エフェクターコラム05 「BOSS SD-1」

さぁノリで始めただけのコラムも回数が増えてきてしまいました。どんなoverdriveを紹介しようかなと思った中で、やっぱりどうしても避けて通れないかなと思ってしまったのが、世界初のオーバードライブをリリースした我らが日本のコンパクトエフェクターメーカー、BOSSです。

小さくて見た目もかわいく低価格で丈夫、そして何より使える音。誰もが通り、また戻ってくる、そんなエフェクター界の定番中の定番、デファクト・スタンダード。

BOSSオフィシャルサイトより引用

歴史的にはOD-1からいきたいところですが、OD-1はビンテージエフェクターなのでより手に取りやすい現行ラインナップから。そしてSD-1はOD-1の後継機種として長らく定番としてずっと販売されているものになります。ギター初心者さんにとっては「おれの新しい武器」、玄人さんにとってはもはや若い頃の写真を眺めるかのようなノスタルジーすら感じさせる機種です。1981年発売。

マイルドかつ甘さもある中域に寄るサウンド

肝心なサウンドはと言うと、まずマイルドです。70年代以降のアンプは経過とともに、ざっくり言えばよりガッツのある、いかついサウンドに変化していると思います。そして時には「自分はもうちょっと甘い音にしたいな」「もうちょっと温かい音にしたいな」、もしくは「もうちょっと丸みのある音にしたいな」こんな風に思う人たちもいるはずです。いるはずですが、あくまで好みの話なのでならなくても大丈夫です。とにかく、ギター初心者さんがそんな風に思っていたら、一度試奏してもらいたいoverdriveです。

OD-3とSD-1の比較ですが個人的にとてもSD-1らしいなと思う音で録音してくださってます。Two-Rockいい音ですね!

こちらのコンテンツはOD-1との比較、違いもわかりやすい動画を作ってくださってます。Two-Rockやっぱりいい音!!

そしてBoss製品全体に感じることでもあるのですが、音を使いやすくまとめてくれます。

使いやすくまとめてくれるってなんだよ、と思うかもしれません。これはまたそのうち別の回でも書こうと思っていることですが、まずギタリストというのはワガママな生き物なのです。好みの音作りは、実際にバンドを経験してみないと、一人で弾いているので当たり前ですが「おれ(私)だけが好きな音」になりがちです。恋に恋する、独り相撲ってやつですね。しかしそれがバンド全体として見た場合に、たとえばギターの音が目立ちすぎ、全体の占有率が高すぎると、もちろん「おれ(私)のギター」は聞こえるのですが、バンド全体としては明らかにバランスが悪く、さらに言うと、ギターの音というのは他のいろいろな楽器と音の帯域が重なっているので、一人で弾いていた時とは違う印象で聞こえてきます。

そう、これがバンドをやる人なら誰しもが一度は経験する通過儀礼「おれの音こんなはずじゃない現象」です。

使いやすくまとめてくれるとは、この、実際にバンドで使う時におさまりのいい音にしてくれる、という意味です。この効果はバンドをやればやるほどわかってきます。バンド、それは愛。愛とは一方通行では成立しないハーモニー、シナジー、シンクロニシティなのです。ポリスの名盤ですね。

私の感覚では、SD-1はギターとアンプ本来の音をマイルドにしてくれて甘さとスムーズさをプラスしてくれて、さらにギターの音の特徴をぎゅっとハイミッドあたりにまとめてくれる、という印象です。料理で言うなら「お母さんのやさしい味」という感じでしょうか。料理を始めた頃はきっと、もっとおしゃれで高級なおいしい料理(個人工房などがリリースしてる高級ペダル、通称ブティックペダル)に憧れたりなんかすることだってあるでしょう、そして料理のことを知れば知るほど、自身にとってのルーツはお母さんの料理だったなと理解するあの感じ。

昔はある程度歪ませたアンプの音をエフェクターでさらに歪ませたり音質を変化させる「ブースター」的な使用が一般的でしたが、最近ではアンプをクリーンにして歪みをSD-1で作る使い方もされています。音楽は人に聞いてもらったりみんなで楽しく演奏できることも大事なので、もちろん人の意見も大事ですが、そんなものは時代によってもその人の気分によっても変わるものなので、まずは自分好みに使って見て心地よさを追求してみましょう。

