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【OAK】アスレチックスが今年限りでオークランドを去る サクラメントで向こう3年プレーすることに

from Oakland to Sactown

オークランド・アスレチックスが来年2025年からサクラメントでプレーすることを決定した。アスレチックスは昨年にラスベガス移転を正式に発表し、2028年の新球場開場を目指していた。現本拠地オークランド・コロシアムのリース契約は今年2024年限りであり、アスレチックスが移転までの間にどこでプレーするのかは焦点となっていた。

交渉は3つの候補地との間で進んでいた。最終的に選ばれたサクラメント、そして最後まで交渉を行っていたオークランド、そしてソルトレークシティ。

サクラメント、そしてソルトレークシティでは、AAAの球場を間借りすることになるため、このような疑問も浮かんでくるだろう。

なぜラスベガスにあるアスレチックスのAAAの球場を使わないのか?

それにはアスレチックスが地元放送局NBCSCAと結んでいる放映権契約が関わっている。アスレチックスとNBCSCAとの年間6700万ドルと言われる放映権契約は、2033年まで結ばれている(不人気なアスレチックスからしてみれば好条件であることは間違いない)。

オークランドとも近い北カリフォルニアのサクラメントであれば、アスレチックスはNBCSCAとの現行の放映権契約を維持できる(多少の見直しが行われる可能性はあるが)。しかし、そのエリアの外にあるラスベガスでは、アスレチックスは豊かな放映権収入を失ってしまうことになる。そのため、移転先であるラスベガスに早めに乗り込み、新球場の完成を待つという、かつてのエクスポズがワシントンDCで取った選択肢を取らなかったのだ。(新球場完成の勢いと共に移転したいのもあるだろう)

これはユタ州に位置するソルトレークシティでも同様であり、実質的に選択肢はオークランドとサクラメントの二択に絞られていたと言える。

オークランドとの交渉劇

オークランドとアスレチックスによる、一連の泥沼の交渉劇の最終章の様子は『ESPN』のティム・キーオンによってリポートされている。ここではその内容に基づいて進めていく。

交渉の中で明確だったのが、オークランド市側に大きく妥協するつもりがなかったということだ。今年の2月中旬に”アスレチックス側から”コロシアムのリース契約の延長交渉を持ち込まれるまでは、地元のプロサッカーチームであるルーツとソウルとのリース契約を進めていた。そして、何よりも、オークランド側はここ数年に渡るフィッシャー&カバルによる不誠実な交渉に疲弊していた。

オークランドが提示したオファーはメディアにリークされた。ハワードターミナル計画の交渉を含め、近年の市と球団の交渉では見られなかったメディアを介した交渉だった。

契約期間は5年。ラスベガス新球場が開場予定の3年目後にオプトアウトが付き、計画の遅れにも対応できる。

契約費用は9700万ドル(偶然にも、ハワードターミナル計画が破綻した際の市と球団のギャップと同額である)。さらに野球仕様からサッカー仕様のフィールドに変更する費用もアスレチックスが持つ。

(↓レイダースがいた時はこんな感じ)

さらに、ハワードターミナル計画のために球団が買い取ったコロシアムの株価を、再開発のために地元の開発業者に売るということ。

そして、野球をオークランド市に残すための条件もオファーには含まれていた。「①オークランド市にエクスパンションチームのオーナーを探す1年間の独占的権利を与えること」、「②アスレチックスという名前やチームカラーをオークランドに残すこと」、「③地元のオーナーグループへの売却を促進すること」。それらのいずれかの実現

①はアスレチックスの球団単体ではいかんともしがたい条件であり、③はフィッシャーがここで売却するならばそもそもこんなことにはなっていないという話であり、①・③で手が打たれる可能性は低かったことは承知の上だろう。

②についてはそのハードルが低かった。繰り返し言うようにラスベガスの人々にとっては、貧乏弱小球団のブランドなど気にしないだろうし、むしろラスベガス生まれの新ブランドの方を気に入るだろう。

