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経営組織論と『経営の技法』#331

CHAPTER 12.3.3:変化に対応する ⑤対応その4 小さな変化
 4つ目は、小さな変化でも大きな変革につながることです。どんどん進む急流では、舵の角度を少し変えただけでも、流れに乗っていく間に全く異なるルートを進んでいってしまいます。同様に、常に環境が変わっていくような状況にある組織では、少しの変化が後の大きな変化につながることが多くあります。
 たとえば、人材募集の際の条件を変えることで、これまでと全く異なるタイプの人材が集まり、彼らが即戦力として活動していく中で組織のありようが以前とは変わるといったことです。安定的な状況であれば、異なるタイプの人材も社会化を通じて、同じような価値観へと変わっていくのでしょうが、変革が常である状況では、彼らもすぐに組織の一員として活動することが求められますし、これまでの価値観や考え方を徹底するような余裕もありません。結果として、組織を変えていくことにつながります。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』283頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 常に組織変革が起こっている会社組織で、変革に対応できるための条件が4つある、と以前(#327)に指摘されています。今回は、そのうちの4つ目です。
 4つ目は、小さな変化が大きな変革につながる、という点です。たしかに、会社が何も変わらないまま急流に流され、目的地から大きく外れてから目的地に向かおうとすると、かなり大きな組織改革が必要になりますが、流れの中で少しずつ舵を切っていけば、大した労力なしに同じ目的地に到着します。機を見た早めの決断が必要なのです。
 さらに上記本文では、中途採用者(即戦力)が組織に感化されるのではなく、中途採用者が組織を感化し、影響を与え、変革させていく様子も描かれています。組織が常に動いている状況では、外からの力だけでなく、内側からの力にも敏感に反応する、ということでしょう。同質的な組織を志向する場合には、このような異文化による影響には好ましくない面もあるでしょうが。変化に対応する柔軟な組織になるためには多様性が必要です。まさに、ダーウィンの進化論ですが、組織が変化していく状況に合う人材が、新しい環境下で存在感を増していく、ということでもあります。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 投資家である株主から投資対象である経営者を見た場合、小さな変化で大きな効果が得られるのですから、経営者の決断にとってタイミングがとても重要であることが分かります。慎重さももちろん重要ですが、結論できずグズグズとタイミングを逃すようでも困ります。やはり経営者には、経営上の決断にして思い切って責任を取れることが必要不可欠の素養なのです。

3.おわりに
 小さなきっかけが大きな変化につながる例として、従業員の多様性が示され、従業員の多様性と組織変革の間の関連性が浮き彫りになりました。つまり、常に変革が起こっているような流動性の高い状況下では、従業員の多様性が組織変革のきっかけになるのです。
 逆に言うと、大きな組織変革は、組織を流動化しつつ多様な人材を獲得育成する、という方法によっても成し遂げられることが分かります。画一的な人材の会社組織の場合に、組織内の人全員がイメージできない変革をしようと無理をするよりも、変革後のイメージをしっかりと持っている人に入ってもらってリードしてもらう方が、組織を動かしやすそうだということが理解できるのです。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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