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10秒の魔術

 週明けの月曜日、実家の兄がコロナウイルスに罹患したという知らせを受けた。

 県内の感染者も上昇傾向が止まらないのでついに身内に感染者が出たかと気の引き締まる思いだった。

 兄は一緒に暮らしている両親に気を遣って会社の寮で静養することを選んだそうである。

 状況が気になったので兄に具合はどう?と連絡してみたら病院で貰った薬のおかげで随分楽になったと言っていた。

 不特定多数の人と会う職業なので感染経路は不明との事。

 会社が食事や身の回りのことをやってくれるらしく助かると言っていた。

 ワクチンは三度打っているので症状が軽めなのかもしれない。

 いずれにしても感染症という病気が身近にある事に戦慄を覚える。

 高齢な父や母もこれまで以上に手洗い、うがいとマスク着用を徹底するそうである。

 しばらく実家には顔を出せないので無事にこの緊急事態を乗り越えてほしい。

 そんな事があったので気分が落ち着かずバタバタしていた。

 昨日あたりから気温が上がり始めてカラリとした夏の空気に入れ替わり始めてきた。

 そうなると晩御飯は冷たいものが欲しくなる。

 昨日は夏の定番そうめんにする事にした。

 我が家の定番のメーカーのそうめんをスーパーで買い求めて薬味になるような食材をいくつか選んだ。

 それからちょっと高級なビールをかごに入れた。

 支払いを済ませてから車に乗り込むと西日に照らされた車内は暑くてたまらなかった。

 エアコンを全開にして走ったが効きがいまいちであまり涼しくない。
 
 そういえばフィルターの交換って最後にいつしたっけ?と思った。

 ガソリンスタンドで交換するとあれこれと不具合を言われて目が飛び出るような金額を請求されるので近くの車屋さんに頼むのに限る。
 
 早くいけばいいのに何となく足が向かないのは自分が悪い。

 そんな事を考えながら帰宅して手洗いとうがいをしっかりと行って晩御飯の支度をする。

 メインのそうめんは最近話題の作り方の「茹でない」そうめんにチャレンジすることにした。

 あっという間に出来るのでその前につまみになる副菜を作る事にした。

 モヤシを良く洗ってレンジで二分加熱する。

 その間にザーサイを刻んでおく。

 レンジがピーと鳴ったらボウルにモヤシをあけてそこにザーサイを加える。
 
 味付けは鶏がらスープの素とナンプラーとごま油と隠し味に砂糖を一つまみ加える。

 これでモヤシとザーサイのナムルの出来上がり。

 お次はそうめんの番。

 たっぷりのお湯を沸騰させて梅干を一粒加えておく。

 そこにそうめんをザッと加えて全体を軽くかき混ぜる。

 十秒ほどしたら火を止めてフタをして五分程度蒸らす。

 後は冷水にとってぬめりと粗熱を取ったら出来上がりである。

 ちょっと味見をしてみたが麺にしっかりとしたコシがあって火も通っている。

 薬味は大葉と梅干しと辛くないラー油を揃えた。

 居間に料理を並べてビールをコッコッコッとグラスに注いでいただきます。

 グイッとビールを飲むと汗がスウッと引いていくのが分かる。

 生粋のビール党なので口開けはやはりこの刺激が嬉しい。

 ではではとさっそくそうめんを麺つゆにつけて頂く。

 麺がいつもよりほぐれやすくてスッと取れる。

 おっ、と思ってズズッとすすると抜群の茹で具合でシコシコプリプリしてとても美味しい。

 そうめんの袋の裏に書いてある茹で時間は一分半から二分と書いてあるがほとんど茹でないこのやり方でもしっかりと熱が入っていた。

 そして同時に入れた梅干に含まれる酸の効果で麺にコシが加わると言うのを実感した。

 箸休めにモヤシナムルを食べるとサッパリした味わいでザーサイのやや強めの塩気が全体を上手くまとめていてなかなかのお味。

 ごま油もいい仕事をしている。

 そうめんは薬味に大葉を加えるとよりサッパリして好ましかった。

 途中で辛くないラー油味ももちろん堪能した。

 全部で300グラム茹でたのだが三分の二くらいペロリだった。

 残ったそうめんは冷蔵庫にしまっておいた。

 翌朝に麺の状態がどうなっているか興味深々に確認してみた。
 
 一晩たったら普通のそうめんだとコシがグニャグニャになって麺同士がくっついて始末が悪いが、この茹で方だと驚くことにまだコシが残っており食べ頃の状態だった。

 残ったそうめんは今晩は温かいお出汁で食べるにゅう麺にしたい。

 もう少し固めの麺が良かれば蒸らし時間を短くすればいいはずである。

 いかがだろうか、夏のヘビーローテーション食材のそうめんを楽しく食べる方法として提案する。

 まだまだ知らない調理法があると思うとワクワクする。

 いやぁ料理の世界は可能性無限大だなぁ。

 

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