丈夫か?」

 いつものようにキッチンで篤人が西瓜を食べている。

「一週間? もっとだっけ?」

 寧々は丁寧に西瓜の種をスプーンでとっていた。
 二人の顔を交互に見る。

「……なんかスッキリした」
 西瓜を一口食べると口の中いっぱいに水分が広がっていく。

「わかる! 熱出るとさ毒素でたーって感じでスッキリするよね」
 寧々の言葉に、だなっと篤人も頷いた。

「鞠毛に連絡しても全

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私を 想って 第十九話

私を 想って 第十九話

 コップの表面についた水滴がテーブルに落ちる。
 あれから数分が経ったけど、お父さんはなかなか話そうとしない。涼花さんが「うまく話そう、なんて思わなくていいのよ」とお父さんにアドバイスしてくれたが、父は難しい顔をして固まっている。

 私から話そう。言いたくないけれど、言うしかない。小さく息を吐き、口から無理矢理言葉を出した。

「小さな頃、借家の大家さんにあの人……あの人はあんたの父親じゃないっ

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私を 想って 第十八話

私を 想って 第十八話

 車が止まる音がした。時計を見ると、妙さんが帰ってから一時間も過ぎていた。お風呂の用意をしようと立ち上がり部屋から出る。ガラガラと玄関の戸が開く音が聞こえた。
すぐに戻るから、と涼花さんが言っていた言葉を思い出し玄関へ向かう。でもそこに涼花さんの姿はなく、代わりにずっと帰りを待ち望んでいた人が立っていた。

「……お父さん」

 父を呼んだ声が震える。驚きのあまり、どうしたらいいのかわからなくて立

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私を 想って 第十七話

私を 想って 第十七話

 家には誰もいなかった。
 自分の部屋にいき窓を開ける。むっとした暑い空気が外へ抜けていく。
目の前の景色を眺めながら、白谷のおばばの言葉や篤人との会話を思い出す。

 ずっと心に波をたてないように生きてきた。
 自分に起こった出来事は、どこか自分じゃない人の、物語の中の出来事のように思っていた。この先もきっとそんな風に生きていくと思っていたのに。最近は心の中が騒がしい。
ここに来ていろんな人

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思い出の味と朝ラーという冒険

思い出の味と朝ラーという冒険

「朝、ラーメンを食べる!」
と、今年やってみたい!リストに書いてあった。

 私の朝食は、ご飯にお味噌汁、きんぴらごぼう、卵焼き、たまに納豆といった感じのシンプルな和食をいただくのがいつものルーティン。
 たまに「今日はパンにするね」と夫が朝食を作ってくれる。食パンにハムキュウリやくちゃくちゃゆで卵をのせて食べたり、クロワッサンの塩パンにハムやチーズ、レタスを挟んだものを食べる朝ご飯も好き。
 朝

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私を 想って 第十六話

私を 想って 第十六話

 さっきまで雲一つなかったのに、今はうっすら雲が出てきている。

 はじめて近くで見た海は大きくて、私も篤人もあっという間に飲み込まれそうな迫力があった。砂浜を歩くと砂に足をとられ、よろけるたびに何度も篤人が身体を支えてくれた。

 砂浜には、折れた木が重なりあいながら砂に埋もれていて、昔本で見た恐竜の骨のように思えた。その中には座れそうなほどに立派なものもあって、どこから流れてきたのか不思議だっ

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私を 想って 第十五話

私を 想って 第十五話

 翌日、篤人の家に行き、昨夜涼花さんが話してくれたことをかいつまんで教えた。

「だから、お父さんは失踪でもなんでもないよ」
「うーん、そうなのか。でも、本当にそれだけ? 涼花さんは、本当に何も知らないのかなぁ」
「知らないと思う」
 まだ疑うの? と、篤人に対して少しあきれた。

