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生きる黒歴史が紡ぐただの日常の記録。この物語はフィクションです。Twitter / I…

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生きる黒歴史が紡ぐただの日常の記録。この物語はフィクションです。Twitter / Instagram : @10mujuryoku

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自己紹介(いまさら)

 noteのバッジを確認していたら「プロフィール記事を作成する」という項目があったので、今さらながらに自己紹介の記事を書いてみています。 ■ざっくり  てん といいます。  もちろん本名ではないけれど(かすってもないです)、15歳からずっと名乗っている名前なのでもうほとんど本名くらいの愛着があります。この名前で作ってきたものもたくさんあるし、出逢ってきたひともたくさんいる。大切なハンドルネーム。  由来を知っている人はこの名前を呼ぶときにちょっとだけ笑うんですけど、知らな

    • 春のおさんぽと音楽

       ものごころついた頃から重度の花粉症で、この時期はいつも体調を崩しがち。さくらが咲き乱れ、人々がコートとマフラーを脱ぎ捨ててスキップで街に繰り出す春だが、わたしにとっては気の抜けない季節が始まる。  季節の変わり目で寒暖差も激しく、年度末年度始まりに伴う環境の変化もあいまって、例年はいつも発熱するまで追い詰められる。今年はまだましなほうか。  あさ、くしゃみと同時に目が覚める。3回連続でくしゃみをしたら悪い噂をされているという迷信があったが、そんなかわいいものでもない。10

      • 人生は続く、仕事も続く

        「てんさんの今まで、けっこう濃かったなあ」  職場の飲み会で誰かが言った。汗をかいたグラスに並々と注がれたハイボールが減らなくなるころあい、冷めてかたくなった唐揚げをつつきながら、そうですねえと上の空で相槌を打つ。  3月末、スギ花粉の飛来と同時にどうしても過去を振り返りたくなる季節。説教じみたことを言いたくなるのをぐっと抑えて、自分の社会人人生をたどってみることにする。  確かに、この6年間は波乱万丈だった。  右も左もわからない新入社員時代から、少しだけ仕事ができるよ

        • 【短編小説】会いたいとか言えないから

          「まだ冷えるねえ」  ぷしゅっと軽快な音を立てたと同時に、彼女が口火を切った。織江は適当な相槌をうちつつ、先ほどまで食べていた麻婆豆腐の残り香を掻き消すように安い発泡酒を流し込んだ。  冬と春の境目で、まだ季節を移りきれない冷たい風が頬を切る。  ふたりは缶ビールを片手に繁華街に背を向けて歩き出した。  残業が確定した瞬間、飲みに行こうと誘ったのは織江のほうだった。仕事がうまくいかなかった時、相手を食事に誘い出すのがいつからかふたりの暗黙のルールになっていた。  19時に

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        自己紹介(いまさら)

          #ファインダー越しの私の世界

           カメラが好きだ。片目をぎゅっと閉じてピントを合わせる。ジーッとレンズが動いて、ぼやけた視界がクリアになり焦点があう。よし、ここだ。狙いを定めてシャッターを切ると、ミラーの跳ね上がる音が軽快に響いた。  その一連の動作は銃を扱う時のそれと似通っているが、カメラの場合は命を奪うのではなく、一瞬の時に静止画としての永遠の命を与えられるところが、良い。  幼いころ、家族が使っていたコンデジを借りて撮影していたことをうっすらと覚えている。実家の押し入れの奥に眠っているアルバムには、

          #ファインダー越しの私の世界

          拝啓 ナタリア・テナ様

          拝啓 ナタリア・テナ様     および 貴女を必死に追いかけていた、学生のころの私へ  小学校のころ、わたしはハリーポッターの世界にどっぷりと浸かっていた。分厚い本をランドセルに押し込んで、同級生と競うように物語を読み進めた。新聞紙を丸めて魔法の杖を作っては、呪文を唱えてぶんぶんと振り回す。ノートにびっしりと書き溜められた、登場人物の名前。  親はよく「その熱量を勉強に回してほしいものだわ」と言ったが、算数の公式を覚えられなくても、ダンブルドアのフルネームがアルバス・パーシ

          拝啓 ナタリア・テナ様

          1月14日の日記

           日曜日。フォロワーさんと会って、おいしいものを食べ、舞台できらきら輝く推しを眺め、うまいコーヒーで冷え切った体をあたため、帰宅してシチューを煮込み、これで今週は乗り切れるなと安堵し、あつあつの湯船に浸かって鼻歌を唄い、沈香のお香を炊いて白湯を飲み、「明日からも仕事がんばろー!」とインスタのストーリーに投稿した。充実した一日を抱きしめて眠る。  翌朝、胃痛とともに目が覚め、退職を決意する。  最近ずっとこんな調子の毎日で、土日でリフレッシュしたぶん余計に月曜の朝がつらい。

          1月14日の日記

          Here's to the mess we make

           2024年、ひどく物騒な幕開けになったものだといつか笑える日がくるのだろうか。  暖房の効いたあたたかい部屋で、家族とくだらない話をしながら、ぼうっと眺めたテレビから流れる緊急地震速報の音。NHKのアナウンサーが叫び避難を誘導する声。ふーわふーわと長い時間揺れたあと、震源地の様子が映し出される。ひしゃげた家屋と押し寄せる波と、犠牲になった人々を表す数字。  ひと晩明け、地震は嫌だね、怖いね、何かできることがあればいいねと話しながら携帯で募金サイトを調べていたら、気付けば旅

