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言葉を紡ぐことは人生を紡ぐこと。波紋のように風紋のように、ぜんぶ過ぎ去ったあとに残るも…

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言葉を紡ぐことは人生を紡ぐこと。波紋のように風紋のように、ぜんぶ過ぎ去ったあとに残るものは言葉だけなのかもしれない。 短編集「ソナチネ」「夜想曲」など、storeにて。 https://lit.link/tsuduki

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    タネカラプロジェクト関連記事。エッセイ。 活動の内容、想いを書いています。タネカラプロジェクトとは地元に根差した「育苗」「植林」の活動ですが、タネの不思議、地域の森に触れ、感じることで育つものを大切にしていく、長いスパンの活動です。 詳しくはこちら。https://tanekarap.jimdosite.com/

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    ポストカード【落ち葉】

    『さがしもの』の表紙になっている写真のポストカードです。森の落ち葉を並べています。
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    ソナチネ

    8つの短編集。83ページ。目次・・・・・・・・・雪解け・たんぽぽ幻想曲・雨の日の子守歌・ひぐらしのカノン・哀歌・無題・風のロンド・空色のピアノ最後の2作は童話です。前に書いたものを加筆、修正したものです。残りの6作は書き下ろしです。それぞれ3000字程度のごく短い短編で、季節を織り込んで書きました。風の匂いや蝉の声、雨の音を感じながら小さな世界に浸っていただければと思っています。小学校の高学年から読んでいただけます。少しだけ、中身を紹介します。〈たんぽぽ幻想曲〉―-宿題のない春休みがやってきた。今日はお母さんの妹である、ふくちゃんが朝から家に来ていて、一緒にお昼ご飯を作ることになっている。ふくちゃんに会うのはお正月以来だった。「あみちゃん、もう五年生かぁ。また背が伸びたんじゃない?」ふくちゃんはお正月のときも同じことを言った。「そうかなぁ」わたしが答えるとふくちゃんは日焼けした顔でにっと笑った。ふくちゃんとお母さんは全然似ていない。お母さんはどちらかというと色白で口も小さめだけれど、ふくちゃんの肌はいつでもこんがり焼けたパンみたいな色をしているし、笑うと不思議の国のアリスに出てくるチェシャ猫みたいになる。ふくちゃんが持ってきたビニール袋の中には、たんぽぽがたくさん入っていた。  ―-つづく
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    ソナチネ

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40をすぎた女には明るすぎる口紅だった。男に殴られて切れた口の端を隠すにはこれくらいでないといけない。離婚する前から関係のあった男は、近ごろになって暴力

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わたしは妹と違って知識も経験もないし、山にもそんなに行ったことのないふにゃふにゃの人間で、何も考えずに妹の車に乗せてもらい、到着したらみんな○○を守る会、とかの人たちばかりでちょっと気が引けてしまった。
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大人になってからも読書感想文はすごく苦手である。ウッとなる。夏休みの宿題の最後はいつも読書感想文が残っていた。

というわけで、去年、文学学校の宿題(?)で書いた読書感想文。
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ムーンリバー

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わたしたちはあの日、海辺にいた
半分の月がのぼりかかって、波に合わせて揺れていた
どんな話をしたのか覚えていない
あなたがいなくなってしまったから
記憶はどんどん色あせていくけれど、
もともと色のなかったあの夜のことは
まだ少しだけ、覚えている
船着き場の船も、海の鳥も、眠っていて、
わたしたちはちっとも眠たくなんかなかった
眠ってしまわなくてよかったのだと思う
眠るにはもったいないほどの夜だった

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ふくちゃんとホルン(短編小説)

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ふくちゃんはお母さんの妹で、わたしのおばさんだけれど、お母さんとは全然似ていないなぁといつも思う。
「こんにちは」
うちのリビングに入ってきたふくちゃんは、こんがり焼けたパンみたいな顔で、ニカッと笑った。お母さんはふくちゃんを見て目を丸くした。
「ちゃんと帽子かぶってる? 日焼け止めは?」
「めんどくさいからかぶってないよ、日焼け止めもしてへんし」
お母さんはあきれた顔になった。ふくちゃんは全然気

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推敲するということ

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特に忙しかったわけではないのに、noteには書きかけの記事が4つも眠っていた。もう今更UPできんなというものばかりで、あぁ、流れていくなぁ、時間は、と思う。

今、書いている小説がうまくいっていなくて行き詰っている。ちょっと離れてはまた書いて、でもまだまだ核心にはいけていない、という気がする。
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がんばってる雨の日

がんばってる雨の日

自分で決めたくせに、雨の日にわざわざ出かけなくてもと思いながら玄関を出た。
図書館には駐車場がないので、ショッピングモールに車を停めて図書館へ向かう。折り畳み傘がしっかりと開かない。仕方なく手で上を押さえながら、交差点へ向かう。途中、ポストに封筒を投函する。雨でぬれにくいように投函口にはちゃんと雨避けがつけられていると気づく。
傘は思いのほか小さくて、左肩を濡らしながら、もうこれ捨てなきゃだめかも

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猫、徒然。

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2月もそろそろ中盤のようで、タイムリークしたのかなと思ってしまうくらいに日にちの感覚がない。
猫といると眠ってしまう現象が家族のあちこちで起きていて、気をつけないと一家全滅すると気づいたので、もうちょっとしっかりしようと思う。
もともと布団には魔力があり、布団を敷きっぱなしにすると危ないと思っているのだけど、猫もその類のものである可能性は高い。
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調律師のOさん

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5年ぶりにピアノの調律をしてもらった。
中がカビていたらどうしようと思ったけれど、大丈夫だった。
想定内やねと言われ、ほっとしながら今回はずっと隣に立って調律を見せてもらった。
わたしのことを「まーちゃん」と呼ぶ人はわたしを小さいころから知っている人だ。調律師のOさんもそのひとりだけれど、年に一度の発表会では顔を合わすものの、ゆっくり話している時間はないので、調律に来てもらったときに話せるのを楽し

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ふたり、窓辺で

ふたり、窓辺で

朝から雪が降っていた。
カーテンを開け、外をよく見えるようにするときみはひょいと窓のへりに飛び乗った。それから、上手に後ろ足を折りたたんで窓の外を眺めた。
「今日は雪だね」
話しかけながら、きみの目線に高さを合わせて同じように外を見てみる。
「雪、はじめて?」
と聞いてから、そんなことはなかったなと気づいた。きみは雪のたくさん降るところから来たんだった。
でも、わたしだって雪の降るところで育ったの

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