【読書記録】2021年5月

※noteの下書きに残っていたものを今更放出します。文中にある「体調不良」とは、前記事に書いた通りつわりの事です。今はすっかり元気なのでご心配なく!

ごきげんよう。ゆきです。

5月は短編集に絞って読書しています。1冊読んだだけでも沢山の物語に出会えるのでお得な気分。

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史上初、本格ミステリ大賞2度受賞の偉才が紡ぐ衝撃の結末! 
望みどおりの結末なんて、現実ではめったにないと思いませんか? もちろん物語だって……偉才のミステリ作家が仕掛けるブラックユーモアと企みに満ちた奇想天外のアンチ・ハッピーエンドストーリー!

ハッピーエンドの小説にはあまり惹かれない私に、うってつけの内容だなと思い即決。タイトルの通り、アンハッピーエンド(イヤミス)ばかりを集めた11編からなる1冊。

1番好きだった話は『サクラチル』、次点で『防疫』。せっかくなのでそれぞれの概要を書いてみる。

サクラチル:とあるボロ家に住む家族に焦点を当てた1編。仕事で働き詰めの妻と自堕落な夫、それを傍から眺める近所の女性が主な語り主。短編ながらもコロコロと語り手が変わり、普通のミステリーを1本読んだような重厚感がある。徐々に明らかになる新たな登場人物と、最後の仕掛けに唖然。本書はオチが分かりやすい話が多い中、こちらは最後まで楽しめた。

防疫:幼い娘を受験のために必死でしつける母親の物語。教育ママの要素を全く持っていなかった母親が幼稚園受験、小学校受験に異常なほどのめり込んでいく様に戦慄。自分の夢を子どもに託す親は少なからずいるのだろうが、子どもにとってそれは幸せなのかどうかを考えさせられる1編だった。こちらも『サクラチル』同様、終わり方が秀逸で好き。

11編も収録されているので、きっとあなたの好きなアンハッピーエンドもあるはず。暗い気分に耐えられる自信がある時にオススメ。

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三十歳を目前にした真美は、フリーマーケットで青いスーツケースに一目惚れし、憧れのNYへの一人旅を決意する。出発直前、ある記憶が蘇り不安に襲われるが、鞄のポケットから見つけた一片のメッセージが背中を押してくれた。やがてその鞄は友人たちに手渡され、世界中を巡るうちに“幸運のスーツケース”と呼ばれるようになり……。人生の新たな一歩にエールを贈る小説集。

実は私、5月の頭からちょっと体調を崩していて、そこに前述の本を通してアンハッピーエンド11連パンチをくらったものだからメンタル的にもフィジカル的にも非常にしんどくて(自業自得)。そんな時にすがる思いで選んだのがこちら。私の心のオアシス、近藤史恵さんの著書である。

青い革のスーツケースと共に旅行をする女性たちの物語。短編ではあるものの、登場人物は割と固定されているので読みやすさも抜群。様々な人生を歩む、高校の同級生だった女性4人を描いて話は進んでいく。私は歳が近いこともあって感情移入もバリバリしながら、時折涙目で読み終えた。

この作家は幸せを見つけるのが上手いな、と読む度に思う。主人公に起こるなんてことない事が、心から嬉しくなってしまうのだ。本書ではそれを「幸運のスーツケースのおかげ」のように言うのだが、私にしてみれば「幸運の近藤史恵」である。読了後はいつもハッピーだ。

前半と後半で雰囲気が変わる構成のような気がする本書。私は後半が特に好き。幸運のスーツケースがどのように巡ってきたのか、その真実を知った時の感動は、前作のアンハッピーエンドを一気に吹き飛ばしてしまうくらいの力を持っていた。

気軽に旅行なんて出来ない今、この本で脳内小旅行をするなんていかがだろうか。素敵な出会いと優しい空気が待っている。

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わたしたちは、知らないうちに誰かを救っている――。 
川沿いを散歩する、卵焼きを作る、ココアを頼む、ネイルを落とし忘れる……。 
わたしたちが起こしたなにげない出来事が繋がっていき、最後はひとりの命を救う。 
小さな喫茶店「マーブル・カフェ」の一杯のココアから始まる12編の連作短編集。

昨年、読書生活を始めてから私が使っているアプリは2つある。Kindleと読書メーターだ。使い始めの頃から「あなたへのおすすめ」に長く居座っていた本があった。本書である。

私が選びがちなミステリーでもなんでもない、読んだこともない作家の本がずっと「おすすめ」と言われているのが謎だった。あらすじを読んでもピンとこない。それが今、体調を崩した私に「読みやすそうな本だな」という印象を抱かせ、こうして読了している。不思議なものだと思う。でもたぶん、今の時期に本書を選んだのはきっとそういう運命だったのだろう。

川沿いのカフェの店員から始まり、そのカフェの女性客、その女性客の息子が通う保育園の先生、その先生の上司、その上司の親友……と、主人公がどんどん展開していく。そのうちに「あれ、もしかしてこの人あの話の……」というように、いくつもの話がリンクしている事に気付く。日本とシドニー、2つの都市を舞台としているのにも関わらず、そのリンクはとても範囲の狭いものに思える。

よく、友人と共通の友人がいたりすると「世間狭いね〜」なんて言ったりする。あれはあながち間違いではないのだ。私と誰かが関わりあって、違う人を巻き込んで、結果その人が私の元にやってくる。そんな小さくとも幸せな人間関係の連鎖は、とても素敵なものなんだよと本書に教えられた気がした。

続く体調不良でピンと張っていた私の中の糸が、優しく解かれた。装丁も併せてとても素敵な1冊。きっとこれから自分の心が苦しくなった時、この本は私を助けてくれる。

「あなたへのおすすめ」、信用してみるのも悪くない。

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ここまでが5月に書き留めていたもの。ここからは11月末現在の私が書いています。

半年前に読んだ本でも、自分の感想を読むとその時の感動や興奮が蘇ってきて改めて楽しめるので、やっぱり読書っていいですよね。

自分の体調によって選ぶ本が変わる、というのは我ながら新しい発見でした。さすがにつわり期に重苦しいミステリーには手が伸びなくて。いかに優しく、軽く、温かい物語に触れられるかで選書をしたのは初めてです。でも本当に素敵な物語と出会う事ができたので、つわりも悪くなかったな、なんて(当時はそんな事思う余裕はありませんでしたが)。

臨月を迎えた今、里帰りしている私には時間が有り余っているのでまた読書生活を再開しました。ぼちぼち読書記録も更新していきますので、お付き合いいただけると幸いです。

またお会いしましょう。ゆきでした。

See you next note.

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