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ユニゾンの曲=試験問題

 UNISON SQUARE GARDENは世界一かっこいい三人組だと思うんだ。この世の中、三人組またはトリオと呼ばれる存在は多々いる。ロケット団、ずっこけ三人組、四千頭身、その中でも群を抜いてカッコいい3人組が彼ら「UNISON SQUARE GARDEN」だと思う。(以下ユニゾンと表記)

 ユニゾンを知ったのは、私が高校1年生の時。そのときの私は空前の音楽ブームにあった。高校生になりたての私は、スマートフォンを手にし、世間で流行っているロックバンドをひたすらに聴き漁っていた。いろいろと耳にする中で、「おっ」と思わず耳が唸ったのはこの、ユニゾンを聴いた時だった。

 当時、いわゆる邦ロックというジャンルが主な流行で(私の周りでは)、ギターボーカル、ギター、ベース、ドラムの4要素で奏でられる音楽が多い中、ユニゾンはひとり少ないスリーピースと呼ばれる3人組。音楽を少し齧っている人ならわかるかもしれないが、ユニゾンの曲は本当に3人で奏でているのか?と思ってしまうくらいにスゴイのだ。ボーカル斎藤宏介は男性には出せないようなミックスボイスを用いた声に超絶ギター、ベース田淵智也はバンドのほぼ全楽曲の作詞作曲を手がけ、他のアーティストにも曲を提供するなどの才能の持ち主に加え、ライブでは複雑なベースラインを弾きながらステージ上を縦横無尽に駆け回るアクティブさ。そして、ドラム鈴木貴雄は異次元の手数と安定のドラムさばきでこのフロントマン2人を支えている。言葉で伝わるかわからないが、とにかくスゴイバンドなのである。

 だが、当時高校生だった私は、楽器に触れたことがなかったのでそういった技術的な話は一切わからなかった。単に聴いた感じがスゴイ気持ちよく耳にスッと入ってきたことと、歌詞がおもしろかった(興味深かった)ことが、私がユニゾンにハマったきっかけだった。音楽を聴くのにはそれだけで十分なのだと、今振り返ると実感する。

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 ワードセンスがスゴイなと思った。初めて聴いたユニゾンの曲は正直覚えていないのだが、彼らの代表曲「天国と地獄」を聴いたことはあるだろうか。私は高校生活3年間の中でこの曲を一番聴いたのではないかと思っている。ハチャトゥリアンにも是非聴いてほしい。

この曲は非常にスピード感がある曲なのだが、その中に非常に多くの語数が詰め込まれている。しかもあまり見ないような言い回しや単語が羅列していて、現代文が得意だった私はそこに魅力を感じた。この曲に出てくる単語を見ると、「札束」「名簿」「トライアド」「容疑者」「気概」「殿方」「質素と善行」「無邪気で狡猾」など、他のバンドの曲やJPOPには見られないような単語が多く出てくる。どっちかというと日常的な場面で良くみるワードが多い。

高校生になる以前まで、私が好んで聴いていた音楽は主にJPOPだった。スマホがなかったのでテレビが主に音楽を知る媒体だったのだが、テレビでよく見るJPOPの歌詞って、悪く言えばありきたりなものが多い。ラブソングという範疇で見れば、愛だの恋だの好きだの、そんな言葉ばかり並んだ曲が多かった。そういう意味では、ユニゾンは安易にラブソングや、盛り上がろうぜ!的な曲や、それでも前を向いて行こうぜ!みたいな曲をあまり歌わない。もし歌うとしても、安直な歌詞ではなくて、もっと凝った表現や多彩な言い回しを使う。まぁそれでもメロディーが良ければそんなことどうでもよかったので、JPOPは歌詞が陳腐だから聴かない!みたいな捻くれた少年ではなかったと言っておく。

ユニゾンの曲の歌詞を全体的に見ると意味がわからないことが多い。これはおそらく私の理解力不足から来るものだが、それでも意味を推測してみたりするのが楽しい。「手術中につき御法度です」「繰り返す反実仮想は悲し虚しで離れ離れ」「全てのストーリーを流線形にしたい」「超えていけよ空、土台風船みたいなプライド」。思いつくだけで並べてみてもさっぱりわからない。これだけ多彩なフレーズやワードが使われていると、自分の語彙力を試されている気もしてくる。現代文の試験でよく見る「作者の気持ちを答えなさい」、その究極がユニゾンの曲なのかも。

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歌詞だけでなく、曲名にも私は惹かれた。曲のタイトルって曲を聴く前のファーストコンタクトみたいなものだと私は思っている。髪は顔の額縁ってよく言いますからね。たとえば、アーティストが新アルバムの発売を発表した時、収録曲の曲名がズラッと出るが、曲名だけで「どんな曲なんだろう」と推測したりワクワクしたりするでしょ?仮に、すべての曲が「トラック01」みたいな付け方だったらなんの魅力もないと思うの。そういう意味でも曲名は私の中でスゴイ重要なものでもある。

ユニゾンの曲を例にあげると、「場違いハミングバード」や「サンタクロースは渋滞中」「CAPACITY超える」「オトノバ中間試験」「シュガーソングとビターステップ」など。中間試験という単語を曲名に入れてダサくならないのはユニゾンならではだと思う。いや本当にユニゾンだけだと思う。曲名だけではどんな曲なのか想像つかない、でも想像が掻き立てられる。聴いてみると曲名は全然関係なかったりといい意味で裏切られる。曲名だけで推測したりするこの感じ...ん…?やはりユニゾンの曲は試験問題みたいなものではないのか!?

