左右社

2005年設立の、人文書・文芸書を中心に刊行する出版社です。左右社という社名は書家の石…

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2005年設立の、人文書・文芸書を中心に刊行する出版社です。左右社という社名は書家の石川九楊先生に付けていただきました。亀のかめ吉を飼っています。

マガジン

  • 浅生鴨の短編三〇〇

    週に二本(ひと月に八本)の短編を三〇〇本掲載します。一篇ずつでも購入できますが、マガジンをご購読いただくと、ほんの少し割引になります。あとコメントは励みになります。誤字脱字の指摘も喜んで!(あまり喜ばない) このマガジンの連載をまとめた 第一集『すべては一度きり』 https://amzn.to/3MSgEOq 第二集『たった二分の楽園』 https://amzn.to/3P7uTRi 発売中。

  • 『#サーチして短歌ツイートすぐできる枡野浩一全短歌集』

    • 489本

    このマガジンの記事は『#サーチして短歌ツイートすぐできる枡野浩一全短歌集』一本のみです。あとの記事はおまけで、増えたり減ったりします。

  • ところで、愛ってなんですか?

    デビュー歌集『夜にあやまってくれ』から現在にいたるまで一貫して「愛」を詠みつづけてきた歌人・鈴木晴香さんが、愛の悩みに対してさまざまな短歌を紹介します。月一回更新予定です。

  • 『汚穢のリズム』期間限定試し読み

    『汚穢のリズム』収録のエッセイ3本を5/25まで期間限定で公開しています。 5/25にはMARUZEN&ジュンク堂書店梅田店様でイベントも開催。 https://honto.jp/store/news/detail_041000094774.html?shgcd=HB300 きたないもの、おぞましいものとは何か? 自分の身近なところから考えてみませんか?

  • 男の愛/町田康

    「海道一の親分」として明治初期に名をはせた侠客、清水次郎長。その養子であった禅僧・天田愚庵による名作『東海遊侠伝』が、町田版痛快コメディ(ときどきBL)として、現代に蘇る!! 月一回更新。 ★既刊『男の愛 たびだちの詩』(第1話〜24話収録)、大好評発売中★

記事一覧

ところで、愛ってなんですか? [第4回]

日曜日は、空が明るくなり始めたらBARを開けることにしている。朝はいい。姿の見えない鳥が鳴いていたり、昨日の続きを酔っている人がいたりする。人と世界、人と人との距…

左右社
6日前
20

【5/25まで期間限定・試し読み③ 『汚穢のリズム』】原口剛「嗅ぎわける──嗅覚の地理」

横浜・寿町にて もう二〇年ほど前のことだろうか。はじめて横浜のドヤ街・寿町をおとずれたときの経験を思い出す。関内駅に着いたころには、とっくに日は暮れていた。なじ…

左右社
10日前
3

【5/25まで期間限定・試し読み②『汚穢のリズム』】奥田太郎「整わない──断捨離とミニマリストとゴミ屋敷」

 どうにも本が捨てられない。子どもの頃から買い集めている大量のマンガもそうだが、最も深刻なのは、研究室の本棚に本が収まりきらない状態が続いていることだ。なるべく…

左右社
10日前
5

【5/25まで期間限定・試し読み① 『汚穢のリズム』】酒井朋子「だらしない──生活の旋律」

ずるずるした毎日 幼い頃からひとつのことに集中して取り組むのが苦手だった。  ピアノの練習をしていても、あらかじめ決めた時間を座っていることができない。ツェルニ…

左右社
10日前
2

弊履/町田康

 嘉永三年十一月、清水港は秋であった。次郞長方の表の方では箒とちり取りを持った乾分が落ち葉を掃いている。 「いやいや、こう落ち葉が舞い散ると掃除も大変でサアなー…

左右社
2週間前
6

水野しず最新刊『正直個性論』先行販売&フェア・サイン本情報

 全国書店およびネット書店での発売は5/31(金)からとなりますが、一部店舗での先行販売も予定しております。  「序文」を読んで、一足先に『正直個性論』を手に取りた…

左右社
1か月前
16

【無料公開】水野しず『正直個性論』/序文(今から常識では考えられないほど正直な個性の話をします)

 ミスiD2015グランプリを受賞後、文筆やイラストを中心にマルチに活躍する水野しず。2023年4月に初の論考集『親切人間論』を発表し、生活の些細な瞬間に根ざしたオリジナ…

