もう一つの「保護者対応」
教職課程を履修した学生への調査の結果、教育実習中に「教員になりたくないと思うようになった」という者が4割を超えたことがわかった。
この調査は、名古屋大学大学院の研究チームが昨年11月にオンラインで行ったものである。
一方、教育実習中に「(教員の仕事への)やりがいを感じた」という回答も8割に上っており、魅力は感じつつも教員になることをためらうという学生の姿が浮き彫りになっている。
なお、回答した620人のうち、教員免許の取得をやめた者は149人だった。その理由で最も多かったのが「自分は教員に向いていない」(76%)で、次が「ほかに将来就きたい職業が決まった」(71%)となっている。
それらに続いて「長時間労働だと知った」と「保護者対応に自信がない」がともに64%で上位に入った。
大きな社会問題になっている教員の「長時間労働」の問題と並んで「保護者対応」の問題が挙がっていることには驚かされる。けれども、それが学生たちの本音なのだろう。
保護者からの苦情や要求のなかには、学校や教員の側に明らかな非があるものも含まれている。しかし、理不尽としか言いようのない長時間の対応を強いられるケースも少なくない。
教育実習中にそうした場面を目撃し、教員になることを断念する学生が多いのであれば、その改善を図らないと教育界にとっての大きな損失になってしまうだろう。
近年は、それに加えてもう一つの「保護者対応」がある。
それは「教員の保護者との対応」である。
本来、教員は成人なので「親」と呼ぶべきだろうが、親離れや子離れの状況から「保護者」と呼びたくなることもある。ちなみに、この対応は主に校長の仕事だ。
・・・今から10年ほど前、私が公立小学校の校長を務めていたときのことだ。秋季大運動会の「午前の部」が終わり、昼食のために職員室へ戻ろうとしていていると、新任の女性教員が遠慮がちに、
「校長先生、実は親が来てるんですが」
と話しかけてきた。
(そりゃ、運動会だから親はたくさん来てるでしょ)
と不思議に思いつつも、
「そう。で、どの子の親?」
と尋ねると、予想外の答えが返ってきた。
「私の両親です」
聞けば、教員として初めての運動会を迎える娘の晴れ姿を見るために、両親で朝から参観に来ていたのだという。その流れで「ぜひ、校長先生にご挨拶を」ということになったようだ。
・・・しかし、私のこのエピソードなどはほんの序の口らしい。
知人である現職校長の話によると、最近、ある若手教員の親から、
「学年主任の言い方がキツくて、ウチの子が落ち込んでいるので何とかしてほしい。そもそも、なぜ希望をしていない学年の担任にしたのか」
という内容の電話があったそうだ。
何歳になっても我が子のことが可愛いのはわかる。おそらく、学年主任の言動にパワハラ的なものが感じられ、「保護者」として居ても立ってもいられなかったのだろう。しかし、さすがに担当学年の割り当てのことにまで口を挟むのは行き過ぎではないかと思う。
そして、こういう話は他の学校でもけっして珍しくないのである。
・・・近いうちにどこかの学校で、「児童生徒の保護者」対「教員の保護者」による代理戦争が勃発をするかもしれない。
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