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経営組織論と『経営の技法』#123

CHAPTER 6.1.1:組織文化の特性 ③結果志向
 3つ目に、結果志向に関する特性があります。結果志向の反対はプロセス志向です。ですから、結果志向の特性は、結果を重視するか、反対にプロセスを重視するかということになります。つまり、たとえ結果が期待どおりではなくても、プロセスを評価するのか、あるいはプロセスはどうあれ、とにかく結果を評価するのかということです。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』127~128頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018.2.1)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019.2.1)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 前回までに検討してきたように(#121, #122 )、会社組織は「適正に」「儲ける」ために存在しますから、細心の注意を払ってリスクを取ることが必要です。
 会社組織の存在意義から考えると、「儲ける」結果を出してもらわないといけないので、③結果志向がゼロでは困ります。これがある程度高くなければ、投資家である株主は、会社を見限ってしまいます。
 けれども、「適正に」儲けなければなりません。会社が社会から存在意義を否定されると、市場から追放されたり、商品やサービスが売れなくなったりして、投下資本回収の機会を失い、投資元本すら棄損しかねませんので、市場や社会に気に入られる経営が必要です(企業の社会的責任、など。『経営の技法』のほか、本連載#47参照)。さらに、十分な検討を行えば、仮に失敗しても法的な責任を追及される危険が減ります(経営判断の原則など)。
 これらのことを考慮すれば、適切なプロセスが重要であることも理解できます。会社さえ儲ければ、という活動は社会的に嫌われてしまいますし、十分なリスクコントロールをしない決断は、失敗した場合の法的責任を重くしかねないからです。
 このように、リスク管理の観点から見ると、③結果志向の指標は、その結果とプロセスのバランスが取れていることが重要になります。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 ところが、投資家である株主から経営者を見た場合、経営者は結果が出せなければ意味がありません。
 もちろん、プロセスを大切にすることは、上記のとおり、企業の社会的責任や経営判断の原則の観点から非常に重要な問題です。
 けれども、それも、経営者としての結果を出すために必要なものにすぎません。経営者は従業員を簡単に解雇できませんが、株主は経営者を特に理由がなくても自由に解雇でき、要は経営者の株主に対する責任は、結果責任なのです(経営的・道義的な責任)。
 このことから、経営者の辛さも理解できます。
 すなわち、経営者は株主に対して、結果が出せなくてもプロセスを評価してくれ、という言い訳ができないけれども、会社組織のトップとしては、従業員たちに対して、適切なプロセスを踏まえるように、プロセスに対する評価もしなければならない(もちろん、適切にプロセスを踏まえた場合には積極的に評価してあげる、ということも必要)のです。

3.おわりに
 このように、経営者の問題としてではなく、会社組織の組織文化として見た場合には、③結果志向の指標は、結果とプロセスのどちらかに偏っているのではなく、バランスが取れていることが重要になります。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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