左右社
1か月前
56

ところで、愛ってなんですか? [第3回]

暗闇に包まれていると、自分の躰がどこまであるのか、その輪郭がわからなくなる。どうしてもそれを確かめたくて、誰かを、何かを抱きしめたくなったりする。今はベッドに潜…

左右社
1か月前
29

骨折してもうれしい/町田康

 嘉永三年、九月の昼下がり、次郞長は家で物思いに耽っていた。人はなぜ生まれてくるのだろうか。死んだらどこに行くの? 酢味噌っておいしいよね。俺は好きだよ、といっ…

200
左右社
1か月前
11

【新刊】大塚ひかり『ひとりみの日本史』「はじめに」無料公開!

24年4月末、古典エッセイスト・大塚ひかりさんの最新刊『ひとりみの日本史』を左右社より刊行いたします。 刊行を記念して、本書の「はじめに」を特別無料公開いたします。…

左右社
2か月前
60

ところで、愛ってなんですか? [第2回]

BARの開店よりずっと前から、あたりは暗い。冬だ。 夏と冬どっちが好き、という質問に、生きている間にときどき巡り合う。その問いが投げかけられるのは、当然かもしれない…

左右社
2か月前
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国際女性デーに読みたい左右社の本16冊[2024]

1.レベッカ・ソルニット著/ハーン小路恭子訳『説教したがる男たち』 著者とも知らず「今年出た、とても重要な本を知っているかね」とソルニットに話しかけた男のエピ…

左右社
2か月前
24

やくざの喧嘩・福太郎敗亡

「いてもれ、アホンダラ」 「じゃかあっしゃ」 「こなくそ」 「ぎゃん」  ヤクザの喧嘩と言えばそのような罵声の飛び交う修羅場のように思われがちである。マア、実際に斬…

200
左右社
2か月前
11

【2万7千字無料公開】高橋和夫『パレスチナ問題の展開』、はじめに〜第二章まで試し読み公開!

★★★ 単行本は各書店、ネット書店様でご購入いただけます ★★★ ★★★ 電子書籍はこちらから ★★★ はじめに 動かないものは何か。中東の動向を見る際のポイントで…

左右社
3か月前
36

ところで、愛ってなんですか? [第1回]

愛とはなんだろう。 私とあなたの間にあって決して消えることのないもの、この宇宙が滅びてもそこに存在し続けるもの、誰にも奪われないもの、それが愛。愛は永遠無窮だ。 …

左右社
3か月前
59

福太郎の去り、次郎長の涙

 弘化二年。また夏がやって来た。次郞長は清水に戻って一家を構えている。「あすこン家は姐さんがいい。お蝶さんがいい」ってんで旅人がひっきりなしにやって来る。 「お…

200
左右社
3か月前
9
ところで、愛ってなんですか? [第4回]

ところで、愛ってなんですか? [第4回]

日曜日は、空が明るくなり始めたらBARを開けることにしている。朝はいい。姿の見えない鳥が鳴いていたり、昨日の続きを酔っている人がいたりする。人と世界、人と人との距離が、少しだけ離れている感じ。魂もまた、躰からちょっと遠くに行ってしまっているみたいだ。そんなとき、猫も人間も伸びをする。遊離した魂を元の場所に詰め直すみたいな静かな作業だ。

薄いひかりが積もったカウンターを眺めていると、からんとベルを

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【5/25まで期間限定・試し読み③ 『汚穢のリズム』】原口剛「嗅ぎわける──嗅覚の地理」

【5/25まで期間限定・試し読み③ 『汚穢のリズム』】原口剛「嗅ぎわける──嗅覚の地理」

横浜・寿町にて もう二〇年ほど前のことだろうか。はじめて横浜のドヤ街・寿町をおとずれたときの経験を思い出す。関内駅に着いたころには、とっくに日は暮れていた。なじみだった大阪の釜ヶ崎が新今宮駅の目の前に広がるのとはちがって、寿町は関内駅からやや離れた場所にある。頭に入れておいた地図をたよりに歩き出したものの、ドヤ街にたどり着けそうな気配がない。さすがに不安になりはじめ、地図を広げて確かめようかと思い

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【5/25まで期間限定・試し読み②『汚穢のリズム』】奥田太郎「整わない──断捨離とミニマリストとゴミ屋敷」