オークランドにとって”アスレチックス”というブランドを残すことは、エクスパンションへの布石だ。①・③の条件からは、オークランドが新しいオーナーのなり手が現れることに自信を持っていることが窺える。それは、散々噂されているNBAウォリアーズのオーナーのジョー・ラコブを筆頭としたビリオネアたちであり、さらに昨年フィッシャーに株の一部買い取りを申し出たレジー・ジャクソンも候補の一人だろう。


これは公平に見るならば、かなりオークランド側に有利な内容だ。

アスレチックス側からの提案はレイダースが移転前に結んだ2年1700万ドルであり、何しろ現行のコロシアムのリース契約は年間150万ドルに過ぎない。

それでも、オークランド側はこれはコロシアムの賃料ではなく、オークランドに留まるための費用だということを強調した。

オークランド側は、自分たちに不利な契約を呑んでまでアスレチックスに留まってもらう必要はないというスタンスだったが、それは少なくともある程度の勝算を含んでいたに違いない。

サクラメント行きを選べば、球場をメジャー水準に改修すること、従業員の再雇用など、諸々の費用がかかる。そして、この時点ではNBCSCAとの放映権契約は見直しを迫られるという見方が多かった。つまり、アスレチックスはサクラメント行きを選ぶならば、大幅な収入減を呑まなければならないだろうということだ。新球場の資金調達に勤しむジョン・フィッシャーがそれを受け入れるとは、この時点では思えなかった。

サクラメントが破格の条件を提示した理由

しかし、現実はサクラメント行きだった。オークランド側は最終的にオファーを3年6000万ドルまで引き下げていたが、それも退けられてしまった。

誤算だったのは、放映権収入およそ7000万ドルのほとんどが維持されるということだろうか。これによって、フィッシャーの収入減への懸念は払拭された。

さらに、サクラメント側の提示条件も破格だった。3年間の契約で賃料はなんとゼロ(球場の改修費はアスレチックスが持つ代わりだろう)。これでは、どんな契約条件も分が悪い。

そして、ビッグマーケットのベイエリアからサクラメントに移ることによって、収益分配をフルで受け取れる可能性も出てきている。前回のCBAのビッグマーケット条項により、一応ベイエリアを本拠とするアスレチックスの収益分配の取り分は25%に留まっていた。新CBAにあった「新球場の拘束的な合意をどこかの都市と期限までに結ぶこと」という条件をラスベガスとの契約でクリアしたフィッシャーは、サクラメントへの仮移転によってフルの収益分配にありつくことができるはずだ。収益分配の100%のシェアはおよそ6000万ドルと試算されている。

サクラメント側のキープレイヤーは、NBAサクラメント・キングス、そしてジャイアンツ傘下のAAAリバーキャッツのオーナーであるヴィヴェク・ラナディベ。ラナディベはなぜ破格の条件を提示して、アスレチックスをサクラメントに招聘したのだろうか。

ラナディベが目論むのは、MLBのチームをサクラメントにもたらすことだ。アスレチックスがいる3年間で、サクラメントのマーケットとしての可能性を示す。ラナディベはエクスパンションの競争においてサクラメントが「ポールポジションにある」と語っている。

しかし、オークランド側が契約条件に求めていたエクスパンションの保証は一切ない

ラナディベは、仮にエクスパンションの保証が無かったとしても、アスレチックスという保険を手にしている。彼はアスレチックスがラスベガスに新球場を建てられる可能性は低いと読んでいるという。

ある関係者は「ラナディベは間違いなく聡明だ」と語った。「ベガスは最終的に失敗するだろうし、そうなったときにチームがいる場所がチームが留まる場所になるだろう。彼はそれを信じる唯一の人間ではない」

ラスベガス行きは無くなるのか?

ラナディベの読み通り、ラスベガス行きは無かったことになるのだろうか?

