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文藝春秋3月号「東京都同情塔」を読んで

 知的でSF的で批評的で、しかも読みやすい文章でした。今年上半期
の芥川賞受賞作「東京都同情塔」面白くよみました。

  文藝春秋3月号は特別号で、「東京都同情塔」が全文掲載され、選評まで載っています。選評を読むと、平野啓一郎氏が幻惑的な構造計算と題しして、述べており、一番しっくりきました。
「バベルの塔の神話を主題に、言葉と物との関係のとあるべき理想とを、
自ら構想中の塔と同化するように倒錯的に模索する女流建築家の造詣が冴えており」→サラ・マキナという女流建築家を中心とした物語です。彼女はママ活によって、東上拓人という若い顔の綺麗な男性を囲っている。(近未来は、パパ活ならぬママ活)拓人は東京都同情塔の名づけ親でもあり、そこで警備員として働くことになります。
 「ザハ・ハディッドの新国立競技場が建っていた世界というパラレル・ワールドの設定も蠱惑的で、更にはバベルの塔と「同情塔」という、すべてが現実にはアンビルドである三つの建物が、この虚構世界を支えている光景には、幻惑的な構造計算がある」

 そもそも東京都同情塔は、別名、シンパシータワートーキョーといい、犯罪者の収容所です。犯罪者は環境によって作られるという意見のもと、新宿で高層マンションで、住み心地の良い場所に収容するという。発想が面白いなあ、と思いました。そして、名称をシンパシーより、韻を踏むので、東京都同情塔にしようと発想も。物語は2030年の設定であり、多様性や生成AIとの共存もうたっています。

 主として、サラ・マキナ(牧名沙羅)という女流建築家と東上拓人という若者の視線、東京都同情塔について記事を書くために来日したマックス・クラインの視線で語られていきます。


アルバイトから正規職員になって、あらゆる不幸は他者との比較から始まるとかなんとか、教養ある社会人みたいに学者の言葉を引用したりすることがイコール大人になるというなら、僕は大人だ。

P332本文より



 上の引用のように、東上拓人氏の視線が、わかりやすいです。そして、東京都同情塔の最上階はライブラリーにするという。拓人が女流建築家サラ・マキナにその理由を尋ねると、「天上に近付くホモ・ミゼラビリスの皆さんが、地上の言葉を忘れないように」とのこと。ここも凄い発想だなあ、と思いました。全編にわたり、言葉について、いろんな試行錯誤で、SF的です。選評で川上弘美氏が指摘されているように「小説の言葉が、文章が、読者であるわたしに、いろいろと考えてみてと語りかけてくるからです。「考えてみて」の先には、正解はありません」といった類で物語が進んでいきます。読み終えたあと、少しの疲れとともに、近未来小説として読め、三島由紀夫氏の「金閣寺」の影響を受けているという平野啓一郎氏の指摘にはなるほど、と納得し、こういう状況も起こりうる、ありかも、と思わせてくれた小説でした。

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