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「現場」とは?

 Twitterなどで教員と思われる方が、
「現場のことを何もわかっていない!」
「もっと現場の声を聞け!」
 と、文部科学省や教育委員会を批判している投稿を目にすることがある。
 気持ちはわかる。
 多様化・複雑化する教育課題、なかなか前に進まない「働き方改革」等々、不満や怒りの矛先を教育行政に向けたくなるのは、当然と言えば当然である。

 ここで言う「現場」とは、もちろん「学校現場」のことだろう。けれども、文部科学省や教育委員会にも教育行政という「現場」があるのだ。
 教育行政の「現場」では日々、予算の獲得や施策の遂行に向けて、部署の内部での合意形成、他部局や利害関係者との連絡調整、議会対応などが行われている。また、学校で発生する様々な事案の解決に向けて、保護者や市民と直接的に対応をすることが求められている部署もあるだろう。
 私は新卒から20年以上にわたって公立小学校に勤務した後、指導主事になった。そして、実際に指導主事になって初めて教育委員会事務局の具体的な仕事というものを理解した。言い換えれば、それまでは教育行政という「現場」のことを何もわかっていなかったのである。

 教育行政の側を擁護しているわけではない。文部科学省にしても教育委員会にしても、改善すべき点が多々あることは間違いないのだ。しかし、学校のほうには改善の余地がないのかといえば、けっしてそうではないだろう。
 学校と教育行政の両方を経験した立場から言わせてもらえば、どちらの「現場」が大変かというような単純な比較はできないと思う。大変さの中身や質が違うのである。
 個人的な経験を挙げれば、私はこれまでにストレスが原因で帯状疱疹を発症したことが二度あるが、いずれも教育委員会に勤めているときだった。もちろん、これがエビデンスになるわけではないが、教育行政に携わる人間が楽をしているわけではないという一例にはなるだろう。


 指導主事になって2年目。
 私を含めた3人の指導主事で雑談をしていたときのことだ。
 私以外の1人は、10年近く教育行政の世界で仕事をしているA首席指導主事。もう1人は私と同期のB指導主事だった。
 どういう話の流れだったのかは忘れてしまったが、B指導主事がポロッと、
「早く現場(学校)に戻りたいです」
 と愚痴をこぼした。すると、それまでニコニコしながら話を聞いていたA首席がこう言ったのだ。
「あなたの現場はここ(教育委員会)ですよ」
 そのとき、A首席の顔は笑っていたが、目は笑っていなかった。
 今も忘れられない一言である。

 私たちには「現場」がある。そして、別の誰かには違う「現場」がある。
 大切なのは、それぞれの「現場」で力を尽くすこと。そして、相手を批判したり無視したりするのではなく、お互いを知ろうとすることと尊重することなのだろうと思う。

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