          Here's to the mess we make

          もしもボックスなどない

           2023年、人生の岐路に立つことが多い一年だった。  とはいえ、たいていのものは私が勝手に生み出してしまったものだったが。  周りの人たち、平気な顔をして人生を歩んでいく人々が、どのようにしてその道を選んでいるのか、どうやって正しい選択肢を選び取って生きているのか、不思議で仕方がない。  私はいつだって誰がどう見ても不正解の方に助走をつけてダイブしてしまうから。  地球の歩き方ならぬ、『人生の歩み方』が欲しい。蛍光ペンでマークしながら、付箋をつけながら、重要な局面は何度

          もしもボックスなどない

          詠み人知らずの人生

           最近、常々思うことがある。めっきり弱くなった。何もかもに対して。  (ひとつひとつの事象に真摯に向き合うことをせず「何もかも」などと曖昧な言葉を使うのも、弱さの表れなのだろう)  自分の仕事に対して叱られが発生した。  ワッと怒られるようなものではなく、裏で「あいつ最近なんなの」とこそこそと後ろ指をさされていた。その場に仲の良い役員がいたので「俺が話聞いてきます」と引き受けてくれて、面談の場がセッティングされた。  水曜の朝、憂鬱な気持ちを胃薬と一緒に流し込んでいたときだ

          詠み人知らずの人生

          あなたが嘘をつかなくても 生きていけますようにと

           27年間生きていた大阪を出て、名古屋で暮らし始めた。誰も知らない土地で2年ぶりのひとり暮らし。すべてを焼き尽くした夏が終わり、ようやく息ができるようになって、この数ヶ月間の記憶を少しずつ取り戻している。  梅雨を知らない6月、寝不足とメンタルの不調でぐちゃぐちゃになった頭で 、2年と半年付き合っていたパートナーに別れを告げた。  そのことを知った会社が、なぜか乗り気で転勤を打診してきて、いずれにせよ引っ越ししないとなぁと思っていた私は二つ返事で誘いに乗った。  元パート

          あなたが嘘をつかなくても 生きていけますようにと

           ずっと、髪を染めるという考えがなかった。  高校3年生、公募推薦で大学受験に合格し人より早く受験勉強から逃げ出した私は、母親に土下座する勢いで頼み込んだ。 「どうか縮毛矯正をかけさせてください」  渋々……というか結構怒られた気もするのだが、最終的に親は私の髪に1万円もの多額を投資して縮毛矯正を当てさせてくれた。  放っておけばチリチリウネウネになるこの天然パーマの地毛は、私の最大のコンプレックスだった。  親は「パーマ代がかからなくていいのよ」なんて呑気に笑っていたけ

          Call Me by Your Name

           慌ただしく月日が過ぎた。学生という鎧を脱ぎ捨てリクルートスーツで青山を闊歩し、新橋で酒を煽る日々に別れを告げる。研修の名のもと、存外あっさり手に入れた憧れの一人暮らしも、この週末で終わりだ。  2018年4月、私は一ヶ月だけ東京で暮らしていた。新入社員研修のため、会社で借りたウィークリーマンションに住んでいた。  ずっと実家暮らしで、早く独り立ちしたいと願っていた私にとって、この一ヶ月はあっという間に過ぎた。  最後の夜は、映画を観に行く。  そう決めたのは東京で暮らす

          Call Me by Your Name

          とある魂ラジリスナーの回顧録

          「えーーっ、魂ラジ、復活?!」  何気なくパトロールしていたツイッターのタイムラインに懐かしい文字が見え、思わず声を上げた。言葉にしてこの単語を発したのはいつぶりだろうか。  福山雅治のオールナイトニッポン サタデースペシャル・魂のラジオ……通称「魂ラジ(たまらじ)」は、毎週土曜日の23時半〜25時まで(仕事の兼ね合いでたまに収録になることもあるが)基本的には生放送でお届けされる。  一旦は放送終了となり、最終回も泣きながら聴いた記憶があるのだが、それが2015年3月末……

          とある魂ラジリスナーの回顧録

          ビル・ヘイドンという男

           ビル・ヘイドンという男が好きだ。  高慢ちきで、人たらしで、人を手球で転がすようにして愛し、愛され、しかし本当の愛を知らず温もりに飢えた哀れな男。  大学生だった頃、BBCドラマ「SHERLOCK」にダダハマりしていた私は、ベネディクト・カンバーバッチとマーティン・フリーマンの作品を漁り、有名どころを制覇しようと試みた。  その一作品目がおそらくこの「裏切りのサーカス」だった。  そこでビル・ヘイドンというキャラクターに出逢い、いつしか彼を理解し、憎み、憐れみ、そして愛す

          ビル・ヘイドンという男

          折り合いをつけて生きていく

           世界中の重力がひと部屋に集まっているみたいだ。  珍しく私より先に起きた恋人が、もぞもぞとベッドから出たそうにしている。「いま何時?」聞かなくても、さっきのアラームからだいたいの時間は察しがついているけれど、なかなか起き上がれない自分への戒めとして時刻を尋ねる。  27歳のはじまりはこんなものだ。  しとしと降る雨の音を聞きながら、ベランダに干しっぱなしの洗濯物たちを思う。これだけ濡れてたら洗い直しだな。もういいや、どうせなら最後まで濡れさせておこう。  低気圧で重くなっ

          折り合いをつけて生きていく