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嗚呼、恐い怖い 2020

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怖いはなし、恐いはなし 嗚呼、恐い怖い コワイはなし、読んでいかんか 嗚呼、恐い怖い コワイはなし、見ていかんか 嗚呼、恐い怖い コワイはなし、やっていかんか
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記事一覧

頭だけの少女

頭だけの少女

 恋人が戦争にいってしまった少女がいました。
 今日帰ってくる、明日帰ってくると花びらを数えて、恋人の帰りを待ちこがれていました。すると少女のつま先が透き通り、煙のように消えてしまいました。少女はそれでも恋人を待ちました。
 
 やがて飛行機が空を焦がし、空が真っ赤に染まりました。少女は大きな音におびえながら、うずくまっていました。少女の膝は煙を出して消えてしまいました。少女はそれでも恋人を待ちま

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木乃伊蕎麦

木乃伊蕎麦

 なんだってお客さん? 木乃伊蕎麦? いやあ、残念だねえ、ちょいと遅かったよ。だってえ、いなくなっちまったのさ。えっ、その後はどうなったかって? さあねえ。木乃伊蕎麦がなくなっちまったときは、みんな一時物狂いみたいになっちまってさ、そりゃあもうてえへんだったんだ。ありゃあ仕舞にならなきゃお上に取り締まられるのがオチだったね。
 風鈴蕎麦屋の親父はそう言って仕事に戻っていきました。

 件の木乃伊蕎

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ほおずき市

ほおずき市

 ほおずき市があると、夏が近づいてきたという気持ちになる。その頃には空気がねっとりと重くなり、湿気をはらんで少し甘い香りがする。あ、夏がくる、と思う。
 彼と一緒にほおずき市にいった。近所にある大きな神社で行われている。神社に近づくにつれ、すでにほおずきを手にした中年の男女とすれ違う。これからほおずき市にいこうと、私達と同じ方向に歩いている人達もいる。
 浴衣を着た女の子に目をとられながら歩いてい

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わらうねこ

わらうねこ

 小さな猫が五匹、軒下に住み着いて、体を寄せあって眠っていた。
 それを見つけた少女は、きっと捨てられたのね、と思ったが、そのうち五匹の猫のあたたかさとやわらかさをすっかり気に入ってしまった。軒下に潜り、五匹の猫と一緒に眠っていると、とても安心した。そのふわふわとした毛をなでていると、とても慰められる思い位がした。少女も孤独だった。
 少女は台所から鶏肉をもってきて猫へやった。五匹の猫たちはとても

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じゃヴぁうぉっく

じゃヴぁうぉっく

 頬に当たる冷たく堅い感触に、目を覚ました。
 あたりは暗くてしんとしている。
 目が痛くなるほど暗く、床もあたりの空気も冷ややかだった。
 ようやく自分の体を感じて、頭をあげた。
 仕事場だった。
 照明は落ちて真っ暗で、客はもちろん、スタッフも誰もいない。
 警備員の巡回を期待するが、なぜか無駄なような気がした。
 
 なぜ眠っていたのだろう。
 仕事中に眠ってしまったのだろうか?
 どうして

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悪夢01号

悪夢01号

「夫ではない」何かから逃れたい。
 必死に声を出そうとするけれど、何度やっても音にならない。
 左腕は自由になったけれど、のしかかる「男」の重みは増してくる。
 けれど、夫にしては「軽い」。
 だから、絶対に「男」は夫ではない。
 おーい!
 必死の声だった。
 名前を呼ぶほどの余裕はなかった。
 ただ、おーい、おーい、と必死に叫ぶだけ。
 気づいてほしい、ただそれだけのために。
 苦しい。
 知

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見知らぬ本

見知らぬ本

  気づくと、見知らぬ本があった。
 はじめは時々見つける程度で、あまり気にしなかった。
 祖父が読書好きということもあって、実家の祖父の部屋には四方に本棚があり、あふれた本が山積みにされていた。
 だから、大概の本には見覚えがある。
 しかし今、私の部屋に見知らぬ本がある。
 私も祖父に似て本好きで、友人と本の貸し借りもしていたので、知らない間に誰かが置いていったのだろうというくらいにしか考えて

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虚ろ眼

虚ろ眼

 久しぶりに日比谷線に乗った。乗った途端に異臭が鼻をつく。温泉でよくあるような、硫黄の臭いだ。何故電車の中で硫黄の臭いがするのかわからない。それもかなり強い。
 臭いの元をなんとなく探しながら周囲を見回すと、空席があった。疲れてはいなかったが、腰を下ろす。そうして、乗客たちの観察を始めた。いつもの暇つぶしで、スマホばかり眺めているのより随分面白い。
 口元を隠して熱心に話し込む年配の女性や、じっと

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かえるのだんなさま

かえるのだんなさま

 ある庭で、少女が鞠付きをして遊んでいました。
 金色の糸が縫い込まれたきれいな紅い鞠でした。
 少女は金色の糸で刺繍されたきれいな紅い振り袖を着ていました。
 少女はころころと歌いながら機嫌良く鞠をついていましたが、なにかの拍子に鞠は少女の手から離れ、ほろほろと転がっていってしまいました。
 少女は鞠をおいかけます。
 とてもお気に入りの鞠なのですから。
 やがて鞠は転がるのをやめて、翡翠色をし

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シャワー

シャワー

 寒い夜だった。
 秋になりはじめて、夜中から明け方にかけて足下が冷えた。
 そんな夜にふと目が覚めて、自分の足の冷たさに震えた。電気毛布を出していたので、尚早かとは思いつつもスイッチをいれ、ごくわずかに温めた。
 それでなんとか足を温めて、無理矢理寝返りをうつ。狭いベッドの中で、毛布が巻き付いてくる。
 それから部屋がしんとしているのを感じて、なんとなく落ち着かなくなった。
 静かすぎるのは苦手

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週末、一人キャンプ

週末、一人キャンプ

 もうすぐ夕方になる。完全に暗くなる前に、のんびりと夕飯をたべることにしよう。
 缶詰の大ぶりのツナ、それからホワイトアスパラ。火を熾して、スキレットにオリーブオイルを敷いてそれらを炒める。香ばしいかおりがしてきたところで、塩胡椒をふる。
 カップに湯を沸かして、その間にコーヒー豆を手挽きする。いい香りが漂う。
 葉の香り、枝の香り、土の香り。
 様々な香りが、風に乗って僕を包み込んでくる。
 そ

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斑狂ひ

斑狂ひ

 産まれたばかりの赤子は、母親ばかりか村中を驚かせました。
 男の赤子の首には目立つ丸い痣があり、まるで誰かが親指で墨を付けたかのようでした。
 脱げば体には斑の模様がいくつもあり、痣のないのは手と顔だけでした。特に背中にたくさん斑痣はあり、南蛮からやってきた獣のような具合でした。
 村人たちははじめは気味悪がりましたが、赤子がまじめな少年に成長するのをみて、そのうちみな慣れていきました。
 男の

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