【5/25まで期間限定・試し読み②『汚穢のリズム』】奥田太郎「整わない──断捨離とミニマリストとゴミ屋敷」

 どうにも本が捨てられない。子どもの頃から買い集めている大量のマンガもそうだが、最も深刻なのは、研究室の本棚に本が収まりきらない状態が続いていることだ。なるべく背表紙が見えるように工夫しながら、できるだけ多くの本が入るように並べてきたが、それもやがて限界を迎え、本棚以外のスペースへと本が積み上がり始める。研究室の床に大量に本を積み上げている同僚も何人かいるが、有限の本棚を前に本を入手し続けると、畢

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【5/25まで期間限定・試し読み① 『汚穢のリズム』】酒井朋子「だらしない──生活の旋律」

【5/25まで期間限定・試し読み① 『汚穢のリズム』】酒井朋子「だらしない──生活の旋律」

ずるずるした毎日 幼い頃からひとつのことに集中して取り組むのが苦手だった。
 ピアノの練習をしていても、あらかじめ決めた時間を座っていることができない。ツェルニーの練習曲にあわせるメトロノームをセットしようと椅子を立とうものなら、そのまま水を飲みに台所に行き、口さびしいので戸棚を開いてアメを探し、あきらめてトイレに行って、戻ってくると「ちょっとだけ」とソファの上に置いてあった漫画を読む。しかも何度

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弊履/町田康

弊履/町田康

 嘉永三年十一月、清水港は秋であった。次郞長方の表の方では箒とちり取りを持った乾分が落ち葉を掃いている。
「いやいや、こう落ち葉が舞い散ると掃除も大変でサアなー」
「マア、ね。こっちは博奕をして、白粉をつけた女からかって、毎日をおもしろおかしく暮らしてぇと思ってやくざになったんだが、どーにも調子が狂っちまう」
「ふんとーにナー」
 とぼやいているところ、次郞長の女房、蝶が風呂敷包みを抱えて出てきた

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水野しず最新刊『正直個性論』先行販売&フェア・サイン本情報

水野しず最新刊『正直個性論』先行販売&フェア・サイン本情報

 全国書店およびネット書店での発売は5/31(金)からとなりますが、一部店舗での先行販売も予定しております。
 「序文」を読んで、一足先に『正直個性論』を手に取りたくなった方、ぜひ先行販売をご利用ください。フェアやイベント、サイン本の展開も目白押しです!

【5/19以降】 先行販売■5/19(日)文学フリマ東京38@水野しずブース 
・限定50冊を先行販売。その場で著者がサインします。 完売御礼

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【無料公開】水野しず『正直個性論』/序文(今から常識では考えられないほど正直な個性の話をします)

【無料公開】水野しず『正直個性論』/序文(今から常識では考えられないほど正直な個性の話をします)

 ミスiD2015グランプリを受賞後、文筆やイラストを中心にマルチに活躍する水野しず。2023年4月に初の論考集『親切人間論』を発表し、生活の些細な瞬間に根ざしたオリジナルな問いを深め、饒舌かつ鋭く切り込む無二の書き手として注目を集めています。
 今回テーマとするのは「個性」。noteでの連載マガジン「おしゃべりダイダロス」で好評を集めたエッセイに大幅な加筆修正を加え、『正直個性論』として5月末に

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ところで、愛ってなんですか? [第3回]

ところで、愛ってなんですか? [第3回]

暗闇に包まれていると、自分の躰がどこまであるのか、その輪郭がわからなくなる。どうしてもそれを確かめたくて、誰かを、何かを抱きしめたくなったりする。今はベッドに潜り込んだまま猫のぬいぐるみを抱いて、私と夜の位置を確かめていた。台風みたいに時々じゃない。夜は毎日訪れる。そのことを恐れているわけではなかった。ただ、かならず繰り返す夜の律儀さに打ちのめされて、その生真面目さにちょっと呆れてしまうのだ。いつ

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骨折してもうれしい/町田康

骨折してもうれしい/町田康

 嘉永三年、九月の昼下がり、次郞長は家で物思いに耽っていた。人はなぜ生まれてくるのだろうか。死んだらどこに行くの? 酢味噌っておいしいよね。俺は好きだよ、といった事柄について。と、その時も表の方に旅人が立った。
 入り口のところで膝を突いて手を後ろにやって、どうしたって刀を抜けない恰好をするのは、「当家にお手向かいするんじゃありません」と言うのを口で言わず、形で見せるやくざのしきたり、「お控えなす

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【新刊】大塚ひかり『ひとりみの日本史』「はじめに」無料公開!