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 ありえないほどまでに耳馴染みのいいメロディーラインに加え、多彩な語彙力に裏打ちされた聴いていて飽きない歌詞。私はこのバンドの虜だった。そして時が流れ、私は大学生になった。この頃から、ユニゾンにまた新たな角度から驚かされることになる。

大学生になった私は大学の軽音サークルに所属した。楽器を演奏したり、バンドをやりたかった私にとって念願だった。選んだ楽器はユニゾンの田淵智也と同じベース。でもベースを選んだ理由は特になく、本当になんとなくだった。

大学生になって軽音サークルに所属したことで、友人たちや先輩からいろんな音楽を教えてもらい、音楽の振れ幅はまた大きくなったのだが、変わらずにユニゾンはずっと聴いていた。新譜が出ればCDショップに赴き、ライブにも何度か足を運んだ。ますますかっこよく洗練されゆくかっこよさは、私が飽きる暇を与えてくれなかった。

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さて、冒頭でユニゾンは、スリーピースとは思えないほど…と述べた。楽器を始めた私はここでようやく、ユニゾンの凄さに気づかされた。

ベースを始めたのでもちろん、曲のベースを注意して聴くようになった。でもベースってよく言われるじゃないですか、「聴こえない」「いなくても変わらない」と。そう思ってたんですけど、改めてベースに注意してユニゾンの曲を聴いてみると、こりゃまたスゴイことしてるな、と思ったのだ。ボーカル斎藤さんがサラッと歌い上げる裏でこんな複雑で動き回るベースラインを弾いていたのか、と。

軽音サークルといえば、多くの場合は既存のバンドの曲を模倣、いわゆるコピーバンドをするのが主な活動内容である。例にも漏れず、ユニゾンも多くの学生たちがコピーに挑んだことだろう。私もバンドとしてユニゾンをコピーしたことはないが、好きな曲のベースラインを練習してみたりはしたことがある。当たり前だが難しい。甘くて苦くて目が回る。ベース以外のことはよくわからないが、素人目に見てもギターボーカルとドラムがいかに変態的なことをしているかくらいはわかる。

「こんなん無理じゃん」となるのがオチだ。めちゃめちゃ楽器が上手い友人や先輩がユニゾンをコピーしているのも何回か見た。前提としてもちろん全パート楽器が上手くないとできないのだが、それでもどうしても全体の不安定さが目立ってしまう。歪なるミュージックになっちゃう。そりゃユニゾンはプロだから…と言ってしまえばそれまでではあるが、三人という「バンドを構成する最低必要数」でユニゾンの曲をコピーするのは本当に至難の業だと気づかされた上に、本人たちの技術のすさまじさ、ライブパフォーマンスの高さ、曲の緻密さを知った。彼らの曲を模倣、コピーするというコトは、「出来るものならやってみろ!」という彼らからの出題とさえ思う(実際は違うと思うが)。

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もうひとつ、驚いたことが、ベース田淵智也の作詞作曲能力だ。前述のとおり、ユニゾンの曲のほぼ全ては彼が作詞作曲を手掛けている。作詞作曲だぞ。おまけにLiSAや内田真礼などのアーティストに曲を提供したり、THE KEBABSというバンドとして並行して活動したりと、それはユニゾンだけにとどまらない。彼が手掛けた曲は、ユニゾンを聴いてきた人ならばすぐわかると思う。仮にわからなくても「作詞作曲/田淵智也」と書かれていたならば、「あーなるほど(笑)」となるはず。特徴的ではあるが、それをユニゾン以外のアーティストが奏でても違和感がない。でも田淵楽曲だ、とハッキリわかる。これスゴくないですか・・・?

今や彼らの代表曲となった「シュガーソングとビターステップ」。アニメ「血界戦線」のエンディング曲としてタイアップしているが、アニメの世界観を尊重しつつユニゾンらしさを出した素晴らしい曲だと思う。歌詞も相変わらずスゴイ、出だしから「超天変地異」と始まり、「平等性原理主義」「蓋然性合理主義」「脳内天気予報」と分かりそうで分からない単語が並べられ、「見失えないものはなんだ?」「死ねない理由をそこに映し出せ」「生きてく理由をそこに映し出せ」「一難去ってまた一興」など、個性的でメッセージ性のあるフレーズが並ぶ。アニメソングでありながら、ここまでアニソンぽさがないのもスゴイのに、それを作品に照らし合わせても違和感がない。田淵智也のセンスが光りに光った一曲だ。

今ではメディア出演やタイアップ作品も多くなり、一般的な知名度も非常に高くなってきたユニゾン。今こそ彼らの曲を改めて聴いてほしい。最近はサブスクリプションサービスにも進出し、より身近に彼らの音楽を聴けるようになった。音、歌詞、キャラクターなど、どんな視点から彼らの音楽を聴いても、絶対に飽きない。特に楽器を触ったことがある人ならば。一粒で二度も三度も美味しい。そんなバンドです。

#いまから推しのアーティスト語らせて

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