多くのアンプとの相性もよく、使い勝手もいい懐の深さすら感じさせる安らぎの黄色、それがSD-1だと思っています。そして私にとっても初めてのエフェクターがこのSD-1でございました。初恋の人です。

MOD(改造バージョン)もたくさん

また、SD-1も多くのMODが出ている機種でもあります。MODというのは個人のエフェクター工房などが内部パーツなどに手を加えて、より好みの音になるように改造している物のことです。AnalogMan、Keeley、Weedなど有名MODメーカーから個人制作者まで未だにたくさんのものを見かけます。最近新品ではあまり見かけませんが、中古市場にはまだある印象です。

オフィシャルのハイグレード版も

BOSSオフィシャルサイトより引用

回路からパーツの見直し、さらにはメイド・イン・ジャパン。BOSSのエンジニアさんたちが本気でハイグレード化したSD-1も。ドライブモードがStandardとCustomの2種類搭載。個人的にはこちらは通常機種よりよりハイパワーというか、全体のレンジ感、倍音感(音の中心にある基音の周辺にまとわりついている音)とガッツが増しているイメージがあります。よりソフトな通常版か、ガッツがもっと欲しいかで好みが分かれるとも思います。

仕様変更と個体差について

ここからマニアコンテンツです。もはや40年以上販売されているものになりますので同じ機種とは言え製造時期によるパーツの違いや製造国によって音が違います。エフェクターは世界にコレクターやマニアが大量にいるので、現在でもYoutubeや掲示板などで、SD-1も含めた多くの機種が「この時期が最高!」「この時期はダメ」なんて会話が繰り広げられています。

コレクターや楽しいおもちゃとして、好奇心としてそれを研究したり試したい、大好きなバンドのあのギタリストのような音を出したい。どれもすごくわかります。「おれ(私)にとっての最高のトーン」を突き詰めたい、この純粋さも大好きですし、楽しいですし、私もそうなので。

しかしエフェクターを「音楽を作るための道具」として考えた場合、リリースされた音源から見た場合、「そんな違いをわかる人はほぼいない」がほとんどだと思います。なぜならば、例えば、音というのはまず場所、部屋によって聞こえ方が変わります、どんな電源かによっても変わりますし、ギターの個体さ、弦やシールドなどによっても音は変わります。さらにライブならばお客さんに聞こえる音は会場の音響の方と決め込んでいきますし、マイクなどの録音機材でも変わります、レコーディングでも、さらに人によっても音の聞こえ方は異なります。

違いを気にする、しないはただの好みと物の見方の違いだと私は思いますし、どちらにも良し悪しではないと思います。まるでカレーとハンバーグどっちがおいしいかのような。なので「違いを気にする派」も「気にしない派」も仲良くしたらいいのに、と思っています。

その上で私が感じた違いをざっくりと説明するなら、初期型や日本製は「全体的に繊細で分離のいい、よりナチュラル感のある音」、台湾製、マレーシア製は「日本製に比べて元気で倍音感が少し強い音」という感じです。市場価格はあくまで需要と供給のバランスで決まるものであって、必ずしも価格が音の善し悪しではありません。好みです。

個人の好き嫌いはいくらでもあっていいと思います。しかし例えば、音楽を応援してくれる友達や恋人、家族などが現行品のSD-1をプレゼントしてくれたとします。きっとそれはその人にとってかけがえのない大切な物になるでしょう。それをエフェクターに詳しい人間が「その時期のSD-1は音悪いよ」と言い放つ、もしくはMade in JapanのSD-1の音を追い求めて手に入れ、とても大切にして楽しんでいる人に「現行品のが音いいよ?」と言ったりすることだけはやめてほしいと思います。なぜなら私がそうやって言ってしまったことがあるので!ばか!!!

関連情報

THD+N 25%様がOD-1とSD-1の仕様変更についてまとめてくださっています。

愛にあふれる「BOSS SD-1 Talk Session 牛尾健太(おとぎ話)× キダ モティフォ(tricot)」


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