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あなたが嘘をつかなくても 生きていけますようにと

 27年間生きていた大阪を出て、名古屋で暮らし始めた。誰も知らない土地で2年ぶりのひとり暮らし。すべてを焼き尽くした夏が終わり、ようやく息ができるようになって、この数ヶ月間の記憶を少しずつ取り戻している。

 梅雨を知らない6月、寝不足とメンタルの不調でぐちゃぐちゃになった頭で 、2年と半年付き合っていたパートナーに別れを告げた。
 そのことを知った会社が、なぜか乗り気で転勤を打診してきて、いずれにせよ引っ越ししないとなぁと思っていた私は二つ返事で誘いに乗った。

 元パートナーと一緒に暮らした街。引っ越して同棲を始めてちょうど1年と、いちばん住んだ期間が短い街なのに、思い入れの濃い場所となってしまった。
 賑やかな商店街とスナックから聞こえるカラオケと笑い声。酒を飲みながら見上げた近所の夜桜も、コーヒー片手にぼうっとしていた河川敷も、いい思い出だ。

 必死に「暮らし」をやろうともがいた1年間だった。
 働いて家に帰ってご飯を作って食べて風呂に入って寝る。そういう当たり前の生活を、当たり前にしようとして躍起になっていた。
 実のところ、仕事が忙しすぎてほぼ毎日22時ごろに帰宅していたこともあって、平日に家で揃ってご飯を食べたことなんて、数えるほどしかなかったと思う。

 ストレスで10kg太り、それを他人に指摘されまたストレスになり、過食を繰り返した1年でもあった。
 夜な夜なラーメンを食い漁ったり、浴びるように酒を飲んだり。今考えてもよく死ななかったなと思うような生活だった。

 そんな毎日がいやになり、八つ当たりをしてしまったんだなと、今になっては申し訳ない思いがある。

 私を狂わせた夏が終わり、秋と呼ぶには少し肌寒い日が続く。ようやく落ち着いて深呼吸をして生きていけるようになった。

 ひとり暮らしには贅沢な1LDKで、まだ片付けていない段ボールを眺めながら生活している。
 転勤に伴い仕事の負荷が下がったこともあり、帰宅してから週末にこさえた作り置きをチンして食べるくらいはできる。

 毎日泣いていた夜も、今はゆっくり眠れるようになった。
 こうやって人は少しずつ大人になっていく。
 携帯に入っている膨大な量のツーショットを消せば、思い出もどんどんぼやけて、輪郭さえ曖昧になっていく。少しずつ大人になってきた私たちは、そんなことを過去の経験から学んでしまっているのだ。

 物語はこれで一段落。
 新章を始める前に、心の底から感謝を捧げたい。
 あなたのこれからの人生が幸せに満ち足りていますように。ずっと笑って生きていけますように。世界中の誰よりもいちばんに祈り続けています。

 出逢ってくれて、本当にありがとう。

 あなたが嘘をつかなくても 生きていけますようにと
 何回も何千回も願っている

よるのあと / adieu

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