まさのあつこ 地味な取材ノート

ジャーナリスト。JBpressで「川から考える日本」を連載中。『あなたの隣の放射能汚染…

まさのあつこ 地味な取材ノート

ジャーナリスト。JBpressで「川から考える日本」を連載中。『あなたの隣の放射能汚染ゴミ』(集英社新書)、『投票に行きたくなる国会の話』(ちくまプリマー新書)、『四大公害病』(中公新書)、『水資源開発促進法 立法と公共事業」(築地書館)』ほか。

記事一覧

「新規制基準が奏功するという安全神話」検討チーム

2024年5月20日、第2回原子力災害時の屋内退避の運用に関する検討チームが開催された。 何が決まったか 第2回で何が決まったかというと、第1回(4月22日)の「検討チー…

エネルギー政策で問題だと感じること(雑感)

前回のノート「エネルギー基本計画を「国全体の議論の俎上に!」合同会見」に対して、「経産省の審議会」と「市民団体側」の顔ぶれが固定化している旨のコメントがあった。…

エネルギー基本計画を「国全体の議論の俎上に!」合同会見

「エネルギー基本計画」改定の年を迎えて、経産省内外での議論が始まった。  2024年5月9日には、再生可能エネルギーや気候変動問題に取り組む市民が「『第7次エネルギ…

山中委員長「感電によるものなのかどうかというのは、私自身判断できない」:1F作業員熱傷

5月3日のノートの続き。高圧線(6900ボルト)をドリルで損傷して、実施計画で定めた運転上の制限(LCO)を逸脱し、作業員が真皮(しんぴ)に達する火傷を負った事件。4…

母親有志が「マイクオフ」環境省の環境保健部長に辞任を要求:福島県民健康調査検討委

2024年5月10日に開催された福島県「県民健康調査」検討委員会(以後、検討委)の開催後、座長の重富秀一(一般社団法人双葉郡医師会 副会長)に要請文を読み上げる姿があ…

社会学者による名誉毀損裁判(その1)

社会学者として知られている開沼博氏(東京大学大学院 情報学環 准教授)が、OurPlanet-TVによる裁判報道で名誉を毀損されたとして、東京地裁に訴えを起こしている。 あ…

水俣病患者「マイクオフ」の先へ

2024年5月1日、伊藤信太郎環境大臣が、水俣病患者団体の話が遮られたり、マイクの音声が切られたりするのを見て見ぬふりをして、1週間後に謝罪に出向いた。この問題を多…

高圧線をドリルで損傷、作業員は感電、ALPS水放出は停止:東電の指示通り

2024年4月24日10時43分。東京電力の福島第一原発で、高圧線を引き直す作業で「コンクリート鋪装を剥がして」と指示された通りにドリルでコンクリートを掘削していたところ…

低線量被ばくとがん死亡率との因果関係が立証された論文の扱い

累積100mSv以下の固形がん死亡リスク。厚労省が国際疫学調査の検討方針を労災支援団体に約束で書いたことの続き。 山中委員長「低線量でがんが発生する云々というそういう…

原発事故で避難せず「屋内退避」。その運用を考えるチーム会合はじまり。

4月22日、原子力規制委員会の「屋内退避の運用に関する検討チーム」第1回開催。議題は3つだ。  議題1 原子力災害時の屋内退避の運用に関する検討チームについて  議題…

東海第二原発の防潮堤不良施工について:県議は、市議は、村議は、規制庁は

原発事業がその事業の全てである日本原子力発電(以下、日本原電)の2つあるアキレス腱の1つは東海第二原発(茨城県東海村)だ。 2024年4月4日、超党派議員連盟「原発ゼ…

累積100mSv以下の固形がん死亡リスク。厚労省が国際疫学調査の検討方針を労災支援団体に約束

フランス、英国、米国の原子力施設作業従事者約31万人が参加した国際原子力労働者研究(INWORKS)の調査結果が2023年8月に更新された。累積線量が0-100mGyおよび0-50mGyで…

原発事故で生じた汚染土の拡散を危惧する市民と環境省、そして国会質問

4月5日(金)、「放射能拡散に反対する会」※が除去土壌の再生利用に関するヒアリングを環境省から行なった。ギリギリセーフで会議室に滑り込んで、ICレコーダーをオンに…

ALPS処理水を薄める水周辺の海底土の放射性物質の話

2024年3月28日の東電会見(動画、資料)に関する取材ノートの続き。 ALPS処理水は海水で100倍以上に希釈して「海洋放出」を行う。実施計画(東電が申請、原子力規制委員会…

ALPS処理水に含まれる29核種の総量

2024年3月28日、毎月最終木曜日の東電「中長期ロードマップ」会見が行われた(動画はこちら。資料は廃炉・汚染水・処理水対策チーム会合/事務局会議)。 ALPS処理水につ…

複合災害は「当然、含まれる」ー原子力災害時の屋内退避の検討チームの検討範囲

2024年3月27日の原子力規制委員会で「原子力災害時の屋内退避の運用に関する検討チームの設置」が決まった。忙しい方は以下の目次から「会見で確認した4点まとめ)に飛ん…

