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レトロ、ペンケース

 高一の時に、アメリカンレトロのイラストがプリントされた缶ペンケースを買った。随分気に入って、大学はもちろん、社会に出てからも使っていた。

 最初の就職先では報告書を鉛筆書きしてコピーに捺印して提出することになっていたから、シャープペンシルの出番も多かった。それでこのペンケースに同じシャープペンシルを4本入れていた。
 4本も入れる必要はないけれど、ノックボタンが本体の横についたのを何となく気に入ってしまい、見かけるたびに色違いを1本ずつ買って段々増えた。終いにペンケースにも入り切らなくなったから、職場のペン立てにも立てていたと思う。
 ある時、上司が「随分このペンが好きなんだな」と感心するので「別にそういうわけではないです」と言っておいたけれど、自分の気持ちに気付いていなかっただけで好きだったのには違いない。

 ペンケースは、パソコンが普及して出番がほとんどなくなった後も鞄に入れて持ち歩いていた。
 ところが、ある時その鞄を盗まれた。車の助手席に置いたまま離れていたらガラスを破って持って行かれたので、警察に連絡したが結局出てこなかった。
 泥棒はきっと金目の物が入っていると思ったのに違いないが、ペンケースの他には営業先のリストぐらいしか入っていなかった。随分がっかりしただろう。

 泥棒がリサイクルゴミに出したなら車の部品か何かに生まれ変わって今も世の中を回っているだろう。けれどもしポイ捨てされたなら、シャーペンを4本収めたまま、どこかで錆びついて眠っているかも知れない。朽ちながら、静かに、寂しく。
 母さん、あれは好きなペンケースでしたよ。

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