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土手を歩いて眼科へ行った(2024/03/02)

 網膜剥離の経過観察のため、土手を歩いて眼科へ行った。天気が良いから歩いていても気分が良い。

 眼科はいつも混んでいるが、今日は存外空いていた。これなら早く終わるかも知らんと思いながらゆったり座って待っていたら、受付から「飛蚊症が急に増えたんです」と聞こえてきた。
 どうやら同年代の女性である。きっと自分と同じことになっているのだろう。不安げな様子を見て、何だか急に、一段上に立ったような心持ちになった。
 その人が隣に座ったから「同じですよ」と言いたくなったけれど、「え、そうなんですか」「そうなんです」となった後に何も話すことが浮かばない。気まずくなりそうなので止しておいた。
 あんまり先輩風を吹かせるものではない。

 さらに待っていると、トイレから出てきた婆さんがスタッフの一人をつらまえて、「紙が詰まったのよ」と訴えた。
 スタッフが一緒に行って、じきに水を流す音がした。そうして婆さんが大声で何か云っている。ひどいガラガラ声で、何を云っているのか判然しない。随分大きな声なのに、ちっとも聞き取れない。スタッフの声は聞こえない。婆さんの声ばかりが聞こえてくる。
 まるで婆さんが不思議な言葉を一人で喋っているような塩梅で、じわじわ笑えてきたところへ、受付のスタッフが吹き出した。

 家に帰ると何だか良い匂いがした。
「バジルのスパゲッティがちょうどできたところよ」と妻が言った。

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