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多崎礼「煌夜祭」

 電車での通退勤時の読書という行為がめちゃ懐かしい。私は疲れちゃっているが、南の島の職場の人が勧めてくれた美しい紺色の本を読み終わり、実家でたらふくごはんを食べてボケっとしている。婚約者の就活は途上で、宙ぶらりんなまま言いふらした不安だけが心をカサカサと蝕んでいる。ファンタジーは素敵だ、逃避できるから。
 煌夜祭、面白かった。連作短編の形式だから電車に乗る隙間時間にちょこちょこ読んだ。人を食べたくなってしまう不死の魔物の話。「不滅のあなたへ」とか、同じ職場の人が貸してくれた「20XX」を彷彿とさせる。愛する人を食べること、そうして引き継いでいくこと。
 なんだか象徴的だと思う。私は婚約者の人生を食べてしまっているようなものだし、婚約者の存在も私自身や私の人生に影響して大きく変えた(お互いに影響されやすいのかもしれない)。
 20XXでは、ロボットの彼が、食人種の孤独な少女に愛されるけど、彼女の愛を受け入れることができず、それを生涯悔やむ。煌夜祭では、魔物は愛した人を泣きながら喰い、でも最終的にはそれが救いになっている。どんなに暴力的で死と隣り合わせでも、いや、だからこそ、誰か一人の人を愛するってことが人生には必要なのだろう。人生という終わりのない物語に、死という結末をもたらし、自分以外の誰かに引き継いでいく唯一の手段なのだから。 
 我ながら何言ってるんだ?となっているが、感想でした。
 


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