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記事一覧
鳥人間コンテスト(6)
深町一夫は漠然と死にたいと考えてばかりいた。
6歳でファミコン、15歳でエヴァンゲリオン、16歳で日本語HIPHOPと出会い、19歳でテレホタイムのインターネットにはまり、青年期を過ぎ、いわゆる世間でいう<おじさん>と呼ばれる年になっても、高校生あたりから進歩していないと気付き始めていた。
なんの間違いか結婚したものの、この春に離婚した。勤めていたデザイン事務所は正月過ぎに倒産し、今はパン工
鳥人間コンテスト(5)
谷口アベベは指を舐め、天を指した。風を読んでいる。
南陽化成本社の正面にある広場には社員とマスコミが集まっている。今、人類の初飛行が行われようとしいる。今日は南陽化成創立80周年の記念日だ。
この日のために谷口アベベは血の滲む飛行訓練と減量を行ってきた。軽くするために、昨日から食事を取っていない。
谷口アベベは目をグッと見開いた。背筋が唸り、翼が大きくしなった。
絞りぬいた両脚で地面を
鳥人間コンテスト(4)
昨日から何も食べていないが、空腹は感じない。
谷口アベベは南陽化成の社員だ。大学駅伝でスターだった彼は南陽化成に入社し、次期オリンピックの日本代表候補の本命と見られていた。
彼の背中に翼が生えたのは1年前だ。
身長140cmと小柄な体に、広げると6.5mもの全翼を持つ。背中で折り畳んでも自分の身長を優に超える縦幅がある。日常生活にも様々な支障が出るサイズだった。
その重りと空気抵抗で
鳥人間コンテスト(3)
「やばいっす」
奥村はニカっと笑って生ビールを飲んだ。
「これ生えてきてから、売り上げ2倍っす。会話のきっかけなるんで」
彼は翼を隠さないタイプの有翼人種だった。ワイシャツとジャケットの背を貫き、居酒屋で翼を恥ずかしげもなく出している。
「女の子、触らしてくれって言ってきて、スゴイっす」
彼の翼は小型タイプで広げても全翼80cm程だった、それがコンパクトに畳まれている。
「先輩、写メ見ますか
鳥人間コンテスト(2)
家の外では翼をリュック状の袋に収めておく。
まず何よりも目立つ、というのが理由だ。
狩石まる子はアパートに帰ると靴を脱ぎ、その“翼袋”を外した。
冷凍のご飯をレンジで温め、帰り道で買った惣菜と食べた。
最近は外食する機会が減っていた。翼は袋に覆われているとはいえ、背中よりも大きいそれは人の目を引くし、背もたれがある椅子では干渉してしまって心地が良くない。
この翼が生えてくる事例は数年前
鳥人間コンテスト(1)
背中の翼がわずらわしかった。
狩石まる子は電車のドア付近の壁を背にしている。
ゆったりした白いブラウスに黒のボトムス。
背中には縦長のリュックサックのようなものを背負ってる。
正しくはリュックサックではなく、翼を収めるための袋だ。
両翼は広げると3mほどに広がるが、畳めば縦80cmほどになる。
30代も半ばになり肩や背中が凝ってきた。コリがひどくなると、整体やタイ古式ストレッチに通