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【創作大賞2024応募作恋愛小説部門】ブルーアネモネ(8)
マサさんは一度、店の外へ出て行き、すぐに戻ってきた。
「今日は臨時休業にするよ。有紀ちゃんもいない事だしな。ゆっくり話そうか?」カウンターの中に戻りながら、マサさんがそう言った。
「えっ?いいんですか?」
「ああ、河端ゼミの連中は、今日から助教の大川君の引率で台湾に研修旅行で行ってるから来ないし、他の学生は札見てよそに行くだろう。まあ、たまにはいいじゃねえか。」
「ホント、すいません。」
「いいっ
【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】ブルーアネモネ(7)
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9月もあと数日で終わりという日なのに、今日はずっと真夏みたいだった。でも、夕方5時に迫ると、流石に辺りの空気は夕方のそれとなり、少しだけ温度も湿度も下がったような気がした。僕はTシャツ一枚だけだ。何か羽織るものを持ってくればよかったなと思いながら歩き、ブルーアネモネに着いた。
ドアを開けると、カウンターの中にマサさんがおり、有紀ちゃんはいなかった。
「お邪魔します。」
「いらっしゃい。流石いつ
【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】ブルーアネモネ(6)
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午後3時には、検査は全部終わった。
午後5時に、おじいちゃんの秘書の大友さんが病室に来て、「和臣さん、帰りましょう」と言った。
「えっ?帰れるんですか?」
「ええ、すぐに検査結果を出してもらいましてね。流石はお若い。取り敢えず、何も問題ないようです。で、過労という体調不良という診断結果になるようです。」
「そうですか。では、明日からは会社に行ける?」
「いや、それは診断書に2週間の安静が必要と
【創作大賞2024応募作・恋愛部門】ブルーアネモネ(5)
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僕は一人で各停の電車に乗った。11時半、こんな時間に新宿行きの各停に乗る人は少なく、ガラガラの車内で僕は一人座った。
僕のマンションは大学時代から変わらず、高見が原駅から3つ新宿に近い駅が最寄りだ。高見が原は急行が停まるが、僕の駅はそれがないので、通勤には通勤準急を使う。そうなると、たった3駅遠いだけなのだが、高見が原は急に縁遠くなってしまった事を実感していた。
たった3駅、たった3駅遠いだけ
【創作大賞2024・恋愛小説部門応募作】ブルーアネモネ(4)
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大きめにカットされた抹茶のシフォンケーキの載った皿が出された。
その後、プリンが載っている銀の足付きの皿が回された。今日は、デザートも豪華で、ブルーアネモネスペシャルだ。
「シフォンケーキにホイップクリームがいるヤツは、これから回すから自分で好きなだけ取ってくれ。後、プリンのメイプルシロップもな。」とマサさんが言うと、クリームが入った三角形の大きな絞り器をアカネに手渡した。アカネが絞ると、次に
【創作大賞応募作・恋愛小説部門】ブルーアネモネ(3)
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コーヒーの後、すぐにサパーセットがみんなに配られた。
ブルーアネモネ特製のサパーセットは、トレーのような1ディッシュに、耳を切り三角形に二つ切りされたバターがたっぷり塗られている厚切りのトーストがあり、その横に小学校低学年が履くビーチサンダルほどの大きさの小判型のメンチカツが一つ。このメンチカツも分厚くて、厚みは2㎝以上ある。メンチカツには店特製のソースがかかっており、これが普通の中農ソースと
【創作大賞2024恋愛小説部門応募作】ブルーアネモネ(2)
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ブルーアネモネは、外観に変化はなかった。それは当たり前だ。たった半年ぐらいで、急に古びたり、小さく見えたりしないものだ。でも、久し振りだから、ひょっとしたら何か違って見えるのではと思っていた。でも、全く変わりがなかった。
店のドアまでに外階段を4段上がると、入口の横の大窓から中が見える。日差しが強い日はブラインドが降りてたりするのだが、夏の終わりの今日は落陽の時間とはいえ、そんなに気にならない
創作大賞応募作として「ブルーアネモネ」の連載を始めました。私にしては珍しく「録って出し」ですので、書きあがったものを順次上げていきますので、必ずしも定期的ではありません。宜しければお楽しみいただければと思いますので、何卒宜しくお願い致します。
【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】ブルーアネモネ(1)
●あらすじ
私立清廉学院大学は、東京近郊の私鉄駅高見が原駅が最寄だ。駅前は栄えていて、大きな繁華街が広がり、商店街が伸びる。その商店街の端っこに僕たち清廉学院大学の河端ゼミの学生が足しげく通う店がある。「コーヒールーム・ブルーアネモネ」だ。
ブルーアネモネは、実は河端教授の自宅を改装した店で、店主(マスター)は僕らのゼミの担当教授・河端良平先生の義理の弟である正岡祥佑さんだ。
ブルーアネモネは変わ
マナリです。引き続き創作大賞エントリーに関するお知らせです。ミステリー小説部門に完結している「探偵里崎紘志朗 My sweet dear」と、現在進行中の「探偵里崎紘志朗 Moonbow」も応募する事にしました。moonbowはこれから順次アップします。良ければお読みください。
マナリです。いつもありがとうございます。「通じる」「通じるその後」を一つの作品「通じる」として、創作大賞の恋愛小説部門にエントリーしました。適えば応援していただきますと幸いです。何卒宜しくお願い申し上げます。
【短編小説】土砂降りの雨が降る
8月、真夜中の銀座。
土砂降りの雨。
俺の車以外にタクシーはおらず、ただ一台俺だけコリドー街の近くの路地で無線待ちをしていた。
よく天気予報士が言う「バケツをひっくり返したような大雨」とは、今の状態を指すのだろう。
フロンドガラスを流れる雨水はもはや、粒ではなく、上から落ちてくる水の塊だ。
私は、アイコスをくわえ、ぼんやりと水に流れるネオンの灯りを見ていた。
少しの雨なら、売上が上がる
【短編小説】小生先生、走る!
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「では、これで添田先生のみんなの作文のコーナーを終わります。今日も添田先生、ありがとうございました。」
「こちらこそ、ありがとうございました。このラジオを聴いてくれてるみんなも、ありがとうございました。みんなまた、楽しい作文を書いて送ってくださいねえ。」
off…
「先生、ありがとうございました。」
「いや、ありがとうございました。では、私はもう行かなきゃ。」
「今日はどちらですか?」
「
【ちょっとだけ推理小説】笑ってよ、ルーカス(3/3)
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私と、ルーカスは朝、病院から帰った。
家への帰り道、ルーカスが笑ったのを、私は問いただした。
「ルーカス、全部、分かったの?」
ルーカスは、鼻を鳴らした。
彼が鼻を鳴らす時は、まだ、という合図だ。しかし、真相には迫っているとみて間違いない。
「いいわ。じゃあ、分かったら教えてね。」
ルーカスは神妙な顔をして頷いた。
午後。署に出勤すると、形ばかりの捜査本部が設置されていた。
密室の殺人