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犬と戯れる

 どうかしたはずみに、人から仔犬を預かることになった。先方ではくれるというのを、飼えるかどうか暫く試しに預かってみることにしたのである。
 犬を入れる箱がないからタオルに包んでカバンに入れた。そうして電車に乗って帰ってきたけれど、自分は体調不良でそのまま寝込んでしまった。
 翌日、熱が高いようだから、行きつけの医院で検査をしてもらった。以前コロナにかかった時もそうだったけれど、別室で随分待たされる。待つ間に座っているのも辛いから、勝手にベッドに寝ていようかと思ったが、オオゴトになっても面倒だからよした。
 結局コロナもインフルエンザも陰性で、ただの風邪だとわかった。そうと知れたら急に何でもないように思えてきた。医者にもらった薬を飲んだら熱も下がり、そこでようやく犬のことを思い出した。

 慌ててカバンから出したら、まだ生きていたからほっとした。
 食べ物と水を与え、風呂に入れた。以前から犬を飼いたがっていた娘が大いに喜び、ドライヤーで乾かした。
 犬も元気になったようだから、一緒に遊ぶつもりで庭へ連れて行き、ボールを投げてやったら、見向きもしない。これまで犬を飼ったことがないからわからないが、こういう遊びは事前に訓練が必要なのかもしれない。
 趣向を変えてこちらが走ったら、今度は追いかけてきた。急に方向転換をすると、犬も少し行き過ぎてからついて来る。その都度「ガウ」という声を出すので何だか怖かった。こちらは遊んでいるつもりだけれど、先方では殺すつもりで追って来ているのかも知れない。
 それを何度か繰り返すうちに、犬は突然空気が抜けたようにペチャンコになって、動かなくなった。
 近寄って見ると、中身の抜けた亀の甲羅みたいになっている。拳で軽く叩いてみたらコンコンと鳴る。形も変わっていて、とても犬には見えない。
 何が起きたかわからないが、何だか淋しい気がして目が覚めた。
 熱はすっかり下がったようだった。

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