経営組織論と『経営の技法』#33

CHAPTER 2.2:組織における分業の基本構造
 共通の組織の目標を立てれば、それに向かって参加者が自律的に行動し、それが成果につながるのであれば、これほど簡単なことはありません。しかし、実際にはそうはいかず、たとえ共通の目標を認識していても、個人がそれぞれ勝手に行動してしまえば、目標の達成はきわめて非効率なものになります。
 そのために、組織設計をするということが求められてきます。組織設計をするうえでの基本的な設計原理は、分業と調整です。この節では分業と調整の基本原理について触れていきます。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』24~25頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018.2.1)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村・久保利・芦原/中央経済社 2019.2.1)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 分業には、効率化の面と、牽制・チェックの面があります。
 『経営組織論』の該当箇所では、効率化の面にフォーカスが当てられていますが、リスク管理の観点から見ると、牽制・チェックも重要です。
 この観点から、典型的な機能は、内部監査機能です。事後チェックによって、業務をチェックすることを専門とする部門ですから、内部監査部門をイメージすると、イメージしやすいでしょう。
 けれども、内部監査部門(専門部門)による牽制チェックだけではありません。たとえば、テレビのドラマにもなりましたが、経理部門が、不正な経理処理や不正な支出がないか、チェックします。これが牽制となり、ばれると面倒だから、この領収書を経費として申請するのはやめよう、となるため、従業員による不正のリスクが減る(コントロールされる)ことになります。
 このように、①分業には、リスク管理の観点も考慮すること、②専門部署だけでなく、結果的に牽制・チェック機能を果たす部門の機能も上手に活用すること、が重要になります。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 投資家から見ると、経営者は投資対象です。しっかりと稼いでくれる経営者を雇うことが、投資を成功させるための重要なポイントです。
 特に、それまでの硬直化した組織を変革して欲しい、と思うときには、それまでの組織の修正ではなく、根本的な変革を求める場合には、根本的な理解が必要です。たとえば処理案件数は少なく、表面的には機能していないように見えるけれども、どっしりと睨みを聞かせている部門もあります。特に、牽制・チェックの機能については、「稼ぐ」観点から見ると、表面的には、稼ぐことに貢献していません。表面的には、むしろやる気満々の経営の足を引っ張ってばかりに見えます。けれども、未然にトラブルを回避し、リスクを適切にコントロールすることによって回避できたコストや、それまでできなかったのにできるようになったチャレンジの貢献まで視野に入れれば、牽制・チェックの機能は、決して軽く扱うべきでありません。高級車に安心して乗れるのは、快適なサスペンションもさることながら、しっかりと効くブレーキ・制動装置があるからです。暴走する自動車が怖いように、暴走する会社組織は、コントロールが効かず、とても怖いことです。
 このような観点から、リスク管理の観点も十分理解し、目先の利益追求だけにとどまらない組織設計ができる経営者を選ぶことが必要です。

3.おわりに
 個人商店の集まりではなく、組織である以上、役割分担がありますから、組織論を語るうえで、役割分担の設計が重要なポイントになるのは当然です。最初は、そこに集まった人たちの専門性にあわせて分担していくところから始まるでしょうが、大きくなってくると、分担して決められた仕事にあわせて人材を育てていくようになっていきます。
 仕事の分業については、その先に人材の問題が控えていることも、意識する必要があります。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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