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初恋が忘れられない女

私には好きな人がいる。
学生の頃の初恋の人だ。そんな人のことをまだ好きなのかと、呆れられるのは承知の上だが、本当に忘れられないのだから仕方がない。

あの頃から、もう数え切れないほどの年月が経つ。しかし、新しい良い人が出来ても、私は彼から逃れられない。
ああ、彼だったらこういう風にするのに。
こんな話もできるのに。
こうしても平気なのに。
だから、いけないと分かっていても会いたくて堪らなくなってしまう。

彼とは、デートくらいは出来ても、将来一緒になることは出来ない間柄だった。デートをしたとしても秘密にしなくてはならない。
デートくらいなら秘密にできるけれど、流石に結婚は秘密には出来ない。
言うなれば、身分違いの恋のようなもので、彼と一緒になるのなら、家族を捨てて彼と二人で生きていくしかないのだ、というくらい、彼は私の家族に嫌われていた。
それでも、家族を騙しても良いじゃないかと、人としての道を踏み外していることを考えてしまう程に、未だに彼の事が好きだ。
しかし、所謂身分の差は埋められない。
彼と付き合えない以上、私は、彼以外の誰かで、気を紛らわせる必要がある。
そうしなければやっていけなかった。
彼のことを好きなら好きな程、親が彼について酷いことを言うのが辛くて仕方がない。
彼のことばかり考えてしまったら、私は大事な父や母と大好きな彼との間で板挟みになり、永遠に二律背反に苦しむことになるのだ。
ただただ、辛いだけである。

しかし、そうして出来た新しい人と良い仲になっても、いつも何かが違う。
どの人も、彼のようにはいかない。
どの人も彼でないのだから当たり前なのだが、それでも私は期待してしまう。良い時を知ってしまうと、そういう贅沢な事を考えるからいけない。
いけない、いけない。
この人は彼とは違うんだから、同じ事を求めちゃいけない。
この人には、この人の良さがあるはずだ。
そう、何度も自分に言い聞かせる。
いつの間にか、私にとって、お付き合いとはそういう事になってしまった。

別れる時、必ずと言って良いほど、
どうして、
という台詞を吐くことになった。

どうして私の為に時間を作ってくれないの
どうして呼んでも会いに来てくれないの
どうして聞いてるだけで何も言ってくれないの
どうして辛い時、側に居てくれないの
どうしてあなたの悩みを聞かせてくれないの

どうして、の種類は多岐に渡るが、どれも内容は同じだ。

どうして大事にしてくれないの

大事になんてしてくれるわけがなかった。だって、私がその人を大事にしていないのだから。いつも私の中には初恋の彼が居て、彼が今でも一番大事なのだから。

どうして大事にしてくれないの?
本当に私のこと、好きなの?

君の方こそ、本当に好きなの?

私は答えられない。
いや、本当は答えられるけれど、答えたくない。

ごめんなさい、好きな人がいます。初恋の人のことが、まだ好きなんです。

#読み物 #初恋 #散文 #曖昧


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