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ウクライナ:CIAの75歳の代理人 ⑴

写真 --- 1961年、ベルリンの壁で二分されたフリードリッヒ通り。
レッドソックス作戦で、モスクワの計画に関する情報を収集するために
85人のCIAエージェントをソ連圏に投下した。[politico.comより].

訳者から
本稿の執筆者であるジェラルド・サスマンは、大学院で国際開発、政治経済、政治コミュニケーション、メディア研究を教え、著書に『民主主義のブランディング---ソ連崩壊後の東欧における米国のレジーム・チェンジ』(2010)、『プロパガンダ社会---グローバルな文脈における宣伝文化と政治』(2011、編著)などがある。
『プロパガンダ社会---』は、この分野の第一人者たちによって書かれた18の章からなり、新自由主義体制下の「脱工業社会」の国家における、プロパガンダとプロモーション産業の急速な拡大を分析したものである。エリートがプロパガンダを利用し、メディアや情報システム、政治・公共文化、戦争や外交、そして国家の全体的な行動を根本的に変えてきたことを実証的に論じている。
アウトソーシングとなった製造業に代わって、急成長を遂げたのは、サービス、販売、投機経済、広告、マーケティング、PR、販売管理、ブランディング、その他のプロモーション企業である。そこでは、国家成長や企業の拡大に対するあらゆる障壁撤廃と規制緩和が進み、デジタル技術のおかげで、支配的なポリティカルアクターおよびコマーシャルアクターの群が、高度で前例のないレベルのプロパガンダとプロモーションに根差した共通の言説を持ち、特性やアイデアにおいて互いに連携して活動するようになった。
本稿は、第二次大戦のヨーロッパの緊張を利用したアメリカが、いかに戦争情報局をモデルとしたプロパガンダを展開し、今日のウクライナでスポンサー戦争を行なうようになったかを描き出している。

追記: 本稿の冒頭には、ピンク・フロイドのロジャー・ウォーターズの言葉がある。ウクライナ政府とかかわりの深い極右勢力の粛清対象者の個人情報リストMyrotvoretsに、ロジャー・ウォーターズがリストアップされていることが知られるようになり、筆者はエールを送ったのだろう。


Joe Biden “is fueling the fire in the Ukraine.” 
        — Roger Waters of Pink Floyd

「ジョー・バイデンはウクライナの火に油を注いでいる」
ロジャー・ウォーターズ
 
ロシア・ウクライナ危機と、その紛争を 
邪悪な目的のために扇動した米国の役割について、
アメリカのメインストリームメディアを教育するには 
プロパガンダの泥沼を切り裂く音楽アーティストが必要だ。

 
 主流メディアは、東欧へのアメリカの帝国主義的拡張を偽装し、汚れなき物語「プーチンの戦争」を捏ねあげた。米国と重要な同盟国である英国が(英国のジャーナリストはそれを「米国のタグボート」と呼ぶ)、1945年以来、いや、数世紀にわたって絶え間なく行ってきたことをロシアに投影しようというものだが、それはじつに作家のオーウェル的だ。

 振り返れば、トルーマン政権下のアメリカは、敵(ドイツと日本)を友に、友(戦時中の重要な同盟国であるソ連)を敵に変える政策を始めた。1947年に設立されたCIAは、この政策の主力たる秘密機関で、ネオナチのウクライナ民族主義組織(OUN)と密接に協力し、ソ連の破壊、分裂、不安定化のために行動してきた。

OUNのロゴ

 ウクライナ民族主義組織、とりわけドイツの同盟者ステパーン・バンデラと、その副官ヤロスラフ・ステツコが率いる一派(OUN-B)は、激しい反ユダヤ、反共産、反ロシアの組織で、ナチスの占領に協力し、この地域のポーランド人、ウクライナ人、ユダヤ人、ロシア民族の住人、ウクライナ人共産主義者の数百万の殺戮に積極的に参加した。それにもかかわらず、ワシントンポスト紙は、ステツコを国民的英雄、"孤独な愛国者 "として扱ったのだった。

ヤロスラフ・ステツコと当時の副大統領ジョージ・H・W・ブッシュ [fpif.org より]

 ウクライナ正教会とウクライナ・ギリシャ・カトリック教会の指導者たちは、1941年のOUNとドイツの同盟を支持していた。後者の大司教アンドレイ・シェプティツキーは、司教書簡を書き、こう宣言した。「私たちは勝利したドイツ軍を敵からの解放者として迎え、建設された政府に対して従順なる敬意を表します。我々はヤロスラフ・ステツコ氏を... ウクライナの国家元首として承認します」

アンドレイ・シェプティツキー [encyclopediaofukraine.comより]

 ドイツ軍のソ連侵攻に際し、OUNはウクライナ西部の都市リヴォフにこんなポスターを貼ったものだ。
「今、武器を捨ててはならない。武器を捨てず手に持て。敵を滅ぼせ。人民よ!  いいか! モスクワ、ポーランド、ハンガリー人、ユダヤ人はお前たちの敵だ。ウクライナに栄光あれ。英雄たちに栄光あれ! ウクライナに栄光あれ! 英雄に栄光あれ! 指導者に栄光あれ!   [バンデラ]」