【新刊】大塚ひかり『ひとりみの日本史』「はじめに」無料公開!

24年4月末、古典エッセイスト・大塚ひかりさんの最新刊『ひとりみの日本史』を左右社より刊行いたします。
刊行を記念して、本書の「はじめに」を特別無料公開いたします。

【特別無料公開】 「はじめに 日本の歴史を貫く「ひとりみ」の思想」
「ひとりみ」を肯定的に描く日本の大古典

「生涯未婚率の上昇」や「晩婚化」が叫ばれて久しい日本です。
 また一方では、「少子化」も問題となって、政府は躍起になって少

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ところで、愛ってなんですか? [第2回]

ところで、愛ってなんですか? [第2回]

BARの開店よりずっと前から、あたりは暗い。冬だ。
夏と冬どっちが好き、という質問に、生きている間にときどき巡り合う。その問いが投げかけられるのは、当然かもしれないけれど決まって夏か冬だ。そんなとき、夏には冬と、冬には夏と答える。だって、いま目の前にないものを愛したくなるものでしょう?

ここは愛の相談所〈BAR愛について〉。店を開けてしばらく本棚の埃を拭いていると、埃がライトに当たりながらきらき

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国際女性デーに読みたい左右社の本16冊[2024]

国際女性デーに読みたい左右社の本16冊[2024]


1.レベッカ・ソルニット著/ハーン小路恭子訳『説教したがる男たち』

著者とも知らず「今年出た、とても重要な本を知っているかね」とソルニットに話しかけた男のエピソードに始まる、傑作フェミニズムエッセイ。「マンスプレイニング」という言葉が世に広まるきっかけに。

2.レベッカ・ソルニット著/ハーン小路恭子訳『わたしたちが沈黙させられるいくつかの問い』

「ご結婚は?」「ご主人は?」「お子さんは?」

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やくざの喧嘩・福太郎敗亡

やくざの喧嘩・福太郎敗亡

「いてもれ、アホンダラ」
「じゃかあっしゃ」
「こなくそ」
「ぎゃん」
 ヤクザの喧嘩と言えばそのような罵声の飛び交う修羅場のように思われがちである。マア、実際に斬り合いになれば、そんな声も上がるが、その前段階、実際の喧嘩に至るまでは割合と面倒くさい駆け引きが続いた。

 弘化二年夏、次郞長の家を出た八尾ヶ嶽宗七は尾張で一家を構えることに成功した。と書けば一行で済む話だが、それが出来たのは八尾ヶ嶽

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【2万7千字無料公開】高橋和夫『パレスチナ問題の展開』、はじめに〜第二章まで試し読み公開!

【2万7千字無料公開】高橋和夫『パレスチナ問題の展開』、はじめに〜第二章まで試し読み公開!

★★★ 単行本は各書店、ネット書店様でご購入いただけます ★★★

★★★ 電子書籍はこちらから ★★★

はじめに 動かないものは何か。中東の動向を見る際のポイントである。つまり何が変わり、何が変わらないのか。変わらない構造を見つめつつ、変わる情勢にも目配りしたい。本書での著者の試みである。本書の母体となったのは、『第三世界の政治 パレスチナ問題の展開』(放送大学教育振興会、一九九二年)である。

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ところで、愛ってなんですか? [第1回]

ところで、愛ってなんですか? [第1回]

愛とはなんだろう。
私とあなたの間にあって決して消えることのないもの、この宇宙が滅びてもそこに存在し続けるもの、誰にも奪われないもの、それが愛。愛は永遠無窮だ。
いやいや、まさかそんなはずはない。愛のせいで人間は何千年も何万年も地球の上で迷子になっているじゃないか。私たちはなんでこんなに寂しくて、愚かなんだろう。ぜんぶぜんぶ愛のせいだ。そう海に向かって、空に向かって、叫びたくなる。

そんなとき、

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福太郎の去り、次郎長の涙

福太郎の去り、次郎長の涙

 弘化二年。また夏がやって来た。次郞長は清水に戻って一家を構えている。「あすこン家は姐さんがいい。お蝶さんがいい」ってんで旅人がひっきりなしにやって来る。
「お控えなすって。手前、生国と発しまするは……」
 ってアレである。それはやくざの親分としてはいいことなのだけれども困った事があった。というのは。そう、旅人が米の飯を食う、という一事であった。
 次郞長方には毎日数十人の旅人が来て、次郞長一家で

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