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zilch、借りパク

 仕事帰りに、10年ぶりぐらいでzilchを聴いたら松川さんのことを思い出した。

 松川さんは自分が大阪に住んでいた頃の飲み友達だった。
 ある時、いつものように音楽のことなど語り合いながら飲んでいたら、お薦めのCDを3枚ばかり貸してくれと云ってきた。
 自分がメタル愛好家であることは既に知られていて、そのものズバリを持って行っても面白くないと思ったから、敢えてちょっとずらしたのを3枚選んで渡したら、「全部予想外だった、面白かった」と大いに喜ばれた。zilchもその中の1枚だった。

 名古屋へ引っ越した後、連休で大阪へ遊びに行ったら、松川さんは「ちょっとこれを見てくれたまえ」とヤマハのアコースティックギターを持ってきた。
 そうして、「何に使うかわからないジャックがついているんだが、これは何だろうか?」と言う。確かに、見かけないサイズのジャックが1個付いている。シールド(アンプとつなぐケーブル)にしては細く、イヤホンにしては太い。
 何でしょうねと云ったら、じゃぁこれを持って帰ってくれと云い出した。

「え、くれるんですか?」
「いや、やらん。持って帰って調べてくれ」

 持って帰って何がわかるとも思えない。全体、メーカーに訊いたらすぐにわかることだ。それを敢えて持って帰らせるのは、きっと「また来いよ」ということなのだろうと解釈して、預かった。

 ところがその後はなかなか遊びに行くような機会がなく、行きつけの飲み屋が閉店したこともあって松川さんや周辺の人たちとのやりとりも何だか途絶えてしまい、そのまま20年が経過した。
 先日Facebookで探してみたら、松川さんはいなかったものの、つながりのありそうな知人が2人見付かった。それで「松川さんにギターを返したいんだが、連絡先を知らないか?」とメッセージを送ったのだけれど、2人とも一向に反応がない。既読スルーだったら殺すつもりだったが、未読のまんまだったから、ことによるともう死んでいるのかもしれないと思った。

 だからギターは未だに自分の手元にある。何のジャックだったのか、矢っ張りわからない。

よかったらコーヒーを奢ってください。ブレンドでいいです。