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福息子【ショートショート】

「今日のご飯は、もやしとお米。あんたの病気が治れば、もっと美味いものが食べられるんだけどねえ」
 ある夫婦の晩ごはんは、質素倹約だ。旦那が病気で満足に働くことができず、貧乏暮らしをしているのだ。
「すまんなあ。頑張って治して一生懸命働くよ」
 旦那はそう言うが、病気が治る兆候はなかった。そんな中、妻はパートで家計を支えるのであった。
 そんなある日、大変なことが起きた。妻に生理が来ないのだ。
「あんた、最近生理が来ないんだよ」
 妻は、旦那に相談した。しかし、旦那は意外にもあっさりしていた。
「そうか。まあ大丈夫だろ」
 それでも、妻は不安に思い病院へ行き、妊娠検査キットを買った。そして、家で検査をした。すると、結果は陽性だった。妻は、旦那に言った。
「あんた、私子供ができたみたいなんだ」
 すると、旦那は家計の事情も顧みずに言った。
「そうか。喜ばしいじゃないか。絶対に産もう」
 こうして、妻は子供を産むことにした。どんどん大きくなってくるお腹で、パートに行くこともままならなかった。そして、この夫婦は生活保護を受けることになった。周りの助けでなんとか生活を維持し、遂に子供も産まれた。
「可愛いわねえ。産んでよかったわ」
 夫婦は、赤ん坊を見ているだけで幸せな気持ちになった。それから、赤ちゃんが中心の生活になった。食べ物も、自分たちの分を削って、赤ちゃんにはいいものを食べさせようと頑張った。それでも、そんな生活を嫌だと思うことはなかった。息子の笑顔を見るだけで、幸せになったからだ。
 そんなある日、二人は息子を連れて公園へ遊びに行った。天気も良く、息子は元気に遊んでいた。しばらく息子を遊ばせていると、息子が何かを拾ってきた。
「ん? 何を拾ったんだい?」
 母親は拾ったものを見ると、それは、宝くじだった。
「宝くじじゃないか」
 母親は、直ぐに旦那に報告した。
「この子が、宝くじを拾ったんだ」
 すると、旦那は言った。
「これは、神様からのプレゼントかもしれない。当選してるか、確認してみよう」
 そして、三人は宝くじ売り場へ行った。
「あのー、こちら当選してますかね?」
 そう言って妻は、宝くじを売り場の人へ渡した。
「確認してみますね」
 売り場の人は、機械へ宝くじを入れた。すると、高額当選のランプが点いた。そして、売り場の人は言った。
「あ、、一等が当たっています、、」
 二人は、呆然とした。そして、妻は言った。
「あなた、、やったわね、、」
 二人は抱き合った。そして、やっと貧乏な生活から抜け出せると、喜んだ。そして、銀行にお金を貰いに行った。お金は、五億円もらえることになった。その日の夜、二人は5年ぶりのすき焼きを食べることにした。
「いただきます!」
「いやー美味いな」
「この子のおかげよ」
「ありがとな」
 そして、二人はすき焼きを食べ終えた。
「あー、美味しかったわね」
 美味しい晩御飯に舌鼓を打ち、二人はスヤスヤと眠った。
 夜も更けてきた頃、妻は夢を見ていた。
「こんにちは。お母さん」
 それは、羽の生えた息子だった。
「お母さんに言わなければいけないことがあるのです」
 母親は、黙って聞いていた。
「私は、あなた方を幸せにする為に天からやってきた天使なのです。あなた達は、宝くじで幸せになりました。なので、もう私の役目は終わりました。私は天に帰ります。さようなら」
 息子がそう言ったところで、母親は目が覚めた。目が覚めた母親の体には、汗が滲んでいた。
「あの子は!?」
 不安になった母親は、息子の寝ている布団を見た。
 すると、そこには息子の姿はなかった。
 母親は泣き崩れた。そして、思った。息子に帰ってきて欲しいと。
「お金なんていらないから、帰ってきて、、」
 母親は言った。
 すると、天から声がした。
「承知した」
 そして、目の前の景色が歪み始めた。気がつけば、あの日の公園に居た。それは、息子が宝くじを拾ってきたあの日だった。母親がベンチに座っていると、あの日と同じように息子が何かを拾ってきた。
「ん? 何を拾ったんだい?」
 母親は拾ったものを見ると、それは、、、レシートだった。
「そっか、、それは、レシートだよ。いらないから捨ててきなさい」
 母親は思った。これでいいんだと。
 そして、三人は家へ帰った。相変わらずボロボロな家。お金は全くない。だけど、可愛い息子がいる。母親は、息子を抱きしめて言った。
"あんたがいるだけで幸せだよ"

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