武藤吐夢
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感想 火定 澤田 瞳子 パワフルな筆致で描かれたのは、あの平成のパンデミックを想起される奈良時代の天然痘パンデミック。医師たちの奮闘する姿は熱い。
このパワフルな筆致は何なんだ。 引き込まれてしまった。 すごい迫力だ。 平成のパンデミックと同じような、奈良時代の天然痘パンデミック。 その混乱は、今の時代よりも激しく、被害は悲惨だった。 まず、僕は、国が国民を治療する病院が、この時代にあったことに驚いた。 施療院には、奈良の八万の民を未知の疫病から救おうとする医師や助手たちがいた。 それ江戸時代の小石川養生所みたいなものなのかもしれない。 その長たる医師の姿は、山本周五郎先生の赤ひげに出てくる新出去定のような癖がある
感想 星落ちてなお 澤田 瞳子 この家族には、赤い血ではなく黒い血が流れているという画鬼の家。日本画に生命をかけた女性の半生を描いた傑作。
画鬼と称された稀代の絵師河鍋暁斎の娘とよ(河辺暁翠)の半生を描いた時代小説。 赤い血ではなく、この家の者には黒いものが流れているという言葉が何度も本作に登場します。 その黒は、墨を意味します。 この家では、日本画の力量のみが評価されるのです。 この複雑な家庭が、この価値観が、彼女にとっては重荷であり、生きがいでもあった。 とよには、父そっくりの画を描く兄がいた。 どう頑張っても追いつけないライバル。 この二人の濃密な関係性も興味深い。 時代は明治大正になり、狩野派と呼
感想 殺しへのライン アンソニー・ホロヴィッツ このミステリーがすごい2023年版海外編第2位。探偵と、彼の活躍を本にする著者が謎に挑むパターンは面白すぎる。
このミステリーがすごい2023年版海外編第2位。 このシリーズの楽しさは、ホーソーンという探偵のキャラにある。 アガサさんのポアロのような魅力的な探偵です。 ワトソン役で、作者のアンソニー・ホロヴィッツが登場し、ホーソーンの本を書くという理由で助手役をするのも楽しい。 この前代未聞の著者が助手という構造が魅力的なのです。 ホーソーン&ホロヴィッツシリーズ第3弾。 今回の舞台は島でした。 場所が限定される、行動範囲が狭いというのも興味深かった。 このオルダニー島で開催
感想 鳥と港 佐原ひかり 文通を仕事にするというお仕事小説。理想と現実の間での葛藤がありイライラさせられるが、主人公が成長し問題をクリアにしていく様は共感できた。
文通を仕事にする物語だが、それは何か違うように思えた。 それが本書を読んでいてイライラした原因です。 一通の往復で千円程度という料金は時給換算すると妥当なのだが、有料で文通するというのが気分が悪い。でもしないと、人は他者に自分の本音を語れないと言われているみたいな気がするのです。 金銭の対価は守秘義務です。 裏返しで考えると、今の世界は文通ですら気軽にできない世界ということなのかと思います。 当然、手紙の内容の大半は愚痴の垂れ流しみたいになる。 それを読み返答するのは相当
感想 われら闇より天を見る クリス ウィタカー 「あたしは無法者のダッチェス・デイ・ラドリー」。その少女の悲しみが胸を引き裂く。
本書は、間違いなく傑作だ。 読後、ダッチェスの悲しみが胸をのたうち回るのを感じた。 私の父は・・・。 最後に、自分の父親が・・・・である。 その文章で終わる。 それはすべての事実を知ったということだ。 これは彼女の父と母の愛の物語なのだ。 そして、それはボタンの掛け違いのような出来事から生じているのだった。 本書は、スターというダッチェスの母の死 犯人捜しというミステリーの側面も確かにある しかし、そのスターの元恋人のヴィンセントが罪もないのに何も語らないのがポイント
感想 ブラッドマーク 堂場 瞬一 アメリカの野球選手が賭博で借金、それが元で仲良しの娘が誘拐される。これって大谷のあの騒動を意識して書かれていますよね。探偵のキャラが素晴らしい。エンタメとしてかなり優秀。
野球選手が賭博で大金を借金という設定は、明らかに大谷の事件を匂わせている。 たぶん、あの事件が発覚後、本書の内容に修正があったのではと思う。 でないと、こんな感じのミステリーは書けないと思う。 本書の魅力は、探偵のキャラの魅力だと思います。 舞台はアメリカNY。 探偵ジョーに、メジャー球団から依頼が。 獲得を目指す有望選手を調査してほしいという。やがて、スポーツ賭博の疑いが浮上し……。 レイモンド・チャンドラの小説に出てくるフィリップ・マーロウみたいな名探偵が体当たりで
感想 チーム 堂場 瞬一 箱根駅伝を描いた熱量の高いスポ根作品。前半は少しぼやけていたが、後半はキャラが立っていてかなり盛り上がった。
少し前に池井戸さんの駅伝の本を読んで楽しめたのを伝えるとSNS上で、本作を教えてもらいました。 箱根駅伝を描いた作品です。 池井戸作品は二巻ということもあり、満足度はどうしても本作は劣るのですが、怪我ということにポイントを置いた点で、とくにラストの二つの区の走者のところが熱量が高く面白かったです。 疑問に思ったのは、いくら本人の意思だとしても怪我がわかっていて、監督はその選手を出すかということです。その怪我が悪化し選手の未来を取り返しのつかないものにしかねないと思った
感想 エヴァーグリーン・ゲーム 石井 仁蔵 チェスにかける四人の男女の話し、その熱量がすごい。チェスがわからなくとも、この小説は楽しめます。
チェスのルールはまつたくわからないのですが、それでも、その楽しさや、それに熱中する人たちの熱量は十分に伝わってきます。 新人の作とは思えない完成度です。 とくに、最後の大会のbattleはかなり面白かった。 四人のプレイヤーの過去を軸に展開していきますが、これが魅力的でした。 透は、難病で入院生活を送っていたが友人からチェスを教えてもらい生きる意味を見出す。 友達は死にますが、彼はその友の分まで生きようと思うのです。 その原動力はチェスでした。 チェス部の高校生の晴紀
感想 ラブカは静かに弓を持つ 安壇 美緒 2023年 本屋大賞 候補作、 第2位。音楽教室にスパイという設定が秀逸です。いい先生なので葛藤も半端ない。音楽の力というものを感じました。
武器はチェロ。 潜入先は音楽教室。 主人公は精神内科に通院中のスパイ。 何だ、これ。アニメみたいな設定だなというのが第一印象でした。 音楽教室で使用される楽譜にも著作権料を取るということで調査に入ります。 どういう実態なのかの把握が仕事です。 しかし、彼はこの先生の優しさや人間性の善良さに引き付けられて 気がつくとスパイであるということを忘れていて、ただの生徒として仲間と交流し、音楽に前のめりになっていく。 でも、仕事ですから、最終的には裏切るのであり、葛藤があります。