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経営組織論と『経営の技法』#99

CHAPTER 4.4.2:ネットワーク型組織
 最後に、ネットワーク型組織について考えることにします。ネットワーク型組織は、これまでの組織形態とは大きく異なります。その大きな違いは、組織の境界を考えない点にあります。これまでの組織形態は、事業部制組織であれ、チーム組織であれ、形態は異なるものの同じ組織に所属するメンバーによって構成されていました。
 ネットワーク型組織には、この同じ組織という境界がありません。ですから、ある組織の1つの部署であっても、そこに所属するのは自組織の従業員だけでなく、他の組織の従業員などその部署の目的を達成するために必要な能力や知識を持った人々が含まれます。
 たとえば、以前の日本の映画会社は、監督やカメラマン、俳優などをそれぞれの会社で雇っていました。しかし、すべての映画を自社のメンバーだけで製作するのは難しくなっていきます。なぜなら同じ監督、同じ俳優、同じカメラマンであると、シリーズものでない限り、作品がマンネリ化してしまうからです。また、そのために多くの映画関係者を雇うことは経営上難しくなります。そのため、他の映画会社や劇団に所属するメンバーを配役したり、どこにも所属しないカメラマンや技術者、その他映画にかかわる仕事を行う人を作品ごとに雇うことになります。このようなときにネットワーク型組織が形成されるのです。
 航空機や宇宙飛行機の製造も、使われる技術が非常に高度なために、製造の責任者は航空機メーカーあるいはNASA(アメリカ航空宇宙局)などの宇宙開発機構のメンバーがなりますが、多くの企業からのメンバーによってチームが構成されます。このように、高度な成果を求める場合、自社で必要な人材を用意することが難しくなります。その際にはネットワーク型組織のように、組織という境界を越えてチームあるいはプロジェクトを作り、目標の達成にあたるのです。
 組織構造は、分化した仕事をいかに効率良く組み合わせるかという観点から考えることができます。しかし、それぞれの組織構造にはそれぞれのメリットとデメリットがあるように、必ずしも特定の組織構造がうまく いくわけではありません。
 また、いくつかの特徴的な組織構造を組み合わせて中間的な特徴を持った組織として設計していくこ とも可能です。サッカーでは、相手チームのフォーメーショ ンや自チームの持つ特性、あるいは試合展開などを考慮して、最もチームの力が発揮できるフォーメーションを決めていきます。それはもちろん、チームの力が発揮できることが試合に勝つことにつながるからです。組織設計も、組織メンバーの持つ知識や能力を最大限に活かすように作られる必要があるのは自然なことでしょう。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』96~97頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018.2.1)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村・久保利・芦原/中央経済社 2019.2.1)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 リスク管理に関する業務について考えてみると、ここでも前回と同様の整理が可能でしょう。というのも、社内外の人にこだわらない、という特殊性がある者の、案件ごとに柔軟にチーム構成を考えていく、という点では、前回のチーム・プロジェクトと同じだからです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 さらに、ガバナンスの観点から見ると、前回の検討の中で整理した、組織管理の方向と、案件管理の方向のうち、ここでは案件管理の方向がより顕著である、と言えるでしょう。しかも、会社の外の人まで巻き込みますので、そこで特に重要なのは「段取力」になります。案件ごとに、資金調達や資材調達、取引先開拓、人材確保、をやり遂げ、段取りをつける必要があるからです。
 同じように、他人に仕事をしてもらうのがマネージメントであり、経営であると言っても、組織管理よりこのような案件管理の方が得意な人には、非常に有効な手法です。

3.おわりに
 前回、リモートで働け、タイムシェア・ワークシェアが進めば、どのような組織になるのかを問題提起しました。ここでのネットワーク型組織が、その1つの方向性を示しているようです。
 けれども、その場合には、克服しなければ問題が沢山あります。
 たとえば、私が専門とする領域の1つが労働法ですが、働く人の健康や生活、賃金などを守るために、経営者のいきすぎを防ぐルールや仕組みが重要となります。けれども、複数の会社を掛け持ちし、さらにそもそもどこにも所属していないような人は、たとえ労働力を提供して生活を成り立たせていても、現在のルールでは十分保護されません。
 公的な保護を不要と選択したのだから、保護しなければ良い、という簡単な問題ではありませんので、新たな会社組織形態を模索する道のりは、決して平坦ではないのです。


※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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