 注目すべき点だが、この民族浄化の呼びかけは、当時ウクライナを占領していたドイツ人に言及していない。今日ドンバス地域で戦争を繰り広げているファシストとネオナチのプロパガンダは、ソ連とドイツからウクライナのナショナリズムを擁護したとして彼らの先達をヒーローに祀り上げているにもかかわらずだ。国防総省は、アゾフ大隊のようなファシストやネオナチ思想の集団に対して訓練や軍事援助の制限を解除するよう、議会に圧力をかけることに成功した。

左にNATO旗、右にナチスの旗を持つアゾフ大隊の戦闘員 [wsws.orgより]

 過去に引き続き、米国の外交政策には、同盟国の輪の中でこのようなセクターを受け入れる準備がある。2021 年 12 月 16 日、国連総会の決議草案が列挙したのは「ナチズム、ネオナチズム、および現代的な形態の人種主義、人種差別、外国人排斥および関連する不寛容の助長に寄与するその他の慣行の美化と闘う」である。

 賛成130ヶ国(主に世界人口の大多数を占める第三世界)、棄権51ヶ国(主にEU、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、訳者注:日本も含む)であり、反対2ヶ国(ウクライナとアメリカ)とは記録的な大差で可決された。ヒトラーに征服され占領された西ヨーロッパ諸国は、今日のナチズムとファシズムの出現を非難しなかったということだ。

 ハリー・トルーマンは、1940年、上院議員として、バルバロッサ作戦に対して「ドイツが勝っていると見れば、ロシアを助けるべきだし、ロシアが勝っていると見れば、ドイツを助けるべきで、そうすればできるだけ多くの人を殺すことができる」と宣言したことで悪名高くなった。これは、彼がロシアやソビエトの人々に対して、いかに無関心であったかを示すものだが、彼が大統領になったときに、それがさらに明らかになったのである。

 彼がホワイトハウスに在職中、米国は西ヨーロッパの産業力の再構築を支援したが(主に共産主義者と社会主義者が選挙に勝つのを防ぐため)、一方で、彼は北朝鮮に戦争を仕掛け、焼夷弾やナパーム弾などの爆撃によって、国内のほぼすべての建造物を破壊してしまった。

 彼は冷戦を開始し、軍事予算を大幅に拡大し、NATOを組織し、広島と長崎で民間人に原爆を使用した。主としてそれは連合国ソビエトが戦争末期に日本で領土を獲得するのを阻止するためだった。

 おそらく、トルーマンの最も破壊的なイニシアチブは CIA の創設である。後にこの怪物は手に負えなくなったと言い、友人に「47年に中央情報局の設立に賛成しなかった。もし、アメリカのゲシュタポになると知っていたら」と語っているが、大統領としては、東欧での秘密活動を支持していた。

 当面の標的はソ連のウクライナで、CIAは秘密プロジェクトを通じて、敵陣に潜伏する破壊工作員を「分裂させる」ことを期待していた。

CIAの創設にサインするトルーマン大統領。 [historydaily.org より]

 その任務は、第二次世界大戦中、ナチスの占領に抵抗するパルチザン組織と共闘した秘密工作機関OSSの流れを汲む。米国はウクライナで、ヒトラー第三帝国の惨禍からヨーロッパを救ったソ連を相手取って戦うナチス反乱組織を支援することによって、単に敵をひっくり返した。

 CIAの計画は、中・東欧での 「ステイ・ビハインド作戦」の一環として、超国家主義グループ、特にOUN-Bからウクライナ人を投入し、武器の密輸、秘密通信の使用、スパイ、コマンド、盗賊、暗殺、サボタージュを行うものであった。

 機密指定を解除されたCIAの歴史を繙くと、CIAは、地下活動とウクライナの不安定化を維持するため、OUN戦犯バンデラをソビエトに引き渡すことを拒否したことが明らかになっている。

ステパーン・バンデラ

 それどころか、CIAの2つの支部である、秘密作戦を担当する政策調整室(OPC)と、米国政府の援護による秘密計画を担当する特殊作戦室(OSO)は、いずれもOUNを保護し、反ソビエトのウクライナ反乱軍(UPA)と緊密に協力しつつ、「ウクライナに接するポーランド、チェコスロバキア、ルーマニアを対象にした心理戦活動」をしていたのである。

 OPCとOSOは、「ウクライナの組織(ウクライナ解放最高評議会)、すなわちOUNの統治機関が、ソ連への浸透と、鉄のカーテンの向こうでの地下活動の展開を支援し、得難い機会を提供することに同意し」た。

 このCIAの作戦は、1950年6月17日付の極秘文書に基づき、〈PBCRUET-AERODYNAMIC〉というコードネームが付けられた。

ウクライナ反乱軍 [militaryhistorynow.com より]

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著者 Gerald Sussman ジェラルド・サスマン PhD.
ポートランド州立大学教授(国際・グローバル研究科)、ハワイ大学/マノアおよび東西センター、著書にBranding Democracy: US Regime Change in Post-Soviet East Europe (2010) 他。大学院では国際コミュニティ開発、政治経済、政治コミュニケーション、メディア研究などの講義を担当。

掲載 CovertAction Magazine
CovertAction MagazineCovertAction Quarterlyは、ニューヨーク州で設立された非営利組織 CovertAction Institute, Inc. のプロジェクトである。
1978 年から 2005 年まで発行された雑誌の全 78 号の完全なバックナンバー セットはこちら

翻訳元  https://covertactionmagazine.com/2022/09/12/ukraine-the-cias-75-year-old-proxy/ "Ukraine: The CIA’s 75-year-old Proxy"


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