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人工失楽園BARからこんばんは。

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人工楽園が失われた2020年の日本にオープンした思考酩酊空間。
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記事一覧

かじった桃を渡したら──コーネリアス問題を振り返る夜──

かじった桃を渡したら──コーネリアス問題を振り返る夜──

先週あたりがピークだったコーネリアスこと小山田圭吾の過去記事におけるいじめ自慢問題について、今さら少しばかり書いてみようと思う。人の憎悪も7.5時間というから、たぶんもう極度に憎悪を持っていた人たちはニワトリ並みの高速さでこの話題自体を忘れてしまっていることだろうし、私としては私の読者に理解してもらえればいい程度の意味合いで書いておくことにする。

この問題については、珍しくネットをみるかぎり9割

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猫を撫でる、その他の浮遊思考

猫を撫でる、その他の浮遊思考

いま家の外では簡易の小屋の中で猫が寝ている。一週間とか、いやもう少し前からかな、家のまわりをずっと首輪をつけた猫がみょおみょお鳴きながら徘徊していた。

何だろうな、とは思っていたが、気にしないようにしていた。だが、日を追うごとに相手は距離を縮めてくる。うちはまた、子どもの出入りが多い。そうすると、庭先で子どもが優しくしたりするせいもあるのだろう、あるいは、よその庭より雑草が伸びているから、餌にな

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犬に種類があるように

犬に種類があるように

子供の頃、「流れ星銀」という漫画があった。
犬が熊を倒すために集まる話だ。
その影響で、ポインターとかセントバーナード
とかグレートデンとか、とにかく犬の図鑑をみては
いろんな犬の種類をかたっぱしから覚えたものだった。
不思議なもので、
我々は「犬」というカテゴリを知っているから
ドーベルマンとチワワを同じ「犬」と認識できるが、
そうでなければ、とてもそれらをひとまとめには
見られるはずがないので

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クリスマス小説「チック、チック、チック」

クリスマス小説「チック、チック、チック」

探偵ブルーブラックは影に似ている。どこにでも現れるが、誰もブルーブラックに気づかない。それは彼の類まれな才能というわけでもない。彼はただ生来そういう男であり、その結果として探偵という職業に流れ着いた。

ブルーブラックはクリスマスが好きではない。昔の恋人が必ず電話してくる日だからだ。昔の恋人と一言でいえば同一人物に思えるが、それはAだったりBだったりCだったりとその都度変わる。要するに、その年のク

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がらんどうな気分

がらんどうな気分

このところ出版界は先行き不安な話をよく小耳にはさむ。つい今日も大御所作家さんまで連載が本にならないとTLで目にした。あの方がその扱いなら、自分なんぞ野良犬もいいところだろう。

そんなことを考えていたら、ふと思い出した。4,5年前だったか、自分もまだ書き途中の0稿の件で、とつぜんべつの出版社の編集さんから「森さんの別の社の原稿がうちに回されてきたんですよ。出版してくれないかって」
と言われたことが

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ここが死に場所だろうと。~『沙漠と青のアルゴリズム』あとがきのようなもの~

ここが死に場所だろうと。~『沙漠と青のアルゴリズム』あとがきのようなもの~

デビュー3年目くらいから、終わりを意識しはじめた。
こう書くと、何を急に言い出すのかと思うかも知れない。
でも本当の話だ。

黒猫シリーズは順調に売り上げを伸ばしていたが、それにしたって「遊歩」より売れる作品があるわけではなかった。
発行部数だって、巻を追うごとに少しずつ右肩下がりになる。それは仕方のないこと。どれだけ最善の状態にしても、シリーズものというのは、映像化とか新聞やテレビでレビューが出

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自死について。あるいはラストモールまでだらだらと

自死について。あるいはラストモールまでだらだらと

スティーリー・ダンというバンドがかつてあった。アメリカのロックバンドで、ジャズとかソウルとか、いろんな要素の入った唯一無二のサウンドとドナルド・フェイゲンの渋い声が特徴だ。日本で言うならばサザンオールスターズみたいな存在だろうか。と言うか桑田佳祐はたぶんスティーリー・ダンをかなり意識していたんじゃないかと思う。

その最後のアルバム『エヴリシング・マスト・ゴー』の最初の一曲目に「ラストモール」とい

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『黒猫と歩む白日のラビリンス』刊行記念リモートトークイベント!

