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水木三甫の短編小説よりも短い作り話

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自著の超短編小説(ショート・ショート)をまとめました。 ユーモアあり、ブラックあり、ほのぼのあり、ホラーらしきものあり、童話らしきものあり、皮肉めいたものあり、オチのあるものあり… もっと読む
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記事一覧

小説家(超短編小説)

小説家(超短編小説)

文章が1行も出てこない。それどころか、さっきから一文字も書けていない。
今週末までに短編小説2つとエッセイ1つを書かなければいけないのに。
エッセイならば書けるだろうと、パソコンの前に座って1時間経つ。前回、小説のネタがなくなって困ったという話は載せてしまった。もう書くことがない。いつかこんな日が来るのではと恐れていたことが現実になった。
やはり自分は小説家の才能などなかったのだろう。運良く新人賞

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大穴(超短編小説)

大穴(超短編小説)

東京競馬場に、穴の大きなドーナツを売る店ができたそうだ。大穴を当てるという意味があると聞いて、私は大金を持って東京競馬場へ向かった。
早速、大穴ドーナツを購入し、万馬券狙いで馬券を買い続けた。
しかし、結果はひとつも当たらず、大金はあっという間に消えてしまった。
どうしよう。私は困ってしまった。実は持ってきた大金は会社から横領したものだったのだ。
次の日、会社に社内監査が入り、大金が消えていること

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悪知恵だけは働く愚かな奴ら(超短編小説)

悪知恵だけは働く愚かな奴ら(超短編小説)

人類だけでは地球温暖化を止められないことがわかった人類は、他の生き物との共栄共存を計るべく、各生物界の生物を集めた。
それぞれの生物が立候補できる平等な選挙を行おうと生物界全体で決まったはいいものの、既得権益を失うのを恐れた人類はひとつの条件を出した。
「生物界議会の議員になるためには、それなりの知識と教養が必要である。だからテストを行い、及第点を取れなかったものは当選を無効とする」
この文章を最

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税理士の決断は?(超短編小説)

税理士の決断は?(超短編小説)

「旅行代売上っていうのが売上のほとんどを占めているんだけど、この旅行代売上って何だね。うちの会社は旅行代理店なんてやってないじゃないか」
「うちは元々これが商売を始めるきっかけで、今でもうちの会社の利益に大きく貢献してくれてます」
「中身はなんだね?」
「税理士先生なんだから説明しなきゃいけないですね。先生はうちの会社の税理士報酬が高いと思いませんか?」
「もちろん。桁違いに高いことはわかっている

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夏の江ノ電で(超短編小説)

夏の江ノ電で(超短編小説)

女「何読んでるの?」
男「『彼女との別れ方』っていう本だよ」
女「何それ? 私と別れたいっていうわけ?」
男「いや、違うに決まってるだろう。もう一人の彼女のことだよ」
女「えー。二股かけてたわけ? ひどい。じゃあ私が別れてあげるから、もう一人の彼女と付き合えばいいじゃない」
女は怒って、次の駅で降りてしまった。
男は追いかけようか、そのまま電車に乗っていようか迷った様子だったが、結局車内に残った。

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どこでもドア(超短編小説)

どこでもドア(超短編小説)

うちの近くのゴミ捨て場にどこでもドアが捨ててあった。
持ち帰ろうとしたが、重くて持ち上げることができなかった。あきらめようと思ったとき、ドアの下部に車輪が付いているのに気づいた。これなら持ち運べると思い、押しながら家に持っていった。
自分の部屋まで運んで、ピンク色のドアを見た。
「さあ、どこに行こうかな」
僕は考えた末に、ディズニーランドに決めてドアを開いて、反対側に足を踏み出した。
しかし、ただ

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大虐殺(超短編小説)

大虐殺(超短編小説)

早朝、「ギャー」という声で目を覚ました。続いて「助けてー」という声が聞こえた。
大虐殺でも始まったのか。しかし、体が動かず逃げられない。
叫び声がだんだん近づいてきた。私は体を硬直させたまま、そこに立ちすくんでいた。
とうとう「ギャー」という叫び声が隣から聞こえた。私は「助けてー」と叫んだ。
目の前に男が立ち塞がった。手には刃物を持っていた。
「ギャー」私は刃物で体を真っ二つに切られてしまった。

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巨人の星(超短編小説)

巨人の星(超短編小説)

「飛雄馬、あれが巨人の星だ」
星一徹が指差した先に星が輝いていた。
「お前はあの星のように、巨人の星となるんだ」
「わかったよ、父ちゃん。俺は頑張るよ」
一徹と飛雄馬が見つめる中、その星は流れ落ちていった。

限りなく”ゼロ“に近い”イチ“(超短編小説)

限りなく”ゼロ“に近い”イチ“(超短編小説)

「3、2、1」
「ちょっと待て」
「どうしたんですか? 死刑執行を止めて」
「もう彼は死んでいる。恐怖で心臓麻痺でも起こしたんだろう」

✕✕世代<超短編小説>

✕✕世代<超短編小説>

ある会社での出来事。
課長「この書類をコピーしてくれ」
社員「はい、わかりました」
課長「おい、シュレッダーにかけてるじゃないか。勘弁してよー」
社員「別に、課長が謝らなくてもいいですよ」

酔っ払い<超短編小説>

酔っ払い<超短編小説>

元陸上選手の酔っ払いが、千鳥足で歩いていると、反対側からやってきた人とぶつかり、水溜りに転んでしまった。
酔っ払い曰く、
「畜生。このコースはクネクネ曲がっていやがるだけでなく、障害物までありやがる」

シングル・シンデレラ(ショート・ショート)

シングル・シンデレラ(ショート・ショート)

王子様が持っていたガラスの靴に合っていたのはシンデレラだった。王子様はシンデレラに求婚し、めでたく結婚しましたとさ。

これはその後のお話。
城に迎えらたシンデレラは幸せの絶頂にいた。
“過去の不幸を取り返すくらい幸せになってやる”
シンデレラがそう思ったとして、誰に文句が言えましょうか? シンデレラは素敵な服を着て、豪華な冠を被り、靴はガラスの靴、そして贅沢な食事を毎日食べました。夜のほうも、王

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マラソンランナー(超短編小説)

マラソンランナー(超短編小説)

監督「後もう少しだ。頑張れ」
選手“うるさいんだよ。お前は口だけだからいいけど、こっちは走ってるんだ”
監督「もっと腕を振って」
選手“わかってるよ、そんなこと。振りたくても振れないから困ってるんだよ”
監督「お前の優勝がかかってるんだぞ」
選手“優勝したって、どうせ名誉は監督が一人占めするんだろう”

アナウンサー「優勝おめでとうございます。勝因は何ですか?」
選手「はい、監督の指示のおかげです

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不合格の理由<超短編小説>

不合格の理由<超短編小説>

父「試験が不合格で残念だったな」
子「十分努力はしたから」
父「あれだけ勉強したんだからな」
子「僕、考えたんだ。試験の前日に右手をケガしたら、今までの努力がムダになるじゃないかって」
父「うん。それでどうしたんだ?」
子「左手でも字が書けるように、ずっと練習していたんだ」