見出し画像

ボナパルト家を取り巻く女性たち - オルタンス編《3》初恋と結婚

◆これまでのお話

母ジョゼフィーヌが、時の人ナポレオン・ボナパルトと再婚したオルタンス。
思春期真っ只中の彼女は、母の再婚を受け入れられずにいました。

しかし、精神面での母とも言えるカンパン夫人(オルタンスが通う学校の校長)の支えもあり、徐々に義父ナポレオンに心を開いてゆきます。

ここからの続きです。

↓これまでの話・詳しくはこちら↓

第1話: 我慢の子と破れた靴
第2話: 不本意だった母の再婚



前回の話から3年後。
その間ナポレオンはイタリア遠征で大成功をおさめ、フランスの英雄となっていました。

絶好調のナポレオンは1799年11月、ブリュメール18日のクーデターを起こし、自身が政治のトップに躍り出ます。

ブリュメール18日のクーデターを起こす
ナポレオン



翌1800年初めにはパリのテュイルリー宮殿を公邸と定めました。

このテュイルリー宮殿、第2話で処刑されたルイ16世が 生前ヴェルサイユより強制連行されて住んでいた場所

国王亡き後のフランスにおいて、ナポレオンの権力が絶大になっていた事を象徴していますね。

1810年のテュイルリー宮殿





話をオルタンスに戻します。
間もなく17歳になろうとしていたオルタンスは、まだ学齢期であったにも関わらず、なかなか学校に戻してもらえませんでした。

1800年代のオルタンス


きっかけは2年前の1798年のこと。

バルコニーから落ちて怪我をした母ジョゼフィーヌに呼び戻されて以来、思うように学校に行かせてもらえなくなっていたのです。

母ジョゼフィーヌ


その母ジョゼフィーヌはと言うと、夫がテュイルリーに入城した事で、名実共に 時の権力者の継子となったオルタンスに何とか良い縁談を!と躍起になっていました。

そんな彼女の姿は、ナポレオンにこう言わしめたほど。

テュイルリーの執務室でのナポレオン

「君は自分のために子どもを産んだのかい?考えてもごらん。あっという間に子どもは成長して、親のことなど必要としなくなるのだよ」

『カンパン夫人:  フランス革命を生き抜いた首席侍女』
(白水社)

肝心のオルタンスは、張り切る母をよそに 部屋に閉じ篭りがちになりました。

母やテュイルリーでの華やかな暮らしにもうんざりしていたと言うのもあるのですが、実は他にも理由が。
生まれて初めての恋をしていたのです――。





お相手の名前はジェラール・クリストフ・ミシェル・デュロック(長いので、以下デュロック)。
ナポレオンの副官でありました。

1800年代初頭のデュロック



2人はナポレオンの秘書官を通じて密かに手紙を交わし、愛を育みます。

若い2人の知られざる恋――ではなく、実はナポレオンもジョゼフィーヌも2人の恋を知っていました。

ナポレオンはこのデュロックに厚い信頼を寄せていたので、この恋人たちをぜひ結婚させてやりたいと考えます。



ところが、ここでまた(毒)母ジョゼフィーヌの登場。

彼女はオルタンスの相手として、デュロックではなくナポレオンの親族―ボナパルト家の人間と一緒にさせたいと企むようになっていたのです。


と言うのも、ナポレオンと結婚してかれこれ4年。
ジョゼフィーヌはなかなか彼との子を授かれずにいました。

元々軽薄なジョゼフィーヌを嫌っていたナポレオンのきょうだい達は、この事をネタに何とかしてボナパルト家から彼女を締め出したいと思っていたのです。

ジョゼフィーヌを嫌うボナパルト一家



オルタンスをボナパルト家の人間と結婚させれば、自分がナポレオンの子を産めなくても親族としての結びつきを強めることができる…
ジョゼフィーヌはこう考えた訳です。



そこでまずはオルタンスに話をします。

「ねえオルタンスちゃん、あなたあのデュロックが好きみたいだけどさ、あの男が本気であなたを愛してるとでも思ってるの?」

「あの男は、あなたがボナパルトの継子だから近寄ってきてるだけよ」

「でさ、ママにいい考えがあるのよ。
ボナパルトの弟のルイっているじゃない?あなたの結婚相手に良いと思うのよ」

ルイに白羽の矢が立った理由ですが、ボナパルト一家の中でルイだけはジョゼフィーヌを悪く言わなかったからだそう。

ジョゼフィーヌと違ってお金に堅実な点も、彼女の気に入る所となったそうです(←自分の浪費癖が悪い事だと自覚していたのですかね)。

またジョゼフィーヌは何故かナポレオンという名前を「変な名前」として嫌い、夫の事をボナパルト呼びしていました。

オルタンス、寝耳に水の提案をもちろん拒否します。

「私は彼(デュロック)を愛していますし、彼の妻になること以外に望みはありません」



しかしジョゼフィーヌはなおも続けます。

「デュロックには金も地位もないじゃないの。ボナパルトに捨てられたら、ただの無名の男よ」

「自分の昇進のためにあなたを利用してるだけよ」

母のしつこさに負けて、遂にオルタンスはこう言ってしまいます。

「デュロックが私を愛しているのは野心からだということが証明されれば、私は彼をあきらめ、ママの望む相手と結婚する用意があります」(『Queen Hortense』よりほぼ引用)