『黒猫と歩む白日のラビリンス』刊行記念リモートトークイベント!

 ええとこんばんは。

 森晶麿です。はじめての方もそうでない方もどぞよろしく。

 さて、じつは9月17日に黒猫シリーズの最新刊が発売になったのですが、いつもだとどこかの土地へ行って刊行記念トークイベントなどをやるのですが、今回はこういう状況だということもあり、リアルなイベントは断念しました。

 けれど、せっかくですし、何より執筆についての裏話などあれこれ話したいこともあります、ということで、

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2020/09/12 逃避という妄想について

2020/09/12 逃避という妄想について

先週だっけ、先々週だっけ……それさえさだかでないのだが、とあるツイートでバズってしまった。この「バズる」というのも、Twitterの時代区分的に規模に違いがあるのではあるが、たぶん1万RT以上いってればバズッたと言っていいのだろう。まあそういうことに数字上でこだわって「あんなRT数で」とか言ってる阿呆は糞ほどどうでもいいのだが。

で、まあそれ以来くるわくるわ変なリプが。クソリプと呼ぶのも何だか馬

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タイトル公募900字小説「9月に始めたい存在しない習い事」5連発

タイトル公募900字小説「9月に始めたい存在しない習い事」5連発

先日、Twitterにて「#9月に始めたい存在しない習い事」というのを募集しまして、そこに皆様からご応募いただいた架空の習い事を5つ選び、タイトルにして900字小説を書きます、と言いました。そして、昨夜無事に5つのタイトルが決定しました。さて、どんな話になったか。以下ごらんください。
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蝉の声回収講座 そろそろ何もない抜け殻のような日々から脱しなければならなかった。ミコが最後の

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ある古美術商への飛び込み営業で本当にあった怖い話

ある古美術商への飛び込み営業で本当にあった怖い話

8月の終わりなので怪談噺でも一つ、と思ったのだが、じつを言うとこわい思いというのをあまりしたことがない。

生まれつき霊感がまったくなく、そのわりに中学校まではひどく怖がりだったのだが、高校のときにふと「これまで一度も幽霊の気配すら感じたことがないということは、いるいないは別にして俺には霊感がない。それなのに、『いそうな感じ』を怖がる意味とは……?」と考えてすっかり恐怖心というものと疎遠になってし

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タイトル公募断篇小説「夕立そうめん」

タイトル公募断篇小説「夕立そうめん」

先日、断篇小説のタイトルとして使える「夏の終わりに食べたくなる存在しない食べ物」をTwitter上で公募しました。
その結果、たくさんの素敵なタイトルが寄せられました。そのなかで、とくにシンプルでピンときた「夕立そうめん」を使わせていただき、小説を書いてみようと思います。では以下が本編となります。どうぞ。
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 夕立そうめん  2003年の夏の終わりのことを久志は強烈に

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小説に向かなそうなタイトルで小説を書いてみよう

小説に向かなそうなタイトルで小説を書いてみよう

こんばんは。じつは今日、ふと思い立って、夕方にツイッターで以下のような募集をしたのでした。

急募】即興企画で「小説に向かなそうなタイトル」を募集します。採用タイトルは1つ。#小説に向かなそうなタイトル、で呟いてください。採用ツイートのみRTします。夜の九時くらいまでで締め切り、そこから決めて12時までにnoteにアップします。

本当は2,3件集まればいいかなと思っていたのだけれど、思いのほかた

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短篇小説「抱擁」④

短篇小説「抱擁」④

 「私は反対だね。死者のことをどう思うかは生きている者が勝手に決めればいいじゃない? なにもお父さんの半生を今さら探ることないと思うね」

 私がナオミの自宅で雨村治夫という男の人となりや、彼からの依頼について話すと、ナオミは煙草をすぱすぱと吐き出しながら言った。

「第一に、その雨男にはもう会わないほうがいいよ。今日も雨だし。そいつのせいかも」

 ナオミはまんざらジョークでもなさそうな様子で眉

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