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Netflix『マイケル・ジョーダン:ラストダンス』:神様がいたチーム

 スポーツ関係の映画・ドキュメンタリーを紹介するnote。今回は、Netflixのドキュメンタリーシリーズ『マイケル・ジョーダン: ラストダンス』(全10話)を紹介したいと思う。

1.Netflix × ESPN で実現したメガコンテンツ

 オリジナルシリーズ制作に注力するNetflixは、スポーツ関連でも『サンダーランドこそ我が人生』(サッカー)や『Formula 1: 栄光のグランプリ』(F1)等の長期密着ドキュメンタリーシリーズを展開。本シリーズは、Netflixのホームグラウンドであるアメリカの象徴的な存在であるマイケル・ジョーダン(以下「ジョーダン」)を取り扱った内容ということで、シリーズの配信開始前から高い注目度を集めていた。

 また、本シリーズは、アメリカのスポーツ専門チャンネル・ESPNとの共同制作となっている。このため、アメリカでは、ESPNのテレビ放送とNetflixのネット配信が同時に行われていたことから、視聴者数は物凄いことになっていたようだ
 もちろん、放送・配信媒体の多様化に限らず、Netflixが志向するスタイリッシュな映像制作とESPNが提供する映像貴重な資料映像のコラボレーションが質・量ともに申し分のない素晴らしい内容に仕上がっている。

 余談であるが、ネット配信会社とテレビ局によるコラボレーションの事例は、日本においても、2019年にDAZNで配信されたジャイアンツ・ドキュメンタリー『復活の道』でも行われている。

 2019年に4年ぶりのリーグ優勝を果たした読売ジャイアンツに密着した同シリーズ(全7話)は、日本テレビの中継・インタビュー等の映像資料が提供されている。テレビ制作会社とは違ったテイストで展開されるドキュメンタリーを厚みのある歴史とともに振り返る内容となっている。こうしたコラボ展開は、今後もスポーツ分野では増えてくるかもしれない。

2.常勝軍団の有終の美を描く

 本作『マイケル・ジョーダン:ラストダンス』は、1997-98年のマイケル・ジョーダンへの密着取材を中心に、世界を魅了した彼とシカゴ・ブルズ(以下「ブルズ」)の足跡を振り返る内容となっている。

 当時のブルズは、NBAに復帰したジョーダンに加えて、スコッティ・ピッペン、「悪童」デニス・ロッドマンを擁し、2度目のスリーピート(NBA3連覇)を目指していた。一方、中心選手の高齢化と年俸高騰に伴い、GMは若返りに伴う再建=解体に舵を切ろうとする。
 シーズン前に契約終了が決まっていたフィル・ジャクソンHCは、選手たちに対して「ラストダンス」という言葉を伝え、有終の美を飾るべく新たなシーズンに挑むことになる。

 個人的に、本シリーズが興味深いのは、円熟期を迎えた常勝軍団が経験と実績を糧に多くの苦境を乗り越えながら頂点を目指す模様を描いている点であると考えている。

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 もちろん、NBAの歴史に名を刻んだブルズも挑戦者であった時代はある。1980年代後半のブルズは、ジョーダンの驚異的な活躍で強豪相手に善戦するものの、地区優勝・ファイナルの切符を手にすることができなかった。
 1989年にヘッドコーチに昇格したフィル・ジャクソンは、複数の選手のパス展開を軸とした「トライアングル・オフェンス」を戦術として採用し、ジョーダンの個人能力に依存する戦い方から脱却を図ることでチームの底上げを図った。そして、1990-91年のプレーオフで何度も屈してきた前年王者のデトロイト・ピストンズを破ったブルズは、ロサンゼルス・レイカーズとのファイナルを制してNBA初優勝を成し遂げる。「強い」チームが「勝つ」チームに変貌する瞬間、それは大きな壁を乗り越えることだと改めて感じるエピソードだと思う。

 これに対して、本作の舞台となる1997-98年のブルズは、NBA3連覇を目指す前年王者として追われる立場となる。ドキュメンタリーで描かれるのは、躍動する新戦力でも、特別なイノベーションでもない。勝利のために常に全力を尽くすジョーダンのエナジー全開のプレーであり、勝ち方を知る王者らしい「勝者のメンタリティー」なのである。スポーツにおける「強いチームとは何か?」を考える良い機会にもなった。

3.「ハートに放火する」ジョーダンの光と影

 各エピソードでは、舞台となる1997-98年の戦績を振り返りながら、ジョーダンの選手キャリアに起こった数々の出来事をインタビューとともに伝えている。
 『スラムダンク』ブームとの相乗効果もあり、1990年代中盤の日本においても「バスケットボールの神様」マイケル・ジョーダンは日本でも高い知名度を誇っていた。しかし、彼の勝利に対する並々ならぬ闘志、高いモチベーションを維持するための対戦相手への執拗なまでの対抗心等、自分のハートに無理やりにでも火をつけようとするメンタリティに驚かされた。

 ベテラン選手になっても、ストイックに練習をこなし、チームメイトにも高いレベルのプレーを要求し続けていた。元チームメイトたちは、当時の彼のプレーには賞賛を送るものの、日々の振る舞いや発言に対しては否定的なコメントを寄せていたのが印象的だった。高いレベルでのチームスポーツであるバスケットボールという特性もあると思うが、今日のプロスポーツ界からすると異様な光景にも感じる。しかしながら、彼が嫌われ者になることで強いチームが作り上げられたことを実感するエピソードであった。

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 また、「エア・ジョーダン」「ドリームチーム」という2つのキーワードを中心にNBAスターから時代のアイコン(象徴)に駆け登るプロセスと、メディアに形成されたイメージとのギャップに苦悩する表裏関係(EP5-6)は興味深い内容だった。ネットメディア普及以前の1990年代の過剰報道に対するメンタル面の疲弊度が図りしえなかったことを語っている。
 当時も大きな話題となったジョーダンがNBAを離れて1994年にMLBに入った経緯も、こうした状況の延長線にあったことが理解できる。マイナーリーグのチームメイトたちが特別視することなく接してくれたこと、彼自身が真摯に野球に取組んできたことがリフレッシュになったようにも見えた。NBA復帰した経緯にMLBのストライキが絡んだことからも、仮に通常どおりMLBが開幕されていた場合の「if」も気になるトピックであった。

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 「元シカゴ市民」として登場したオバマ前大統領も述べていたが、インターネットが広く普及する前の時代に、世界的な知名度を獲得したジョーダンの人気というのは物凄いモノだと思わされる。間違いなく彼は、1990年代の時代の象徴であり、アメリカ文化の伝道師となっていた。
 スポーツが社会に及ぼす図りしえない影響度、そして力というものを神様の足跡追うことで再認識することができた。バスケットボールに関心が無くても、胸が熱くなるドキュメンタリーシリーズだと思います。

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