【読書記録】2021年3月(後半)

ごきげんよう。ゆきです。

3月後半の読書記録です。海外作家克服と言いながら、結局海外モノは1冊だけにとどまりました……。いい出会いだったのでよし!

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あたしはメアリ・キャサリン・ブラックウッド。ほかの家族が殺されたこの屋敷で、姉のコニーと暮らしている…。悪意に満ちた外界に背を向け、空想が彩る閉じた世界で過ごす幸せな日々。しかし従兄チャールズの来訪が、美しく病んだ世界に大きな変化をもたらそうとしていた。“魔女”と呼ばれた女流作家が、超自然的要素を排し、少女の視線から人間心理に潜む邪悪を描いた傑作。

ホラー小説で有名なシャーリイ・ジャクスンの長編。可愛い絵とは裏腹に、周りを黒く囲まれた表紙から醸し出る不気味さに惹かれ選書。

「本の形をした怪物だ」と桜庭一樹が解説に残した1文が、この小説の全てだ。

段々と異常性が目に付いてくる語り手・メリキャット、徐々に不穏な空気を醸し出してくる優しい姉、精神に異常をきたした叔父が暮らす豪邸は、その街のいわば村八分の対象となっている。この世界線だけでもう充分ただならぬ雰囲気ではあるが、その豪邸に新たな親族がやってくることで物語が加速。登場人物の関係性もぐらつき、ずっと不穏が付き纏う。読了する頃には何が正義か、自分の在り方が分からなくなるだろう。己を善良だと信じている人間ほど、きっと本書は怖くなる。

幽霊が出てきてどうの、サイコパスが出てきてどうのというホラーじゃない。すぅっと肝が冷えるような、新しく不気味な恐怖がこの中にある。私は姉妹の今後を案じてしまったのだが、その気持ちは正常なんだろうか。幸せってなんだ?

本編だけではなく桜庭一樹の解説も至高だったので、読み飛ばしは厳禁。

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モモコグミカンパニーによる完全書き下ろしのBiSHヒストリー本が登場!

メンバーの中で一番の本好きで独特の世界観を持つ彼女だから書けた、BiSHが綴ったBiSHの歩み。
約半年にわたって書き下ろした「BiSHとわたし」の赤裸々なストーリー。

結成1年でメジャーデビュー。2017年の幕張メッセイベントホールでのライブはソールドアウト。近作はオリコンデイリーチャート1位、3作連続iTunes総合アルバムチャート1位を記録。ミュージックステーションにも堂々の出演を果たし、アイドル・シーンのみならずロック・シーンでも注目を集める“楽器を持たないパンクバンド"が、BiSH。
この本には、BiSHのモモコグミカンパニーが体験した3年間(2015年~2017年)の物語が描かれている。興味本位でオーディションを受けた普通の女子大生が、「新生クソアイドルです」という号令とともにデビューを飾り、強烈な個性のメンバーとともに、ときにはぶつかり合い、ときには笑いながら生き抜いてきた。そんなBiSHの情景を、当事者の視点で鮮やかに映し出しているのだ。

約半年にわたって書き下ろした本編の他、モモコグミカンパニー母とWACK代表の渡辺淳之介のコメントも収録。

エッセイが好きだ。文章はその人となりを最高に現していると思うから。

アイドルやミュージシャン、作家やアナウンサーなど、ジャンルやその人の好き嫌いは関係なく、ブログを読むのが学生の頃から好きだった。気に入ったものは何度も繰り返し遡って読んだものだ。紡がれた文章だけで好きになった芸能人もいる。その人を知りたかったらその人の文章を読む。それが私の癖だ。

さて、本書は"楽器を持たないパンクバンド"というキャッチフレーズで活動するBiSHのメンバー、モモコグミカンパニーさんのエッセイである。1人の女子大生がBiSHとして大舞台に立つまでの本音が、等身大の言葉で語られている。

一読して、彼女の言葉が好きだ、と素直に思った。元々ファンだったから、とかではなく、多分このエッセイでモモコさんを知ったとしても一瞬でファンになったと思う。楽曲の歌詞も多数手掛けている彼女なので文章も上手いんだろうなとは思っていたけれど、上手い上手くない以前にあまりにも真っ直ぐで嘘がない文章なのだ。故に私の心に響く響く。学生の頃に読んでいたら私の座右の銘にしていたであろうフレーズがいくつも出てきた。

