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経営組織論と『経営の技法』#3

CHAPTER 1.1.1:使われる学問としての組織論
 組織論の1つの特徴は、使う学問・知識の体系であるということです。1990年代のアメリカで組織論を体系化したチェスター・バーナードが、本質的には、「組織とは活動のための道具」と説いているように、組織が何かの目的を果たすために使われる道具だと考えられます。組織論が組織についてのいろいろな論であるならば、別の言い方をすれば、組織論の知識は道具として使える知識、もう少しいえば使うための知識であるといえるでしょう。
(中略:マヨネーズを作る、という具体例)
 このように組織論の知識は、知っていることで十分な知識ではなく、使うことでより大きな価値が生まれる知識であるといえます。料理のレシピには、その背後にさまざまな化学的な作用が隠されているように、組織論も組織論の論理や知識を用いて、実際の組織運営を行うことでより大きな価値が生まれる知識です。知って使うことに価値があるのが組織論の1つの理論としての特徴なのです。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』1~3頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018.2.1)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村・久保利・芦原/中央経済社 2019.2.1)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 組織論が「使われる」学問であるべきことは、ガバナンスが機能すべきである、という点で共通します。
 実際、例えばアメリカでも、デラウェア会社法が常に最先端の会社法として、社会の先端の動きを先取りしている、と言われるように、投資家である株主だけでなく、社会のステークホルダーと会社の関係を規律するルールは、社会の変化に応じて変化してきました。
 会社は株主のものである、という議論の出発点でさえ、企業の社会的責任や環境配慮の観点から変質し始めています。
 このように、会社組織に対して主に外部から働きかける力学に関するガバナンスも、常に「使われる」ものであることを意識しなければなりません。

2.内部統制(下の正三角形)の問題
 『経営組織論』で論じられる組織論の大部分は、社長を頂点とする下の正三角形の内部統制にかかわってきますが、これこそまさに「使われる」学問でなければなりません。
 実際に、会社が目の前のリスクを適切にコントロールし、適切にリスクコントロールしたうえで、適切にチャレンジし、健全に収益を上げていく、という活動を永続的に行えるようにするためには、会社組織論自身も、社会の変化に合わせて変化していかなければならないからです。すなわち、昔の成功体験で「真実」を語ったつもりになっては困るのであって、常に新しい時代で「使える」リスク管理体制論と運用論が必要なのです。

3.おわりに
 現場のちょっとした工夫や変化が、実は将来の大きな変革のきっかけになることもあります。細かな変化の中に、新しいものを見つけ出すのは、嗅覚や予感のような感性の場合もあるでしょうが、理論的な分析などのような理性の場合もあるでしょう。経営組織「論」という場合には、このうちの理性にかかわる部分が大きいように思われます。
 すなわち、「法と経営学」「経営組織論」を、実際に「使える」ツールとしてみた場合には、小さな兆候の中に大きな動きを見つけ出すツールとして機能する場面をイメージすると、わかりやすいと思います。
 どう思いますか?

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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