回文ショートショート 源頼朝の悲しみ
●回文
マット敷くな! と頼朝舞う。
馬も鳥よ、と泣くし、と妻。
●書き下し文
まつとしくなとよりともまう
うまもとりよとなくしとつま
●解説
弟の義経を殺してからというもの、執政者たる頼朝も多少情緒が不安定になることがあった。不意に何か詩的なことを言って泣きつれたり、突然に舞を舞ったりするのである。しかもいつ舞いたくなるのか、自分でも分からない。足元が滑るので冬の寒い頃でも「マットを敷くな!」と侍従に命じているほどだ。
その奇異な行動が実は義経を悼んでのことなのだ、ということを妻の御台所、北条政子は知っており、義経の愛妾であった静御前にその歌の内容などを言わずにはおれないのであった。
「馬も(今は)鳥よ」というのは、鞍馬山の天狗に鍛えられたこともあり、一騎がけの勇猛であった九郎判官(義経のこと)はまさしく人馬一体で遠くギリシアの神話で言うところのケンタウロスとか何かのようだったが、今は奥州で命を落として鳥のように飛んでいってしまったのだな、と憐んでの言葉と解釈されている。
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