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【掌編小説】お嬢様おやすみなさいませ

「お嬢様こちらにいましたか?」

「どうしても眠れなくて。風に当たりにきたの」
「今夜は星が綺麗ね」

「今日は少し風が強いですね
    風邪を引いてしまいます さっ、中へ」
と言って
手に持っていたブランケットを肩に掛けた。

「ねぇ?」

「どうかされましたか?」
と声をかけると

「いや、何でもないわ」
「先にやすみなさい
   もう少し風にあたってから戻るわ」

私は
「何か思うことが御座いましたら何なりと
           お申し付け下さいませ」
と言った。

すると

「じゃ、言うわ」
「あなたの事が大好き」

私は
「お嬢様、ありがとうございます」
と返事をした。

「なら、わたしと・・・」

続きを話しそうだったがそれを止めるように

「お嬢様、いくらお嬢様のお気持ちでも
      私はこの家に使える身でございます」

「そんな事関係ないわ」
「私はあなたの・・
  心の奥にかかっている曇りを晴らしたいの」

全てを見透かされているかの様な言葉に

「私の心に曇りでございますか?」

「そうよ、私にはあなたがお父様の様に
   突然いなくなる様な気がして仕方ないの」

そう、確かに私の心は曇っている。

その曇りを晴らしたかったのだ。

曇り空の隙間からさす光につかまりたくて・・・

私は話した。
「今日の様に風が強いとあの日の事を思いだします。決して裕福ではございませんでしたが、私は幸せでございました。父がいて、母がいて
あれは私の誕生日の事でした。
普段、行く事のないお店で誕生日を祝ってくれた、父と母、その帰りに何者かに父が拐われたのです。母は必死で私を逃し、私は振り向く事なくただただ走りました。
すると、銃声が聞こえました。
だけど、私は振り向く事なくただ走りました。
そして、1人になった私は路頭に迷い生きるために盗人の様な事もしました。
そんな時に、大旦那様にひらって頂いたのです。
親も居ない、そんな私を大旦那様含めこの家の
執事達は私を家族の様に迎えてくれました。
そう、お嬢様もそのお一人でございます。
そんなある日屋敷の清掃をしていると、ある扉を見つけました。私はなんとなくその扉を開け地下へ続く階段を降りると、そこにはある設計図がありました。そこには父の名前が・・・
父は発明家でございました。
人を笑顔にしたい。と言って売れもしない物を
毎日毎日創っておりました。
その設計図を見た私は子供の頃の記憶を辿り
ある事を思い出したのです。
それは、大旦那様を今の様に大富豪に変え、
世界の全人類が今は絶対に必要不可欠なアレの話を父は生前私にしていたのです。
私はそれから地下室へ通い隅々を調べました。
そこで私は1つの指輪を見つけました。
それがこちらでございます。
そして、ここに刻まれているアルファベット
母の名前と、父と母の結婚記念日でございます。
私はその瞬間、
私の中の何かが切れる音が聞こえました。
私は、己の地位名声の為に、私から家族を奪った
あの男に支えていたんだと。
その日から私は復習を計画し、
事故と見せかけてあの男を殺したのです。」

「う、嘘でしょ?あれは事故じゃないの?」
「だって・・・いや、あれは事故よ」
「あなたじゃ無いわ」

「お嬢様、私はあなたが思う様な人間では
              ございません」
「ただの殺人鬼でございます。
でも、こんな私でもあなたがあの日泣き崩れていた姿を見て私は思いました。
お嬢様、あなたをもう2度と泣かせたくないと。
だからいつかは話さないといけないと思っていたのですが・・・
あなたの側に居られなくなってしまうことが
怖くて・・・
ほんと、自分勝手なのは私のほうですね」

「でも、これでスッキリしました」

取り出した薬を飲む

「うっ、、、」

「誰かぁー、誰かぁー」
「吐き出しなさい、死んではなりません」

「お・じょう・さ・ま」

「今、呼んでくるから、お願い、死なないで」
「2度も私を泣かせないで」

「最後に1つわがままを言っても?」

「最後だなんて言わないで」

「私を優しく抱きしめていただけませんか?」

彼女は執事を強く抱き締めた。


「ありがとうございます。
       やっと心の曇りが晴れました。」


曇り空の隙間の光はとても暖かく優しかった。

そう太陽のように。

もしもこの後、
神の裁きを受けるのであれば私はどんな裁きでも
受けます。

だけど、言葉だけは奪わないで欲しい。


「お嬢様、おやすみなさいませ」

が言えなくなるから。
                おわり


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あとがき

音声配信アプリstand.FMでの企画
みなさんが色々な執事やメイドになり配信されてたのを聞いてると映像が浮かんでくる。
そんな中、僕にはこんな感じにストーリーが
出てきた。
執事とお嬢様。
決して、重なってはいけないこの関係。
執事の過去。
そんな切ない物語。

愛する父を奪った執事。
そんな彼を好きになってしまったお嬢様。
もしも、あの時がこうでなければ出会う事が無い2人を神はこの様な形で出会わせた。


執事の曇りを晴らしたお嬢様。
お嬢様の気持ちはどうなのだろう?

だから神様、彼から言葉だけは奪わないでほしい

お嬢様が眠れないから

        おやつちんみのユウのほう

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