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原田マハ「花々」

 原田マハさんは、沖縄県の離島を舞台に、女性主人公のやさしくて切ない物語を多く書いている、気がする。私の母はマハさんの小説に最近はまっているようで、読み終わった本を私にくれたので、読んでみた。

 サガリバナ、デイゴとねむの花、などなど、物語には多様な花々が登場する。島暮らし2年目でも私はサガリバナを見たことが無いので、やっぱりサガリバナが一番印象に残った。

 物語は、2人の全く境遇の違う女性が、それぞれ出会い、居場所を探して南の島を旅する、というものだ。表向きは、成子のビジネスのためだけど、それも成子の寂しさの裏返しに過ぎない。

 旅に出れば出るほど、故郷について考えるし、どこまで行っても故郷はついてまわる、ということを思った。物語はやさしい言葉で紡がれていて、さくさく読み進められるのに、成子と純子、2人が選び取る居場所は、寂しさでいっぱいに満ちている。

 安住の地とは、なんだろう。
 来年度には、この大好きな南の島を離れ、故郷の県に(都会方面に)戻ることになった私にとっては、なんだかとても切実な物語だった。

 なお今日は、昼頃に、職場の上司に教えてもらった離島フェアに行って、原田マハさんの小説「風のマジム」ゆかりの南大東島のラム酒ブースを見つけて興奮し、母に写真を送ったり、母と義母家宛の手土産にラム酒ケーキを買ったりした。
 親族宛に、島所縁の産品を届けるために、くるくると祭り会場を回っていた。

 なので余計に、きらきらした優しい風と暖かい光と花々で満ちていたとしても、旅先は「安住の地」にはならない、という物語の結末が、ちょっとこたえた。
 旅先の思い出や幼い日の記憶、島々からの手紙をカイロ代わりに、大切な人を失って凍えながらでも、純子にとっては生まれ育った田舎が、成子にとっては職場である東京が、「安住の地」だった。
 じゃあ、私にとっては何処なんだろう。
 そもそも、安住ってなんだろう。

 私、結婚したけど、本当はまだ旅人でいたかった。
 我儘な、叶わない願いだと知っている。
 結婚の良さは、して初めて分かった。お互いを変に束縛することがなくなった。互いに首を絞め合うようなぎゅう詰めの不安、息苦しさを超えて、自由を許せるありがたさが身に沁みている。

 もう少し、旅をしたいと思う。
 夫と2人で旅に出て、同じ景色を見てお互いに違う感想をもって、喧嘩しても構わない。仲直りしてまた先に進めたらいい。
 いま南の島に暮らせている幸運を噛み締めながら、頑張って働いて、おやすみの日はよく遊ぼう。それで、夫や母や職場の人たちや友達と沢山、綺麗なものを分け合おう。

 半年後には、「安住の地」に限りなく近いような場所に夫と2人でいて、それは時々苦しいだろう。そういう時は、きっと南の島で1人の今を思い出して、あまりにも眩しくて悲しくなってしまうだろう。
 だから、花々や猫や青い海や文化を、限りなく分け合おう。その記憶を頼りに、また新しい場所に帰ったら、そこでも新しくて懐かしい、綺麗なものを沢山見つけられますように。

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