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#7 謹賀新年は街の本屋から何を知る

昨年9月に母が亡くなった。
急性大動脈解離。これはまったく想定出来ないアクシデントだ。
(昨年か、著名な芸能人が急死したケースがあったがそれにあたる)
生まれは広島市。昭和13年生まれ、85歳という年齢だが特に体が悪かったわけではない。
若干血圧が高いという程度だが、突然死が襲った。
こんなことがあっていいのか?
一体何が起きたのか、いまでも信じられない事件だった。
 
広島に海田という街がある。広島市中心部から車で東方向に進むと、戦争(原爆)の被害にあっていない古い街並みがいまも存在している。
隣町にマツダの工場、製鉄所もあり、どこかプロレタリアな雰囲気がある、どこか閉鎖的な街、面白い街ではない。
幼少時期に、母はその街に住んでいた。僕の祖父母が海田町の出身だ。
幼少の頃から体が弱かった母の唯一の楽しみはその街に一つしかない本屋(沢井書店)に寄ることだったという。
戦時下で貧しかった時代、しかも子供のすることだ、購入するお金などいつも持ち合わせている訳はない。ただ母の家は裕福だったこともあり、食べること、物に関することには不自由はまったくなかった。
母はそこに行っては絵本、図鑑、子供向けの書籍を好きなだけ、時間が許す限り読んでいたという。
あまり海田の生活が楽しかったわけではなかったようだ。
それを察知してか、いつ来ても、好きなだけ読んでもお店の人はいつもニコニコと笑っている人だったらしい。
人は迎え入れてくれることで、初めて心を開き、正直になると言える。
沢井書店が母にとって学校だったのかもしれない。
父親(僕の祖父)は本屋にお金を預けては「娘が買いたいのがあったら、これから引いてやってくれ」と言っていたという。

母からは沢井の存在をいつも聞いていただけに、母が亡くなった後必ず寄ってみようと思っていた。
ほぼ月一度のペースで海田町にある墓掃除に通っていた。
この年末に立ち寄った。
当然だが、一緒にいるはずの母はいるわけない。
お店に入り、店を1,2周する。
雑誌BRUTUSを購入、タイトルが「理想の本棚」商品番号が999。
2023年も残り2日という日にどこかフィットしたタイトルと商品番号だった。
「これ買おうっと」と独り言、レジに向かうとおばあさんが店番だった。
母よりも少し若い方で、本来は娘さんが後を継いでいるという。
母が幼少の頃は、その方のお母さんかおばあさんだったのかな?
ことの経緯を話すと、いろんな話をしてくれた。
実に穏やかな、可愛らしい方だった。
 
「本屋の存在」ってなんだろう?
本を売るだけだったらネットショップが理想で、それで十分だ。
他は要らない。
本の「こころ」か?そうかもしれない。
なんだろう? 答えは一つではないが、立ち寄ってよかった、嬉しかったと思った。
そこに初めて立ち寄ったにも関わらず「懐かしさ」があった。

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