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雑草と鬼~早春編~


3月に入ると植物が一斉に芽吹き始める。見上げれば満開の黄色いセイヨウサンシュシュや白いマグノリア。視線を下に向ければクロッカスやプリムラ。

クロッカスと背後はバイロイトの祝祭劇場

深呼吸しながら思う。
ああ、春だなあ。 

きたるシーズンに向けて宿根草をきり戻したり、雑草を駆除して畑や花壇の準備をしてやらなければならない。

「雑草」なんて書くと、植物愛好者の皆様からは「雑草なんて植物はありませんよ」とお𠮟りを受けてしまうかもしれない。

いや、ごもっとも。

でも、人間が本来育ってほしいと思っている植物の横にどんどん勢力を伸ばして光や養分や水を奪ってしまう植物はやっぱり雑草。

見渡すとありゃりゃりゃりゃ・・・ここにもあそこにもはびこっている。暖冬だったからねえ。それにしたってなんとも精力旺盛に育っていらっしゃるじゃありませんか。 生まれ育った場所が森や野原であったならば野草として愛でられたろうに。。。

グイッと足元からすくいなげ


こっちも仕事ですからね、消えていただくしかないんですよ。ごめんなさいね、と詫びるふりをして、鬼の形相で小型の鍬のようなものを手にガンっ、がんっ、ガンと根元を攻める。足をすくわれた雑草どもが次々になぎ倒されていく。

ほうら、どうよ。おらおら、そこのけそこのけ。

雑草たちからしたら私はまるで山からおりてきて金棒を振り回して里を襲う鬼以外の何物でもない。

深く根のはるタイプの雑草はアスパラガスを収穫する時につかう器具でぐいっと根こそぎ掘り上げる。

手前が本来はアスパラを掘る道具、雑草の根っこまでグイッ

どうだ参ったか!
 
夏ならば、すくい投げをくらった雑草たちは根がむき出しになって照りつける太陽の光で即効、干上がる。襲っておいて、さらにそのうえ乾き死にさせるとは、これぞまさに鬼の所業。

けれども寒さ残る早春の陽光だとそう簡単にはやられない。ちょっとの水分があれば耐えられる。ひっくり返ってもよろよろと立ち上がってきそうな気迫さえ感じられる。そりゃそうだ、雑草だって待ちに待った春がやってきたんだ。早々には降参はできない。

ならばだ。

せっかくのそのエネルギー、食してこちらに分けてもらおうではないの!(鬼の酒盛り、いや宴会だ!)
 
ということではびこる雑草軍団から精鋭の3種類を選抜して食卓にあがっていただくことにした。しかし、毒を盛られて逆襲をくらってはたまらない。その場でとりたてを味見することにしよう。
 
1)ノラニンジン(Daucus carota)に似たもの

その名で分かるように、人参の野生種(原種)といわれる。ほかのニンジン属と交配されて私たちが普段口にする栽培種の人参が生まれたらしい。ヨーロッパ原産で、近年は日本でも外来種として繁殖しているそう。

地下部分まで堀ると、白いひょろひょろの長い根っこが出てきた。この長さだとよっぽど深く掘らないと根が残ってしまう曲者だ。

葉っぱかじると、おっ、これはまさにニンジンの葉の濃厚な味。健康によさそうな感じ。根っこの味はいまいち不明。

 2)ミチタネツケバナ(Cardamine hirsuta)

ロゼット状に広がる葉と白い花はそれだけみたら、かわいらしい。でも種がつまった鞘をちょっとふれるだけで鞘がはじけてタネがパーンと(最大1.4mの範囲)飛び散る。まるでいくら襲っても子孫が復讐にやってくる感じ。一年に何回もタネのできるという何とも手ごわい一族。

さやからタネがパーンと飛び散る。可愛い顔してるのにねえ

その質の悪さを補ってあまりあるのがそのお味。
おっ、イケる。クレソンに似たさわやかな辛み。クレソンもミチタネツケバナもアブラナ科で同じような性質を持っているのだから当たり前か。 

3)ノヂシャ(Valerianella locusta)

野生種を品種改良したものが、冬の大切なビタミン源として野菜売り場に欠かせない存在にまで昇格しているノヂシャを雑草扱いしたら「失礼な!」と憤慨されてしまうかも。

ドイツでは野原のサラダ( Feldsalat)という商品名で売られているけれど、ラプンツェルサラダと呼ばれることもある。。

こちらがスーパーで売られているノヂシャ

それはグリム童話で、魔法使いによって閉じこめられたラプンツェルと名付けられた女の子の物語に由来している。

童話の中で長年、子宝に恵まれなかった農夫とその妻が子供を授かり、妊娠中に隣の魔法使いの畑の「ラプンツェル」を食べたがったので農夫が盗んで食べさせてやるという下りがある。

ラプンツェルがどんな野菜?あるいは植物だったかは諸説があってノヂシャとともにハタザオギキョウ(Campanula rapunculoides)という説もある。

盗んだのがバレて子供を魔法使いに渡すはめに。。

真相はグリム兄弟に聞くしかないけれど、でもやっぱり妊婦にとって大事な栄養成分である鉄分を多く含んノヂシャがラプンツェルだったんじゃないかなあ。ムシャムシャ味見しながらそんなことを思った。
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持ち帰った3種類は土を洗い流し、細かく刻んでサラダ菜にパラりとまぜこむ。

ふりかけ状態でサラダ菜と混ぜ合わせる

タダだし、沢山あるんだからモリモリ食べてやれ、と大量に食べようとすると食べなれていない人は無理がたたるような気がする。自然から早春の香りとエネルギーを少しおすそ分けしていただくような気持ちで、ほんのちょっぴしでいい。

いただきまーす。

あっという間に今年ももう3月。新年に立てた目標を見返しながら早くも、これは来年に持ち越しだな、なんて弱気になっている。いかん、来年のことをいうと鬼に笑われるんだった。

生命が萌えだす春だもの。気持ちも新たにまたスタートしよう。
 

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