ショッピングパニック【ショートショート】

 今日私は、ショッピングモールへ六歳の息子と一緒に買い物に来ていた。息子の為に子供服の店へ行く。
「何か欲しいのある?」
「これが欲しい」
 そう言って指差したのは、白いポロシャツだった。
「これ? 今着てるのと同じじゃない」
「じゃあこれ」
 それは、緑の帽子だった。
「これも、今被ってるでしょ」
「じゃあ、何もいらないよ」
「そう。じゃあ、次はお母さんの買い物に付き合って」
 そう言って、婦人服の店へやって来た。私は、綺麗なワンピースを手に取り息子へ言った。
「けんた。今から試着するから、ここで待っててね」
「わかった」
 そして、私は試着室へ入った。実際に着てみると、意外と似合わないこともあるが、この服は大丈夫そうだった。そして、私は試着室から出た。
「お待たせけんた」
 しかし、そこにけんたはいなかった。
「あれ? けんたは?」
 私は、店の中を一通り探した。しかし、見当たらなかった。それから、私は建物内をぐるぐる回ってけんたを探した。だけど、どこにもいなかった。
「どこ行ったの、、」
 すると、迷子のアナウンスが流れた。
「ただいま、緑の帽子に白いポロシャツを着た六歳のけんたくんが迷子センターにいます。お心当たりのある方は、至急迷子センターまでお越しください」
 私は、そのアナウンスを聞いて迷子センターへ行くことにした。とりあえず、迷子センターの場所を確認する為、地図を見た。しかし、迷子センターはどこにもなかった。
「どうすればいいの、、」
 私は、困り果てた。
 すると、一人の紳士が目の前にやって来た。
「お困りですか?」
 その紳士は聞いた。
「はい、、迷子センターがどこか分からなくって」
 すると、紳士は迷子センターまで案内してくれると言った。
「こっちですよ」
 そして、迷子センターの前に着くと、紳士はどこかへ行ってしまった。
「すいません」
 私は、迷子センターへ入った。すると、沢山の迷子の子供達がいた。
「あのー、緑の帽子に白いポロシャツのけんたっていう子は、いませんか?」
 すると、迷子センターの人は言った。
「けんたくん? それなら、さっき母親が来て連れて行きましたよ」
「え?」
 私は理解ができなかった。
「いや、母親は私なんです!」
「そうなんですか!?」
「はい」
「誘拐かもしれません、今すぐ探しに行きましょう」
 そして、私と迷子センターの人は、二手に分かれてけんたを探した。
 すると、前の方から、十人ほどの子供を連れた女の人がやって来た。その子供の中に、けんたもいたのだ。私は、駆け寄って言った。
「けんた! どこ行ってたの! 知らない人についていっちゃ駄目じゃない!」
 しかし、けんたの反応は思っていたのと違った。
「え? この人はお母さんだよ?」
「え?」
 すると、女の人が私に言った。
「どうされたんですか?」
「いや、この子うちの子ですよね?」
「いや、うちの子ですけど、、」
「六歳のけんたですよね?」
「はい。そうですよ。なんでご存知なんですか?」
「私の息子だからですよ!」
 すると、けんたは言った。
「違うよ! 僕のお母さんはこの人だよ!」
 そう言って、女の人を指差した。
「けんた、私のこと忘れたの?」
「忘れるもなにも知らないよ」
 けんたはそう言った。
「そんな、、」
「私たちも予定があるので」
 女の人はそう言って、どこかへ行ってしまった。
 私は、どうすれば良いのか分からなくなっていた。すると、前の方からさっきの紳士がやって来た。その紳士は言った。
「奥さん。諦めてはダメです。きっと、けんたくんは帰って来ます」
「でも、どうすれば、、」
「もう一度迷子センターへ行って、アナウンスしてもらいましょう」
 そして、私は再び迷子センターを訪れた。そこへ、迷子センターの人が帰ってきた。
「どうでした!?」
「それが、見つかったんですけど、私のことを忘れていて、、」
「そうなんですか」
「良かったら、アナウンスしてもらえませんか?」
「分かりました。やってみましょう」
 そう言って、アナウンスを始めた。
「えー、緑の帽子に白いポロシャツのけんたくん。お母様が、迷子センターでお待ちです。至急、迷子センターへお越しください」
 しかし、そのアナウンスから、二時間経ってもけんたは現れなかった。
「もう諦めます、、」
 私は、迷子センターの人へ言った。
「でも、、」
「いいんです。息子が私のことを忘れたのならそれで」
「分かりました」
「さようなら」
 私は、迷子センターを出た。そして、最初に来た、婦人服売り場の横を通り過ぎた時、声がした。
「お母さん!」
「え?」
 それは、けんただった。
「探したんだよ!」
 けんたは言った。
「お母さんのこと思い出したの?」
「一回も忘れてないよ!」
「よかった、、」
 そう言って、けんたを抱きしめた。
 すると、前からあの女の人達がやってきた。
「あら? 息子さん見つかったんですね」
「はい。おかげさまで」
 すると、女の人が言った。
「ほんとだ。こりゃ間違えるわ」
 女の人がそう言うと、女の人の横でもう一人のけんたがはにかんでいたのであった。

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