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親友の彼について

親友の話をする。
わたしの親友はかれこれ10年来の付き合いで、わたしが東京という街に飲み込まれていた時も変わらず側にいてくれた稀有な人間でもある。

その親友はいま、アメリカにいる。

何年前の話だろうか突然、話したいことがある。とLINEがきた。
「いま?」
「いま」
「仕方ないなぁ」
言われるがままに電話を取る。
その時に伝えられたのだ、アメリカに行くのだと。
女の声をしているだけで、女の名前をしているだけで、男としての自分を貶され潰される日本に耐えられないのだと。女としての生き方を強要され、一人称の「私」を押し付けられ、「ぼく」では嘲り笑われるこの国にはいられないと。
彼はFtMだった。

あの出来事から月日が経ち、ようやく彼はアメリカで毎食缶のミネストローネを食べる生活をやめ、少しずつ自炊を始めたらしい。
この間は、とある女の子が初対面の彼に「あなたはheがいいの?sheがいいの?」とバッサリ聞かれたのがすごく嬉しかったようで、わざわざ電話で一部始終伝えられた。

30になったら彼が日本に戻って来る。それまでにわたしはこちらで、出来る限りのことを尽くすから。
どうか彼に、今夜も気持ち良い眠りが訪れますように。

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