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コトバク【ショートショート】

 私は最近、うまく言葉が話せない。
「今日のお米なに?」
 私は、お母さんに聞いた。
「ご飯のこと?」
「そうそう!」
 こんな感じで、言いたい言葉が出てこないのだ。まだ私は若い。頭がボケ始めたわけではなさそうだ。
「まだ考えてないわ。それより早くしないと、遅刻するわよ」
 お母さんに急かされ、私は学校へ向かった。
「およよ〜」
 私は友達を見つけて、挨拶をした。
「なにその挨拶!」
「なんかうまく話せなくって」
「そうなんだ。それより、今日テストでしょ? 勉強してきた?」
「あっ、忘れてた、、」
 こうして、私はノー勉でテストを受けた。
 そんな中、私の家ではある変化が起きた。それは、シングルマザーのお母さんに新しい旦那さんができたのだ。その旦那さんは、お母さんと同い年で、職場の同僚だそうだ。同い年なだけあって、二人はとても仲がいい。私は、お母さんが幸せそうでとても嬉しかった。なので、旦那さんの事は歓迎していた。そして、結婚した事で、私の名前は変わった。名前は、島本から萩原になった。
 ある日私が、学校から帰ると萩原さんがいた。
「おかえり、さとみちゃん」
「あっ、萩原さん。ただいま」
「いや、君も萩原だろ」
「うん。分かってるよ」
 そんな会話をし、私は自分の部屋へ帰った。すると、リビングでの会話が聞こえてきた。その会話によると、萩原さんは、私にお父さんと呼んで欲しいみたいだ。私も本当は、お父さんと呼びたい。だけど、まだ呼べないのだ。そこから、私はずっとお父さんのことを萩原さんと呼び続けた。そして私は、ますます変な話し方になっていった。
「お母さん。ティービーのモリコンどこ?」
「テレビのリモコンのこと?」
「そうそう」
「そこにあるわよ」
「あっほんとだ」
 すると、萩原さんがお風呂から上がってきた。
「さとみ、テレビつけて」
「萩原さんは何チャンネルが見たい?」
「さとみ、いい加減お父さんって呼んでくれないか?」
「え? 呼べないよ」
「そうか。呼んでもらえるまで、諦めないからな」
 そして、部屋に戻るとお母さんがやってきて言った。
「あんた、テストの結果はどうだったの?」
 しかし、私はまともに答えられなかった。
「こっくーは、あかんで、すーさくはいけた」
「ん?」
「ころはうまけなせない」
「あんた大丈夫!?」
「だーじょなーい」
 そして、お母さんは私を病院へ連れていった。
「先生、娘はどうですか?」
「それが、どこにも異常が見当たらないんです」
「え?」
「もしかしたら、あいつの仕業かもしれません」
「あいつとは?」
「コトバクです」
「コトバク?」
「厳密に言いますと、人間に取り憑いて、その人間の言葉を食べるバクです」
「なるほど。どうすればいいんですか?」
「除霊師を紹介しましょう」
 そして、私とお母さんは自宅で除霊師を迎えた。
「では、除霊を行います」
「準備はよろしいですか?」
「ひー。じーびおっくす」
「これはひどいな。では行きます」
 そして、除霊師は除霊を始めた。
「アンマランマンヒンマランマン」
 すると、なにやら目の前に生き物の形が現れた。
「コトバクが出てきました!」
 すると、バクは苦しみ出した。そして、口から言葉を吐き出した。
「ご飯、、、おはよう、、、お父さん、、、テレビ、、、リモコン、、、国語、、、数学、、、言葉、、、上手く、、、準備、、、、、、、」
 それから、様々な言葉を吐き出した。
「除霊は終わりました」
「大丈夫?」
 お母さんは心配そうに言った。
「うん! 大丈夫! 治ったよ!」
「よかった、、」
 すると、そこに萩原さんが帰ってきた。私は、元気よく言った。
「あっお父さん! お帰り!」
「え? 今なんて、、」
「だから! お父さん! お帰り!」
「お父さんって呼んでくれるのか、、?」
「今までは、呼びたくても呼べなかったの!」
「ありがとな、、」
 こうして、家族三人で抱き合った。
「じゃあ、ご飯にしましょうか」
 お母さんが言った。すると、お父さんは、真剣な顔でこう言った。
「きょーのろはんのに?」

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