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官能小説 イく年、くる年

 我が家の大晦日の夕食は、天ぷらそばと決まっている。
 海老と、しいたけとレンコンを揚げ、おそばを茹でる。
 九時ごろからゆっくりはじめて、食べ終わって一息つくと、近所のお寺から最初の鐘の音が聞こえてくる。

「おっと、もうそんな時間か、そろそろ始めるか?」
 夫のまさきがあたしの手をとると、掌の窪みを意味ありげにくすぐる。あたしはどんぶりを流しに持って行き、ジーンズとトレーナーを脱ぐ。普段着の下には、年越しのために買った赤のレースのブラとTバックとガーターベルトと黒のストッキング。
 
 まさきのひざの上に座って、
「じゃあ、『眼(げん)』の(好)から。今年見た良いものは?」
 と聞く。当然赤の下着という答えが返ってくることを期待して。
「……経理の中島さん……すっげー可愛いんだ。おっぱいは大きすぎず小さすぎず、乳首もあそこもピンクで形がよくって。普段の顔も可愛いけど、イキ顔まで可愛いいんだ」
 なんだよそれ。くっそー。むかつく。
「わ、悪かったわね。白目剥いてケイレンするホラー女でっ」
「いや、それはそれで、またよしってことで。そんなに切れるなって」
 
 まさきは自分の発言をごまかすように、あたしの唇をむさぼり、舌を吸う。薄いレースのブラの下の突起を指の腹で撫でられると、怒りよりも、気持ちよさのほうにやられてしまって、あんっ、などと、つい声を出してしまう。

「じゃあさ、ゆかりの『眼(げん)』の悪(あく)は?」
 まさきが、あたしにそう聞くやいなや、二度目の鐘の音がぼーーーーーん、と響く。
 経理の中島って女、といいたいところだけど、会ったことがないので、今年見たものの中で最も気持ち悪いものだとは、言えない。

「……島本部長のあそこ。なんか紫っぽくて、ねじれててグロテスクだった」
「……ゆかり、あのセクハラ部長とヤッたのか?」
 まさきは、あたしのブラとTバックを乱暴に剥ぎ取ると、自分もすごい勢いで服を脱ぐ。

「ヤッたんじゃなくて、ヤられちゃったんだって、抵抗できなくて仕方なく」
 嘘じゃない。

 三度目の鐘と同時にバックから無理矢理突っ込まれた。
「あんっ……やだもういきなり……やんっ……あうっ……」
 入れられたくらいで、たちまちイきそうになってしまうなんて。大晦日の夜はまだまだ長いのに。

「……島本部長ひとりだけじゃないんだろ、今年の浮気相手は」
腹いせみたいに、すごい勢いで突かれて、何も考えられない。
こういう時に誘導尋問されたら、危険だ。

「まさきの友達のユージ、色、形、大きさ、ぜんぶ普通で可も不可もなし。今年見たどうでもいいもの」
しまった。黙っているつもりだったのに、つい言ってしまった。ああっ…。

「ちくしょー、いつの間にユージとやったのかよ」
 よほど頭にきたらしく、乳首をぎゅっとつねられ、首筋を噛まれる。
 そしてさらに、激しく突いてくる。
「あん……いやっ…あぁああっ…だめだってば……あのさ……誰かの送別会の後、連れてきて、自分だけさっさと寝ちゃったじゃない……まさきのせいなんだからねっ…あっ…やっあああっ…でも何から何まで普通だった。ね、そういうまさきだって、まさか経理の中島って女だけじゃないでしょ?『鼻(び)』の『好(こう)』は?」

「……みさきちゃんの匂い」
 みさきはあたしの友達だ。香水は何を使っていただろうかと考える。
「クロエ?」
「そんなんじゃなくて、感じてくるとなんかすごいあそこの匂いがすごい甘くなって、もう病み付き」
 
 くそっ。やっぱりみさきとヤってたのか。また除夜の鐘が鳴る。ちょー頭にくる。ああっでも、それよりも…あっ…だめっ…あぁあああっ…。あそこがぎゅうぎゅうになって、こすられる感じがたまらなくなってきて、ああもうっ…みさきのことなんてどうでもいい…あっ…イくぅ…イっちゃう…あぁあああっ…。
何度目かの鐘と同時にイッた。
 
 大晦日の営みは、この程度では終わらない。
 
 眼(げん)・鼻(び)・耳(に)・舌(ぜつ)・身(しん)・意(い)の六根のそれぞれに好(こう:気持ちが好い)・悪(あく:気持ちが悪い)・平(へい:どうでもよい)があって18類、この18類それぞれに浄(じょう)・染(せん:きたない)の2類があって36類、この36類を前世・今世・来世の三世に配当して108となり、人間の煩悩の数を表す。 
 
 毎年恒例の大晦日エッチでは、あたしたち夫婦の間の108の煩悩を包み隠さずに話し合い、すべてを水に流す。
 
 今年もいろいろあったけど、来年もよろしくね。
 息を弾ませるまさきの体の重さが愛おしくて、あたしは次の鐘の音を息を潜めて待っている。
                             (了)                                                     
 


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