「新規制基準が奏功するという安全神話」検討チーム

「新規制基準が奏功するという安全神話」検討チーム

2024年5月20日、第2回原子力災害時の屋内退避の運用に関する検討チームが開催された。

何が決まったか

第2回で何が決まったかというと、第1回(4月22日)の「検討チームの論点及びスケジュール」で「例えば」という言い方で示した3ケースのうち、次回以降は、ケース2、ケース3の屋内退避について考えるための「線量計算」をしてみようということ。

計算に使うのは、原子力研究開発機構が開発した被ばく線

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エネルギー政策で問題だと感じること(雑感)

エネルギー政策で問題だと感じること(雑感)

前回のノート「エネルギー基本計画を「国全体の議論の俎上に!」合同会見」に対して、「経産省の審議会」と「市民団体側」の顔ぶれが固定化している旨のコメントがあった。しかし、経産省の「総合資源エネルギー調査会基本政策分科会」(以後、経産省審議会)のメンバーの固定化と市民団体の顔ぶれの固定化を同列で語ることは意味がないと思うので、そのことと同時に、エネルギー政策を語る上で最も問題だと感じていることを、この

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エネルギー基本計画を「国全体の議論の俎上に!」合同会見

エネルギー基本計画を「国全体の議論の俎上に!」合同会見

「エネルギー基本計画」改定の年を迎えて、経産省内外での議論が始まった。

 2024年5月9日には、再生可能エネルギーや気候変動問題に取り組む市民が「『第7次エネルギー基本計画』の議論開始に向けて議論の枠組みとプロセスを問う」合同記者会見を行った。そこで問われたことのうちごく一部を除いては、彼らが指摘した通りのことが、5月15日に経済産業省の審議会で起きた。

合同会見の発言合同会見での発言をかい

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山中委員長「感電によるものなのかどうかというのは、私自身判断できない」:1F作業員熱傷

山中委員長「感電によるものなのかどうかというのは、私自身判断できない」:1F作業員熱傷

5月3日のノートの続き。高圧線(6900ボルト)をドリルで損傷して、実施計画で定めた運転上の制限(LCO)を逸脱し、作業員が真皮(しんぴ)に達する火傷を負った事件。4月24日に発生、翌25日(木)の中長期ロードマップ会見で「福島第一原子力発電所所内電源A系停止と負傷者発生について」として説明があったところまでは書いた。

伴委員「また」→「何やってんだ」→「頭抱えました」

翌26日の特定原子力施

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母親有志が「マイクオフ」環境省の環境保健部長に辞任を要求:福島県民健康調査検討委

母親有志が「マイクオフ」環境省の環境保健部長に辞任を要求:福島県民健康調査検討委

2024年5月10日に開催された福島県「県民健康調査」検討委員会(以後、検討委)の開催後、座長の重富秀一(一般社団法人双葉郡医師会 副会長)に要請文を読み上げる姿があった。要請は検討委の委員の一人、環境省の神ノ田昌博・環境保健部長に辞任を求めるもの。

環境省の神ノ田部長は、5月1日、水俣病患者の訴えの最中にマイクを切った現場にもいた(既報:水俣病患者「マイクオフ」の先へ)が、この日の検討委ではオ

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社会学者による名誉毀損裁判(その1)

社会学者による名誉毀損裁判(その1)

社会学者として知られている開沼博氏(東京大学大学院 情報学環 准教授)が、OurPlanet-TVによる裁判報道で名誉を毀損されたとして、東京地裁に訴えを起こしている。

ある学生が開沼氏を訴えた裁判について司法記者クラブで会見を開き、OurPlanet-TVがその「提訴会見」を提訴資料と共にそのまま流したのが発端だ。

社会派のインターネットメディアの先駆けとも言えるOurPlanet-TVは、

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水俣病患者「マイクオフ」の先へ

水俣病患者「マイクオフ」の先へ

2024年5月1日、伊藤信太郎環境大臣が、水俣病患者団体の話が遮られたり、マイクの音声が切られたりするのを見て見ぬふりをして、1週間後に謝罪に出向いた。この問題を多くのメディアが取り上げたが、これを機に、むしろ国からどのような懇談を患者らに持ちかけるべきかを「四大公害病」を書いた経験から書いておきたい。3つある。

1. 判決を反映した認定基準の見直し

公害健康被害補償法(当初は公害被害救済法)

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高圧線をドリルで損傷、作業員は感電、ALPS水放出は停止:東電の指示通り

高圧線をドリルで損傷、作業員は感電、ALPS水放出は停止:東電の指示通り

2024年4月24日10時43分。東京電力の福島第一原発で、高圧線を引き直す作業で「コンクリート鋪装を剥がして」と指示された通りにドリルでコンクリートを掘削していたところ、管路を貫き、中に敷設されていた高圧線に接触、作業員が感電。損傷した高圧線は、免震重要棟やALPSで処理した汚染水を希釈・放出する設備へとつながっており、電源を喪失、希釈・放出設備は自ずと停止した。