もともと疑問視されていた計画が徐々に進行しなくなり、資金調達に手間取り、訴訟を抱える…。ハワードターミナルやそれ以前のレイニー大学の敷地でも見られた、フィッシャーの”必敗パターン”に再び入り込んでしまったかもしれない。

ここでは、訴訟がメインのハードルとなってくる。「スタジアムよりも学校を」と訴えるネバダ州の教職員組合”Schools Over Stadiums”(以下SOS)が起こした2つの訴訟だ。

1つは、有権者に決定を委ねる住民投票の実施だ。しかし、住民の52%が反対だという、公的資金提供に対するレファレンダムは現実味が薄れつつある。

アスレチックス陣営はこの住民投票請願に対して異議を唱えており、ネバダ州裁判所ではこれは依然未解決のままだ。これが解決するまでSOSは署名活動を始めることができない。11月の投票でレファレンダムを行うためには、6月末までに10万人の署名が必要とされている。よって、住民投票に向けたハードルは高い。

もう1つは、アスレチックスへの公的資金投入を認可した法案”SB1”が違憲であるとして、SOSがネバダ州などを訴えた訴訟だ。

”SB1"では、アスレチックスはMLBが移転を許可してから18ヶ月以内、つまり今から13ヶ月以内に開発契約とリース契約を締結できなければ、その公的資金の認可は失効の可能性があると定められている。

この”SB1”を巡る訴訟で、裁判所がネバダ州に対して不利な判決を下せば、公的資金は減額あるいは廃止の可能性がある。また、訴訟が長引けば長引くほど、資金が保留される可能性もあり、また13ヶ月のタイムリミットは迫ってくる。

”SB1”で認可された公的資金の総額は3億8000万ドル。残り15億ドルの建設費はジョン・フィッシャーとアスレチックスの責任によって賄われる。フィッシャーは所有株の一部を5億ドルで売却することを試みているが、公的資金が滞るとなれば、外部投資家にためらいを与えるかもしれない。

ラスベガス移転が全く前進を見せない中、サクラメント行きが決定したことによって、ラスベガス移転は起きないというメディアの見方は強まっている

ただ、移転問題の第一人者的存在である地元メディアのリポーター、ケイシー・プラットは依然、ラスベガスに新球場が建つ可能性を「70%」としている。


サクラメント行きへの懸念

アスレチックスがオークランドをついに捨ててサクラメントへ行くという決断は、当然ながら風当たりが強い。

懸念のひとつは、サクラメントの球場・サッターヘルスパークがMLB水準の球場になるかどうかということだ。コロシアムは問題を抱えているが、依然として労使協定に定められた数々の条件をクリアした、メジャーリーグの球場なのだ。

収容人数は14000人という少なさだが、今シーズンのコロシアムの最大動員数が13522人であるため、問題になることはないかもしれない。

ドジャース傘下の選手として、パシフィックコーストリーグで同球場でのプレー経験も豊富なライアン・ノダはこう語っている。

「グラウンドをメジャーリーグ並みにするためには、多くのリノベーションが必要になる。それをしてくれる限りは、僕はオーケーだ。メジャーリーグなのだから、それを理解してもらわなければいけない。もし基準に達していなければ、そのとき、僕たちは何かを言うことになるだろう」

サッターヘルスパークは、クラブハウスがベンチ裏ではなく外野に位置しているなど、MLB仕様の球場に生まれ変わるには改修は必須だ。

賃料が求められない代わりにアスレチックスがその改修を行うのは当然のことだ。ただ、マイナーリーグのシーズンが終わってから来春までに必要な改修が行われるのか、これまで口で宣うだけで何かしらの建造に着手したことがないフィッシャーにそれが務まるか、ある意味で興味深いテストとなる。

