経営組織論と『経営の技法』#302

CHAPTER 12.1:組織の変化に関する3つの考え方 ③
 3つ目は、環境の変化によって変わっていくという考え方です。別の言い方をすれば、進化論的なアプローチといえるでしょう。第9章で触れたように、組織は真空状態の中で活動しているわけではありません。自分たちと同じような活動をする組織を含め、個体群として環境の中で活動を行っています。すでに述べたように、この個体群は、環境の変化の中で、「変異→淘汰→保持」という段階を経て変化をしていきます。
 また、個体群の中の組織には、組織慣性という力が働きます。組織慣性とは、組織の持つ今までの組織形態を維持しようとする力のことを指します。この組織慣性があるために、組織は環境よりも遅いスピードで変化することになります。進化論に基づいて考えれば、組織は環境の変化の中で、その新しい環境に適合する組織形態が選択され、適合しない組織形態が淘汰されます。そして、選択された組織形態が保持され、新しい環境の中で残った個体群が新しい環境の中で活動をしていくことになります。
 この点から考えると、組織は環境の変化で受動的に変わっていくともいえますが、組織は環境の変化に応じて変化を能動的に起こしている側面もあると考えられるかもしれません。その点では1つ目と2つ目の考え方を統合したような考え方といえるでしょう。
 実際のビジネスの世界では、この3番目の考え方が最も自然かもしれません。つまり、組織は環境などの影響によって自然と変わっていってしまう部分と、意図的に変わっていく部分の双方が折り合いながら変化していくものと考えるのが、現実の姿だといえます。しかしながら、本書では道具としての組織という観点から、組織を意図的に変えていく考え方を中心に見ていくことにしましょう。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』268~269頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 個人が変化し現場での運用が変化していく中で、つまりボトムアップ的に組織が変わっていく面もあるでしょうが、経営者によって意図的に変化させる、つまりトップダウン的に組織が変わっていく面もあるでしょう。
 このように、同じ内的な変化であっても、1つ目の変化(#300)をボトムアップ型、2つ目の変化(#301)をトップダウン型と整理することもできるでしょう。
 もちろん、受動的な変化をトップダウンで達成する場合もあるでしょうから、必然的な関係ではありませんが、様々な切り口から分析できることは、分析の幅を広げます。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 会社と外の関係で見ると、環境の変化に対して後から会社が変化していくことが議論されています。
 けれども、環境の変化を見越して先に会社が変化していく方法や、さらに会社の方から環境を変化させていく方法もあります。後者は、特に規制が厳しく、監督官庁の権限が大きい業界で見られます。会社の側から規制の在り方を変えてもらうように監督官庁にロビーイングしたり、さらに根本的な変化として法改正を求めてロビーイングしたりする方法が顕著です。
 さらに、例えば流通改革と言われるように従来の流通ルート(商社や市場を通す方法)でなく、ネットを使うなどの方法で生産者と消費者が直接結びつくような方法によって新たな市場のルールが出来上がります。古いところでは、家電量販店という業態は、カメラの安売り事業者が販売商品を増やしていきながら確立していきましたが、これも会社が市場に働きかけ、競争環境を変化させた例と言えるでしょう。

3.おわりに
 会社組織の変化は、変化することが目的ではなく、変化することは手段に過ぎませんから、環境と会社の関係を見極めることが必要です。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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