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『アルプススタンドのはしの方』:「青春の向こう側」にある応援

 

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 スポーツ関係の映画・ドキュメンタリーを紹介するnote。今回は、現在公開中の映画『アルプススタンドのはしの方』を紹介したいと思う。

 と、書きだしたものの、本作はアスリートの活躍を描いた純粋なスポーツ映画ではないことを先に述べておく(汗)高校野球の全校応援で野球場に足を運んだ4人の高校生が、アルプススタンド(応援席)の片隅で繰り広げる会話劇である。

〇 「青春が通り過ぎた」者たちのボヤキ

 本作は、兵庫県立東播磨高校・演劇部が全国高等学校演劇大会で最優秀賞を受賞した高校演劇の舞台が原作となっている。

 昨年、全国高等学校総合文化祭に出場する演劇部にフォーカスを当てた『青春舞台2019』(NHK・Eテレ)を見た時に感じたことだが、一般的な舞台・演劇公演と「高校演劇」というのは少し趣が異なると感じた。それは、作り手である演劇部はもちろん、舞台を観劇する人間の大半も同じ年代の高校生であるという点である。

 日々学校に足を運んでいる学生、ないしは先生が体感しているフィーリング、同じ目線だからこそ伝えたいメッセージ、そうした部分が作品作りに与えている影響が大きいと考えている。商業舞台を経て映画化された本作もまた、物語の中にある独特の空気感を大切に作られた印象を受けた。

 主要人物である4人は、それぞれの事情の中で「青春が通り過ぎた」感覚を持っている。だから、作中の台詞を借りれば「進研ゼミのような」青春を謳歌する学生たちや、球場で母校の応援に熱を上げる人々に距離感を感じている。実際、そうした「進研ゼミ軍団」(仮)の中心にいる吹奏楽部部長役を演じる黒木ひかりさんが、ポカリスエットのCMに出てきそうなくらい眩しい笑顔を見せてくれる(笑)

 4人の会話は、己の不完全燃焼ぶりが特殊の雰囲気を醸し出す。少なくとも、周囲の大人が高校生に求める「清々しさ」とは真逆のオーラを解き放っていると言える(汗)演じ手であり、観劇者である演劇部の目線から見た、学校の花形部活に対する偽らざる感情が滲み出ているとも感じるし、かつて素通りした筆者を含めた、鑑賞者にも大いに共感できるポイントだろう。

 映画ではなく、演劇の話に戻ってしまうが、舞台作品というのは、やはり登場人物たちが交わす言葉のキャッチボールがコアになる。実際に筆者も劇場で観劇する機会は何度かあるが、その人が台詞の言葉をどう伝えるかで、作り物である「台詞」が「生もの」に変わっていく。舞台版から続投されているキャストもいることから、本作中で交わされる会話・言葉の置き方に、同じような感覚を抱いた。

〇 「応援すること」は何か?

 スポーツ関係の作品を紹介するnoteっぽいことも書こうと思う。本作は、応援席にいる観戦者の視点から、試合の様子を伝えている。スタジアムに足を運ぶスポーツ観戦者の視点から見ても、応援に対する描写は何度も頷かされてしまった。

 応援席からの歓声が、グラウンド上の選手のプレーや、試合に影響を与えることができるかといえば、なかなか難しい。試合の空気を変えるような応援が筆者も長年サポーターをしているが、正直なところ、応援には自己満足の側面が近い。それでも、グラウンド上にいる選手たちの姿に感情移入することで、試合の当事者意識を持つことができる。

 全校応援で球場に駆け付けた登場人物たちであるが、試合に対する関心度は高くない。演劇部の女子2人に至っては、野球のルールもあまりわかっていない(笑)ダラダラと試合を見ていた4人が、そうしたフェイズ入った時、「観戦」が「応援」にシフトするのである。その過程を丁寧に描いていることも非常に好印象を抱いた。彼らが共感できたのは、勝利時の喜びか?敗戦時の辛さか?是非、スクリーンで見てほしい。

 奇しくも、今夏の高校野球では、応援席からの歓声を聞くことができない。そんな夏だからこそ、観戦と応援について考えされられる作品ともいえる。新たな青春映画、そしてスポーツ映画の誕生を見逃すな。

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