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土産、蛙、家紋

 帰省先から名古屋へ戻る途中、高速道路のサービスエリアに寄ったら、娘が友達への土産にキーホルダーを物色し始めた。広島のご当地物をペアで買いたいのだそうだ。
 残念ながらその店にはあんまりいいのがなかったから、次のサービスエリアにも寄ってくれと云う。それで次も寄ったが、やっぱり目ぼしいのがない。そのうちに広島県を出てしまった。
 自分は娘の横でキラキラしたキーホルダーを眺めながら、昔もらった土産のことを思い出していた。

 子供の頃、蛙のキーホルダーをもらった。仕事の都合で中国へ行っていた叔父が、帰ってきた時の土産だった。
 丸い形の真ん中に両手を広げて笑う蛙が描かれていた。
 背景は紫色だが、握っていたら緑に変わった。温度で色が変わるのである。
 それは面白いが、なぜ蛙なのかが判然しない。他にいくつかある中で叔父が蛙を選んだのか、あるいは元々蛙しかなかったのか。後者であれば、メーカーのモチーフ選定が全体不可思議だ。
 もらった土産についてそんなことを訊くのも憚られ、訊かずにいたから結局判然しないままである。
 せっかくもらった物だから、鍵に付けていたら学校で友達が「何これ」と言ってきた。
「これ、色が変わるんよ」
 そう言って指で擦ってやると、果たして緑になった。
「ほら」
「ふーん」
「……」
「でも……、何で蛙なん?」
「知らん」
 その後もしばらく使っていたけれど、じきにどこかへやってしまった。
 叔父も、もう覚えていないだろう。

 やっぱり子供の頃、別の伯父が東京を案内してくれた。
 その際に浅草寺の土産物屋で家紋キーホルダーを買ってもらった。
「裕君のとこの家紋はそれなのかい?」
「うん」
「うちのは何?」と従妹が言った。叔父が何と答えたかはもう覚えていない。
 こちらも鍵に付けていたが、鎖が切れてどこかへやってしまった。
 後年、大人になって浅草を訪れると、同じ店で同じ物が売られていた。土産物ビジネスとは随分息の長い物だと感心した。
 買って鍵につけておいたら、また鎖が切れてどこかへやってしまった。

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