サクラメントの仮移転についてコメントを差し控えた選手会は、球場の仕様がメジャーリーグの選手がプレーするのに相応しいかどうか口出しする必要がある。


今年1月、球団社長デーブ・カバルは「私たちはラスベガス移転に先立ってペイロールを増やす計画を立てており、新しい球場が開場すればトップレベルのペイロールを用意する予定です」と語っていた。

関係者はその具体的な金額を、移転に先立って1億3000万ドル~5000万ドル、移転後は1億7000万ドルとしていた。

しかし、サクラメントに行って大幅な収入の改善は当然見込めない。さらに新球場の建築費を用意するハードルは依然として立ちはだかっている。

カバルは具体的な金額についての言及を避けていた。アスレチックスのペイロールが来年から増えるというのは、再び嘘に終わる可能性が高い。このコメントの時点ではサクラメント行きは決まっていなかったため、仮移転が確定した今ではなおさらだろう。

もっとも、必要な改修が為されたところで、サクラメントのマイナーリーグの球場で、マイナーリーグ同然のチームに加わってプレーしたいと思う選手はいないだろう。ペイロールを増やそうにも、増やしようがないのは確かだ。


一方で、チームは2年間にわたる100敗シーズンの末に、改善を見ている。

打線の核になり得る選手が芽を出した昨年に続き、今年は投手陣が大幅に改善されている。マイナーでもAAを中心に多くの選手が結果を出している。普通であれば、再建脱出に向けて動き出して然るべき状況にある。

しかし、その矢先にオーナーの思惑に翻弄され、引き続き劣悪な環境でプレーすることを余儀なくされる。これがファン目線からして、あまりに不憫でならない。

今に始まったことではないが、選手を顧みないオーナーの悪政が、選手にはっきりとした実害を与えるのがまかり通っていることに対する憤りややるせなさを覚えずにはいられない。

そして、サクラメントへの仮移転によって、無用の長物となるのはコロシアムだけではない。コロシアムで働いていた従業員など、多くの球団職員たちを解雇が待ち受けている。57年間の歴史を持つオークランド・アスレチックスには、古参の職員たちが多い。そういった功労者たちがオークランド時代の終焉を知ったのは、事前の球団からの通知によってではなく、ニュースが世に出たタイミングだった。


ジョン・フィッシャーを擁護できる要素があるとすれば、少なくとも彼はオークランドへの新球場計画を試みていたということだ。

ハワードターミナルの計画は過去20年の間にボツになった計画の中で、最も現実味を帯びていただろう。しかし、パンデミックに代表される不確定要素が計画を狂わせた。20年以上も新球場を求めてもがいてきたアスレチックスも、その間にレイダースとウォリアーズを失って活気を失っていくオークランドも、双方が疲弊していた。彼らは時間を使い果たしてしまった。

それでも、非難の矛先は常にフィッシャーに向くことだろう。フィッシャーは結果的にあまりに多くのものを破壊してしまった。野球という競技、オークランド・アスレチックスという名門の歴史、そしてそれに携わってきたLast Dive Barのグループのような人々への敬意を恐ろしいまでに欠いていた。さらに最近ではSNSのリプライ閉鎖のような滑稽な手段を取ってまで、ボイコットを打つファンを弾圧することを厭わない。その愚かさはとどまることを知らない。


2016年の時点で、アスレチックス移転の危機を察知して警鐘を鳴らしていた人物がいる。その先見の明に満ちた人物は「オークランドを離れるとしたら、10年後には間違いを犯したと後ろ向きになる可能性が高いと思う」と語っていた。

それが60年近く球団に忠誠を捧げてきたファンを愚弄し、フィッシャーによる冒涜の数々をサポートしてきたコミッショナーのロブ・マンフレッドその人だ。

SF Gateより

『ESPN』のバスター・オルニーによれば、アスレチックスの移転を満場一致で承認した他球団の人間も、アスレチックスの状況には嫌悪感を抱いている。

マンフレッドの”予言”通り、我々は10年も経たないうちに既に間違いを犯したことに気づき始めている。


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