この言葉で勝利を確信したジョゼフィーヌ。
次は夫に話をする番です。

「ねえボナパルト、あなたオルタンスとデュロックって奴を結婚させたいみたいだけどさ、あたしどうも賛成できないのよ」

「オルタンスは騙されてると思うの」

「あたし、あなたの弟のルイなんかオルタンスに良いと思うのよね」

「一度デュロックにカマをかけて見るべきよ」



元々ジョゼフィーヌに弱いナポレオンは、何やかんやで言いくるめられます。



すぐさま執務室に向かったナポレオン、秘書官に声をかけました。

「デュロックはどこだ」

「オペラに出かけたと思います」(秘書官)

「では伝えてくれ。
オルタンスとの結婚を許そう。
彼女には50万フランの持参金を持たせる」

「そして、挙式後すぐデュロックにはトゥーロン(フランス南部の街)での任務についてもらう」

「私はこの家に婿養子を迎え入れる気はない」


秘書官は驚いてこう話します。

「デュロックがその提案に従うとは思えませんが」


するとナポレオンはこう答えるのでした。

「それならば、オルタンスは私の弟・ルイと結婚するまでだ」

秘書官またまたびっくり。
「オルタンスは同意するでしょうか?」
と問うと、ナポレオンはこう答えました。

「彼女は同意しなければならないのだよ」




その日の夜遅くに秘書官を訪ねたデュロックは、ナポレオンからの通告を聞かされます。

話が進むにつれ、彼の顔はどんどん険しくなりました。

そして最後にこう言ったのです。

「もしボナパルト氏が義理の息子としての私に何もする気がないならば」

「非常に辛い事であるが、私はオルタンスとの結婚を差し控えなければなるまい―そうする事によって、パリに残れるのならば」


そう言うと、迷うそぶりも見せず帽子をかぶって部屋を出て行きました。



その日の夜、ジョゼフィーヌは夫からオルタンスとルイとの結婚を全面的に支持する旨伝えられます。

こうしてジョゼフィーヌは、オルタンス結婚問題に勝利したのでした。



続きます。


次回、オルタンスに子供が産まれます。
更にナポレオンはフランス皇帝に即位。

皇帝の親族となったオルタンスには、どのような運命が待っているのでしょうか…?

続きはこちら↓

《余談・デュロックのその後》

強制的にオルタンスと別れさせられたデュロック。

彼はオルタンスとルイとの結婚からわずか7ヶ月後に、他の女性と結婚します。

その後一男一女に恵まれますが、その名付けが何とも不可解。

デュロック謎の名付け方

ナポレオンの名前はまぁ分かるとして、ルイってオルタンスの旦那の名前⁉︎
(念の為デュロックの祖父まで遡りましたが、ルイという親族は確認できませんでした)

しかも長女、元カノと奥さんの名前を合体させとる!!

ちなみにこの長男は1歳過ぎに死亡、
その後 長女が1歳を迎える前日に、今度はデュロックが戦地で死亡しました。

ナポレオンは数少ない心許せる友の死を非常に嘆き悲しんだと言います。

デュロックの死を嘆くナポレオン(1813年)


デュロックの疑問点をもう1度整理すると

  • オルタンスと別れたのは 何故だったのか?彼女よりナポレオンへの忠誠を取ったのか?

  • 何故自身の子供にオルタンスやルイの名前をつけたのか?


謎が残る部分もありますが、字数が多くなってきたので、デュロックにはここで退場して頂きます。


長い記事をお読み下さり ありがとうございました。


更に追記(2023.11.16)

noteはじめ様々な媒体で執筆活動をされているせりももさんが、当記事と同じ場面を「チャットノベル」という形で書いていらっしゃいます。
ぜひご覧になってみて下さい!

参考

・Wikipedia

・Geneastar
Family tree of Géraud Christophe Michel DUROC

・Queen Hortense: A Life Picture of the Napoleonic Era ( 無料のe-textはこちら )

・カンパン夫人:フランス革命を生き抜いた首席侍女

#歴史  ⠀
#世界史  ⠀
#フランス革命  
#ナポレオン  
#ジョゼフィーヌ
#オルタンス
#人物史  ⠀
#世界史がすき

この記事が参加している募集

世界史がすき

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?