「そういえば、篤人って、ここで生まれ育ったわけじゃないんだね」
「うん、そうだよ。あれ? 知らなかったっけ? 鞠毛と

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私を 想って 第十四話

私を 想って 第十四話

 その後、涼花さんは和さんに気に入られて、無事結婚した。念願のハーブ園を作り、バイパス沿いの店舗を改築し、カフェをオープンさせた。その頃の仁史さんの体調は、順調過ぎるほど安定していた。このまま回復に向かうんじゃないかと錯覚するほどに。その反面、子宝には、なかなか恵まれなかった。仁史さんはカフェのこともアドバイスしてくれて、和さんには治療をしつつ自宅で仕事をしていると言ってあった。

「まわりからは

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私を 想って 第十三話

私を 想って 第十三話

 車は置いてあるが、涼花さんは畑に出ているのか、家の中にはいなかった。
 悪いことをしているわけではないのに、私は忍び足で父の部屋へ向かい扉の前で深呼吸する。この家に引っ越してきてから一度も足を踏み入れたことのない父の部屋。そこに初めて入った。
 父の部屋は小さな机と本棚が一つあるだけだった。
 本棚の中にあの本はなく、夢中になって探していたら、いつの間にか涼花さんが部屋の中にいた。
「鞠毛さん、

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私を 想って 第十二話

私を 想って 第十二話

 和さんが倒れたあの日以来、涼花さんと一緒に食事をとっていない。顔を合わせて挨拶するくらいだが、ご飯の用意はしっかりしてくれていた。
 何かと忙しそうな涼花さんに迷惑をかけてはいけないと思い、和さんのことが気になっていたけれど聞くことも出来なかった。
 今日も寧々の家に遊びに行くことは、涼花さんが病院に行く前に伝えた。
「気をつけて行ってきてね。送ってあげたいけどバタバタしていて本当にごめんね」

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私を 想って 第十一話

私を 想って 第十一話

 田舎のひっそりとした神社のお祭りにしては、盛大で豪華なものだった。階段の下から見上げたことしかなかったから、境内が予想以上に広く立派なことに驚いた。
 夜店もたくさん出ていて、にぎやかな空間に自然と笑みが浮かぶ。子供の頃、近所でお祭りがあっても外から眺めるだけで、こんな風に誰かとお祭りに出かけたことはなかった。
 人混みの中にいるのに、何かを気にしたり、怯えたりしなくていい感覚を初めて知った。多

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笑顔の軌跡は続いていく

笑顔の軌跡は続いていく

まるでタイムスリップしたかのように
一瞬のうちに過去の記憶がよみがえる。
写真を手にとり眺めるといつもそう思う。

私は子供の頃から写真を撮るのが
大好きだった。
この景色、その笑顔を
小さな一枚の紙に閉じ込める。
そう思うとワクワクした。
自分以外が撮った写真、例えば会ったことのない祖父が写っている大昔のモノクロの写真を見るのも大好きだ。
一体この表情の向こうにはどんなドラマがあったのだろう? 

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私を 想って 第十話

私を 想って 第十話

 篤人のお父さんと妙さんが戻ってきたのは、だいぶ経ってからだった。和さんは、やはり長期入院になるらしい。お見舞いは和さんの様子を見ながらということになった。涼花さんは病院で手続きを終え、一度家に帰ってからお店に向かったと、妙さんから聞いた内容がスマホにも届いていた。
 帰り道にファミレスでお昼を食べ、篤人の家で夕食をもらってから家に帰った。

 誰もいない家は静かすぎるのになぜか耳が痛い。乱暴に水

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私を 想って 第九話

私を 想って 第九話

 気がつくと朝になっていた。カーテンの隙間から勢いの強い日差しが床を照らしている。
「痛っ」
 立ち上がろうとして思わず声がでた。
 膝を抱えた格好のままだったから、背中が痛い。眠っていたのか、それとも起きていたのか。視界も感覚もぼやけていてよく分からない。
 家の中は、静まりかえっていた。
 狭い借家にいたときもそうだが、広い家に一人でいると、よりいっそう自分が一人ぼっちなんだと感じる。
 昨夜

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