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耐える女

何をしたいのかわからなくなってくる。
家に帰りたくない。


私、何してるんだろう。ふと、そう思った。

ハローワークに失業手当の手続きに行った帰りだった。
駅のホームで、椅子に座ったまま、足が動かなくなった。家に帰る気が起きず、漠然とした不安感に押し潰されそうになる。
昨日も母に、うちの家計は火の車だと言われたばかりだ。

ぼうっと宙を眺めているうちに、目頭が熱くなってきて、あわてて目を瞬かせた。だめだめ、おかしな人だと思われてしまう。

こんな時、彼に電話でもかければ良いのだろうか。頼っても良いのだろうか。きっと、良いだろう。

そう思い、ラインのトーク画面を開いたが、通話ボタンを押す事は出来なかった。

君は俺が忙しいとか、疲れてるとか、思わないの?

またそう言われる気がして、何だか怖くなった。今、傷ついたら、自分はどうなるのだろうと思った。

私、何してるんだろう。

良い彼女になろうとしてきた。

ラインの返信が遅くても催促しなかったし、細かい事は追求しなかった。喧嘩してもヒステリックに騒いだりせず、時には甘えさせてあげたし、割り勘でも嫌な顔をしない。辛い時には話を聞いた。人前では立ててあげた。偶に手料理も振る舞った。

でも、そんな彼に、肝心な時に頼る事もできない。

仕事でミスした、家計が苦しい、人間関係で傷ついた、会社が潰れた、不安で眠れない、涙が出る、無気力になる。

助けてほしい。励ましてほしい。
大丈夫だよ、側にいるよ、俺がついてるよ、君ならできるよ、元気出して、おいしいものでも食べに行こう、今からでも会いに行くよ、話聴くよ。

求めている言葉は、単純なものばかりのはずなのに、その予想はいつも裏切られる。

忙しいから会えない、疲れてるから電話できない、俺も辛いよ、もうちょっと自立してよ、で何がそんなに悲しかったの?、めんどくさいな。

そんな時、自分でも驚くくらいに胸が痛くなる。多分、元々瀕死の状態だからだと思う。

そっか、疲れてるし、忙しいし、しょうがないよね。私だけが辛いんじゃないもんね。
笑ってそう言いながらも、辛ければ辛いほど、助けを求めるのが怖くなる。もうこれ以上傷つきたくない。

家に帰りたくない。私、何でこんなに頑張ってるんだろう。我慢してるんだろう。

自分が何をしたいのかわからない。

#散文 #読み物 #恋愛 #仕事 #生活 #耐える #女


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