東電は「右頬部・右前腕2度熱

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低線量被ばくとがん死亡率との因果関係が立証された論文の扱い

低線量被ばくとがん死亡率との因果関係が立証された論文の扱い

累積100mSv以下の固形がん死亡リスク。厚労省が国際疫学調査の検討方針を労災支援団体に約束で書いたことの続き。

山中委員長「低線量でがんが発生する云々というそういうのを聞いたという記憶はございます」

米仏英の国際原子力労働者研究(INWORKS)の結果、これまで「仮説」としてしか認めてこなかった(時に無視、軽視してきた)累積100mSv以下の低線量の被ばくと固形がん死亡率との因果関係が、「証

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原発事故で避難せず「屋内退避」。その運用を考えるチーム会合はじまり。

原発事故で避難せず「屋内退避」。その運用を考えるチーム会合はじまり。

4月22日、原子力規制委員会の「屋内退避の運用に関する検討チーム」第1回開催。議題は3つだ。
 議題1 原子力災害時の屋内退避の運用に関する検討チームについて
 議題2 屋内退避について
 議題3 検討の進め方について

原子力災害時の屋内退避の運用に関する検討チーム

資料1には構成メンバーあり。

屋内退避について

資料2屋内退避については、検討の土台を共有するもの。規制庁が説明した。
以下

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東海第二原発の防潮堤不良施工について:県議は、市議は、村議は、規制庁は

東海第二原発の防潮堤不良施工について:県議は、市議は、村議は、規制庁は

原発事業がその事業の全てである日本原子力発電(以下、日本原電)の2つあるアキレス腱の1つは東海第二原発(茨城県東海村)だ。

2024年4月4日、超党派議員連盟「原発ゼロ・再エネ100の会」が、その東海第二原発で起きた防潮堤の施行不良工事について、茨城県の県議および原子力規制庁からヒアリングを行った。

この問題を巡っては、日本原電が設計変更申請をするとのことで、3月26日に原子力規制庁が審査会合

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累積100mSv以下の固形がん死亡リスク。厚労省が国際疫学調査の検討方針を労災支援団体に約束

累積100mSv以下の固形がん死亡リスク。厚労省が国際疫学調査の検討方針を労災支援団体に約束

フランス、英国、米国の原子力施設作業従事者約31万人が参加した国際原子力労働者研究(INWORKS)の調査結果が2023年8月に更新された。累積線量が0-100mGyおよび0-50mGyでも、被ばく線量と固形がんの死亡率に正の相関があることが示された。https://www.bmj.com/content/382/bmj-2022-074520 

国際原子力労働者研究(INWORKS)とは

I

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原発事故で生じた汚染土の拡散を危惧する市民と環境省、そして国会質問

原発事故で生じた汚染土の拡散を危惧する市民と環境省、そして国会質問

4月5日(金)、「放射能拡散に反対する会」※が除去土壌の再生利用に関するヒアリングを環境省から行なった。ギリギリセーフで会議室に滑り込んで、ICレコーダーをオンにした。(※「放射能ゴミ焼却を考えるふくしま連絡会」と誤解しておりました。訂正してお詫びします)

会場に来ていた川田龍平議員がこのヒアリングをもとに、4月9日(火)参議院の環境委員会で、環境省に質問を行った。ここでは、順に記録だけしておき

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ALPS処理水を薄める水周辺の海底土の放射性物質の話

ALPS処理水を薄める水周辺の海底土の放射性物質の話

2024年3月28日の東電会見(動画、資料)に関する取材ノートの続き。

ALPS処理水は海水で100倍以上に希釈して「海洋放出」を行う。実施計画(東電が申請、原子力規制委員会が認可)でそう定めている。今日は、その希釈のための海水を取水する場所の海底土の汚染具合を示すセシウム濃度のグラフに関する話。

ALPS処理水を薄める海水を取水する場所、開渠

それがどんな場所かは下図。右側の「全体図」の赤

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ALPS処理水に含まれる29核種の総量

ALPS処理水に含まれる29核種の総量

2024年3月28日、毎月最終木曜日の東電「中長期ロードマップ」会見が行われた(動画はこちら。資料は廃炉・汚染水・処理水対策チーム会合/事務局会議)。

ALPS処理水については、海洋放出の第4回目が3月17日に終了したこと他、諸々の報告があった。

総量規制がないので「塵も積もれば山」

彼らが定義している通り、「ALPS処理水」とは、「トリチウム以外の核種について、環境放出の際の規制基準を満た

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複合災害は「当然、含まれる」ー原子力災害時の屋内退避の検討チームの検討範囲

複合災害は「当然、含まれる」ー原子力災害時の屋内退避の検討チームの検討範囲

2024年3月27日の原子力規制委員会で「原子力災害時の屋内退避の運用に関する検討チームの設置」が決まった。忙しい方は以下の目次から「会見で確認した4点まとめ)に飛んでください。これまでの話から辿りたい方は「複合災害では「避難と屋内退避」を組み合わせるという机上の空論」をご参考ください。

検討事項と自治体を含むメンバー

検討結果を2024年度中を目処にまとめるとして4月中に第1回を開催するとい

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