自分に素直で他人を愛せる、そんな彼女にしか発せない言葉たち。ファンじゃなくてもぜひ読んでいただきたい。読み終える頃にはきっと、BiSHを好きになる。

個人的にはBiSHのメンバーについて語った章にいたく感動した。ちゃんと相手と向き合っていないと書けない心情がたくさん詰まっている。この人のファンでよかったな、と誇らしい気持ちしかない。

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美少女を殺害し、研ぎあげたハサミを首に突き立てる猟奇殺人犯「ハサミ男」。3番目の犠牲者を決め、綿密に調べ上げるが、自分の手口を真似て殺された彼女の死体を発見する羽目に陥る。自分以外の人間に、何故彼女を殺す必要があるのか。「ハサミ男」は調査をはじめる。精緻にして大胆な長編ミステリの傑作!

叙述トリックの金字塔。「ミステリー おすすめ」みたいなワードでネットで検索すると本書はもれなく出てくるので気になり読了。

叙述トリックで有名ではあるが、シンプルに謎解きとしても上級だった。ハサミ男の正体と3つめの事件の真犯人、2つの真実が明らかになる場面ではページを捲る手を止められない。細かな伏線も綺麗に回収され大満足の1冊。ハサミ男の正体には薄々勘づけたものの真犯人には気がつけなかったので、「やられたー!」感が味わえた。ミステリーはそこが面白い。

余韻を残す終わり方も好き。この後味にして下手に続編が出されていないところも好感度◎。メフィスト賞がやっぱり好きだと再確認。

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夏の終わり、郊外の瀟洒な洋館に将来を約束された青年たちと美貌の娘たちが集まった。ロートレックの作品に彩られ、優雅な数日間のバカンスが始まったかに見えたのだが……。二発の銃声が惨劇の始まりを告げた。一人また一人、美女が殺される。邸内の人間の犯行か? アリバイを持たぬ者は? 動機は? 推理小説史上初のトリックが読者を迷宮へと誘う。前人未到のメタ・ミステリー。

こちらも叙述トリック金字塔と呼ばれる作品。文庫にして本編が190ページほどの中編。だが読んでみると事件が3度も起こり、個性的な登場人物やトリックに終始踊らされるものすごく重厚なミステリーとなっている。

本書、フェアかフェアじゃないかで読者の意見が分かれるらしいが、どこがフェアじゃないと言うのだろう?1.2章を読んだ時点でミステリーを読み慣れている方は本書の狙いに気付くと思うので(私は気付いてしまったので叙述トリック感もちょっと薄くはあった)、フェアかどうかなんて考えもしないと思う。フェアじゃないと主張する人はもう1回最初からちゃんと読んでみ?という感じ。

ところでこの本、犯人発覚後に丁寧な解説パートが始まるのだが、それがあまりにも至れり尽くせりで笑ってしまった。Kindleで読むと1タップで該当の台詞まで戻ってくれる過保護っぷり。そこまでしなくても分かるよ!というレベルだが、フェアじゃないと訴える読者への皮肉なのかなと思うと作者の計らいにニヤついてしまう。

叙述トリック感が薄めだったとはいえ個人的にはめちゃくちゃ好きな1冊になった。所々挟まるロートレックの絵も素敵だし。3月のハイライトはこちらで決まり。

何を差し置いても、いちばん好きなのは最後の1文。今まで色んなミステリーを読んできたけれど、最も印象に残るかもしれない。イヤミスとはまた違うこのやるせない後味が、私はたまらなく好きなのだ。

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日本作家のミステリーがやっぱりなんだかんだ落ち着くなと改めて実感した1ヵ月でした。3月後半は本当に捨て本がなくていい出逢いばかりでした。幸せ。

さて、来月(というかもう今月)は4月。出会いと別れの季節とはよく言いますが、その言葉がいちばんしっくりくる舞台は学校だと思っています。というわけで、「学園モノ」または「主人公が学生」という条件で選書していくつもりです。

お付き合いいただけたら幸いです。

またお会いしましょう。ゆきでした。

See you next note.

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