【OAK】藤浪晋太郎をトレードで放出
アスレチックスは、藤浪晋太郎をボルティモア・オリオールズにトレードしたことを発表。見返りとしてリリーフ左腕のイーストン・ルーカスを獲得している。
アスレチックスの我慢が実り、転売に成功
1年3.25Mという格安の契約で入団し、当初の起用通り先発投手としてではなかったにせよ、アスレチックスは藤浪を転売することに成功した。
格安の契約を転売に繋げたこと自体、再建球団としてお手本のムーブといえる。さらに藤浪が辿った道筋を考えれば、藤浪の契約は、フロントも現場の首脳陣も特大のガッツポーズを握れる大勝に終わった。
先発として登板した4月、リリーフ転向当初の5月は、合わせてERA12.00とどうしようもない成績だった。
しかし、こちらのnoteにもある通り、藤浪はそこから改善。
エマーソン投手コーチ、マッカーシーブルペンコーチのもとで藤浪はレパートリーを絞り、そして足の上げ方を変えるなどフォーム変更にも着手。
6月以降はERA3.26、アキレス腱だった制球も7月は0四球(10三振)と完全に覚醒してみせた。
それでも7月の無双状態に至るまでは、投げる度に打たれていた時期、目の覚める投球と炎上を繰り返す時期を経ていて、層が薄いアスレチックス投手陣といえどもアスレチックスはよく藤浪を我慢したと思う。
そもそもアスレチックスは、先発だったときから中6日で藤浪を登板させるなど、格安契約の選手とは思えないほど気を遣ってきた。
当初通用しなかったときでも、格安契約だからと放り投げることなく、プランを持って藤浪をデベロップしてみせた。
藤浪の成功例は今後も活きそうで、アスレチックスはAAAでもくすぶっている剛腕をトレードしてきて、メジャーで起用して好転させるという”剛腕矯正プログラム”を継続している。(ルーカス・アーセグ、アンヘル・フェリペetc)
もっといえば、近年はドラフトでもフロアー重視からシーリング重視の路線に打って変わって剛腕を多く獲得しており、藤浪の成功例はアスレチックスのデベロップメントに自信をもたらすことになりそうだ。
交換要員について
交換要員は26歳のリリーフ左腕のイーストン・ルーカス。ベースボール・アメリカの球団プロスペクトランキングでは30位に名を連ねている。
正直、藤浪の対価でTop30のプロスペクトを引き出せるとは到底思っていなかったし、それがメジャー屈指の層の厚さを誇るオリオールズのTop30なのだから驚きだ。
ルーカスは今季AAとAAAでERA2.73、奪三振率11.2を記録している三振を奪えるリリーフ左腕。
平均94マイル、MAX97マイルの4シームはホップ型で、空振りこそ奪えないものの、FB%が29%程度・PU%と17%程度とフライを打ち上げさせることに長けた球種。
決め球はスライダーで47%の空振り率を記録している。ここにさらにカッターとチェンジアップを交える。
空振りは奪えないもののホップ型の4シームでフライを打たせるスタイルは、現在ブルペンの一角を占めるサム・ロングとよく似ている。ロングほど制球がまとまってはいないだろうが、その分空振りは奪えるはずだ。
藤浪が引き出した対価は”破格”
いくら改善したとはいえ、藤浪はERA8点台のリリーバーであり、MLBで実績を残した期間もごく短い。
そのため、トレードとなったときの対価もさほど期待はしていなかった。PTBNLレベルでも仕方ないとの割り切りが必要だと思っていたくらいだったが、結局はTop30レベルのプロスペクトを獲得することができた。
この見返りは、過去のトレードを参照してみると”破格”であることが分かる。
昨年のデッドラインにおけるレンタルリリーバーのトレードのうち、マイカル・ギブンス(CHC→NYM)とマイケル・フルマー(DET→MIN)のトレードを参照してみる。
ギブンスは2022年シーズン、カブスで40試合に登板してERA2.66。実績のあるリリーバーで、デッドラインでのコンテンダーへの移籍はなんと3シーズン連続となった。
しかし、対価となったサウル・ゴンザレスは22歳でAまでの経験しかないリリーバー。好成績ではあったがメッツの球団Top30に名を連ねるプロスペクトではなかった。
マイケル・フルマーもギブンスに劣らない実績の持ち主で、移籍前は41登板でERA3.20の活躍を見せていた。
対価となったソイヤー・ギプソン-ロングはそのときA+でERA1.99の好成績を残していたとはいえ、既に24歳のハイフロアー型のプロスペクトだった。Baseball Americaでも36位にランクインしていたが、Top30には入っていなかった。
そして言わずもがなのことであるが、メッツもツインズも、今のオリオールズほど層の厚いファームではない。
これを考えれば、いかに藤浪の対価が破格であるか分かってくるだろう。
直近2ヶ月で持ち直したとはいえ、実績も安定感も見劣りする中、それでも藤浪のポテンシャルが高く買われたという証左でもある。
デッドラインから10日を前にして、アスレチックスがトレードに妥結したのも納得の対価といえるだろう。
レンタルリリーバーにMLB readyのリリーバー候補というトレードだと、昨年以前であれば、2021年のダニエル・ハドソンとメイソン・トンプソン(SD←→WSH)のトレードが思い浮かぶ。
ハドソンは移籍前は31登板でERA2.20を記録しており、2021年のデッドラインにおいては最も支配的なレンタルリリーバーの1人だった。
メイソン・トンプソンは押しも押されもせぬプロスペクトだったため、ルーカスと比べられるほどではないが、構図としては昨年の2件よりもこちらの方が近いように感じる。
何が言いたいかというと、事前に想像していたよりもはるかに藤浪のトレードバリューは高かったということだ。
ありがとう藤浪
獲得の経緯、シーズン序盤の途方もない苦戦のことももちろん加味して、この契約からトレードまでのプロセスには満点を付けたい。
藤浪本人はもちろんのこと、藤浪の改善を助けた現場のコーチ陣、獲得から我慢して残し続け、最後にはきれいに売りぬいたフロント、全員にとって快心の結末を迎えることになった。
わずかな期間の在籍ではあったが、嘘みたいに負けまくったシーズンに藤浪がいたということを、藤浪が残したチーム最多の5勝とチーム最多の8敗とともに思い出すことになるだろう。
藤浪のオリオールズでの活躍に期待したい。
*ヘッダーはSFクロニクルより
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